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第84話 愛
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「この人も、あの鉄たちに寄生されてったこと?」
ゼマはララクの元に駆け寄り、すでにアイアンロッドを抜いていた。
「……でも、寄生されたら操り人形のようになるはずじゃ」
これまで出会ったアイアンデーモンの様子と、ディバソンはまるで違う。見た目は、普段通りとなんら変わらない。
が、やはり雰囲気は何かおかしさを感じる。
「おれは別に操られちゃいねぇ。あいつらの力は取り込んだがな。うぉぉぉらぁぁ」
全身に力を込めると、気張り始めるディバソン。すると、彼の筋肉の内側から、大量の鉱石が溢れ始める。
ガチャガチャとしたそれは、ディバソンの体をまとわりつくように増殖していく。
そして、先ほどのアイアンデーモンと酷似した姿をしている。
しかし、彼の元々の体躯のデカさも含めて、より凶悪さを感じる風貌になっている。
「取り、込んだ?」
はきはきと語るディバソンの言葉全てが、ララクには信じがたい真実だった。
「あぁ、そうだ。面白れぇことに、こいつらはおれ自身が拒否しなければ、意識を保つことが出来んだよ。
元の姿にだって戻れるし、万々歳さ」
両手を広げて、自慢げに語りだす。アイアンデーモンは寄生モンスター。そのため、寄生されれば自分の体を取り戻そうとするのが、生物として当然の行為だ。
しかし、それがかえって意識を保てなくなる原因となるようだ。寄生先と寄生生物の共生をディバソンは成功させたのだ。
「それはご勝手にどうぞ、って感じだけど。ララクを襲う必要はないんじゃないの?」
意識が保たれているということは、アイアンデーモンの指示で襲い掛かったというわけでない。つまり、明確な敵対意識を持ってララクに攻撃を仕掛けたということなる。
「おれの弟子にしてやろうと思ってな。絶対におれの元から離れない、忠実な弟子によぉ」
その行動にいたった動機を淡々と語る。罪の意識など、感じていない様子だった。
「まさか、他の人を寄生させたのはあなたか!?」
アイアンデーモンの集団に抱いていた疑問に、ディバソンの意志を聞いてようやく答えが出たようだ。
「あぁ、そうだぜ。せっかく仲間にしてやったていうのに、おまえらが倒しちまうからよぉ。だから、代わりにおまえらを、おれの永遠の弟子にしてやるよ」
彼はまるで今までハンドレッドがやってきたことを正確に把握しているような口ぶりだった。しかし、あの場に彼はいなかったはず。
「勘弁。あんたみたいなおじさん、好みじゃないんだよね」
彼の勧誘を一蹴するゼマ。おそらく、普通のパーティーの加入だったとしても断っていただろう。
「がっはっはっは。まぁそうだろうな。おれはもうおいぼれだ。おまえらみたいな若い連中が羨ましくてありゃしねぇ。
おい、ララク。
おまえのあのスキルの数々、ほれぼれするぜ。おまえが噂の、『隠れスキルで強くなった冒険者』だったんだな」
ディバソンは最近、ララクの噂を他の冒険者たちから聞いたことがあった。それが広がり、首都は一瞬だけ、隠れスキル探しが流行した。
「なんのことか分からないけれど、ボクも今はあなたの弟子にはならない。どうしちゃったんだよ、ディバソンさん」
以前の人柄を知っている分、モンスターと一体化してしまったその姿に混乱している。
「お前らみたいに、若い奴はおれの誘いにはのらねぇ。それは、おれがもうただの老人だからって気がついたんだ。
お前はいいぜ。だが、おれには隠れスキルはねぇんだよ。
だからおれは、モンスターに魂を売ることにしたのさ。老いていくだけのおれには、こうするしかもう手はねぇんだ!」
ディバソンは冒険者としては、かなり限界な年齢になっている。彼の年齢以上になると、その多くは引退することが多い。
レベルは高くなると、簡単なことでは上がらなくなる。
さらに、年を取れば体にガタがやってくる。
常に現役でいるのは、命を張る仕事なのでそう簡単なことではない。
隠れスキルのような一気に強力な力を得れる可能性も、彼にはないようだ。
「ちょっと極端すぎない?」
ゼマは彼の主張に全く理解を示さない。ディバソンのことをよく知らないというのもあるし、何より老いなど彼女にはまだ遠い話だ。
「ボクもそう思います。それに、カリーエさんは、あなたのことを師匠って慕っているじゃないか」
ディバソンの一番弟子・穴掘りガール カリーエ。彼女は自分がアイアンデーモンに取りこまれた後も、師匠の行方を気にかけていた。自分の安否よりも先に。
「あいつだっていつかはおれを離れるさ。師匠を超えたい、って口うるせぇからな。だがよぉ、超えた後はどうだ?
おれは必要のねぇ、ただのオヤジになるだけだ。
だから、あいつはおれの元から離れねぇようにしてやったんだ」
弟子と師匠。技や知識を受け継いでいけば、教え子は成長していくことだろう。そしていつか、憧れの人を追い抜かす日がくるかもしれない。
彼はそれに怯えている。若き才能が自分の前に現れることを。
「カリーエさんもあなたが寄生させたんだな」
ララクはカリーエが何故、熟知しているはずのアイアンデーモンの餌食になってしまったのかを理解できた。師匠であるディバソンが根回ししていたとしていれば、不意を突かれても無理はない。
「あぁ。仕方ねぇのさ。あいつを弟子でいさせるにはこうするしかない」
歪んだ愛、とでもいうのだろうか。人は恨みの対象でなくても、人を傷つけることがある。勝手に1人で思い込み、自分勝手に行動する危険性を孕んだ知能生物といえる。
「そんなことしなくたって、カリーエさんはあなたの元を離れない。彼女は確かに「師匠を超えたい」と言っていた。
けど、それはあなたの元から離れようとしているわけじゃない」
「おいララク、随分知ったような口をきくじゃねぇか」
ディバソンが言ったように、ララクは確信をもって語っていた。彼の表情からは、ひどく悲しみと怒りが入り混じった複雑な思いを感じる。
ゼマはそれを黙って見守っていた。
「知っているから。ボクは短い期間だけど、あなたたちの仲間だったから」
ゼマはララクの元に駆け寄り、すでにアイアンロッドを抜いていた。
「……でも、寄生されたら操り人形のようになるはずじゃ」
これまで出会ったアイアンデーモンの様子と、ディバソンはまるで違う。見た目は、普段通りとなんら変わらない。
が、やはり雰囲気は何かおかしさを感じる。
「おれは別に操られちゃいねぇ。あいつらの力は取り込んだがな。うぉぉぉらぁぁ」
全身に力を込めると、気張り始めるディバソン。すると、彼の筋肉の内側から、大量の鉱石が溢れ始める。
ガチャガチャとしたそれは、ディバソンの体をまとわりつくように増殖していく。
そして、先ほどのアイアンデーモンと酷似した姿をしている。
しかし、彼の元々の体躯のデカさも含めて、より凶悪さを感じる風貌になっている。
「取り、込んだ?」
はきはきと語るディバソンの言葉全てが、ララクには信じがたい真実だった。
「あぁ、そうだ。面白れぇことに、こいつらはおれ自身が拒否しなければ、意識を保つことが出来んだよ。
元の姿にだって戻れるし、万々歳さ」
両手を広げて、自慢げに語りだす。アイアンデーモンは寄生モンスター。そのため、寄生されれば自分の体を取り戻そうとするのが、生物として当然の行為だ。
しかし、それがかえって意識を保てなくなる原因となるようだ。寄生先と寄生生物の共生をディバソンは成功させたのだ。
「それはご勝手にどうぞ、って感じだけど。ララクを襲う必要はないんじゃないの?」
意識が保たれているということは、アイアンデーモンの指示で襲い掛かったというわけでない。つまり、明確な敵対意識を持ってララクに攻撃を仕掛けたということなる。
「おれの弟子にしてやろうと思ってな。絶対におれの元から離れない、忠実な弟子によぉ」
その行動にいたった動機を淡々と語る。罪の意識など、感じていない様子だった。
「まさか、他の人を寄生させたのはあなたか!?」
アイアンデーモンの集団に抱いていた疑問に、ディバソンの意志を聞いてようやく答えが出たようだ。
「あぁ、そうだぜ。せっかく仲間にしてやったていうのに、おまえらが倒しちまうからよぉ。だから、代わりにおまえらを、おれの永遠の弟子にしてやるよ」
彼はまるで今までハンドレッドがやってきたことを正確に把握しているような口ぶりだった。しかし、あの場に彼はいなかったはず。
「勘弁。あんたみたいなおじさん、好みじゃないんだよね」
彼の勧誘を一蹴するゼマ。おそらく、普通のパーティーの加入だったとしても断っていただろう。
「がっはっはっは。まぁそうだろうな。おれはもうおいぼれだ。おまえらみたいな若い連中が羨ましくてありゃしねぇ。
おい、ララク。
おまえのあのスキルの数々、ほれぼれするぜ。おまえが噂の、『隠れスキルで強くなった冒険者』だったんだな」
ディバソンは最近、ララクの噂を他の冒険者たちから聞いたことがあった。それが広がり、首都は一瞬だけ、隠れスキル探しが流行した。
「なんのことか分からないけれど、ボクも今はあなたの弟子にはならない。どうしちゃったんだよ、ディバソンさん」
以前の人柄を知っている分、モンスターと一体化してしまったその姿に混乱している。
「お前らみたいに、若い奴はおれの誘いにはのらねぇ。それは、おれがもうただの老人だからって気がついたんだ。
お前はいいぜ。だが、おれには隠れスキルはねぇんだよ。
だからおれは、モンスターに魂を売ることにしたのさ。老いていくだけのおれには、こうするしかもう手はねぇんだ!」
ディバソンは冒険者としては、かなり限界な年齢になっている。彼の年齢以上になると、その多くは引退することが多い。
レベルは高くなると、簡単なことでは上がらなくなる。
さらに、年を取れば体にガタがやってくる。
常に現役でいるのは、命を張る仕事なのでそう簡単なことではない。
隠れスキルのような一気に強力な力を得れる可能性も、彼にはないようだ。
「ちょっと極端すぎない?」
ゼマは彼の主張に全く理解を示さない。ディバソンのことをよく知らないというのもあるし、何より老いなど彼女にはまだ遠い話だ。
「ボクもそう思います。それに、カリーエさんは、あなたのことを師匠って慕っているじゃないか」
ディバソンの一番弟子・穴掘りガール カリーエ。彼女は自分がアイアンデーモンに取りこまれた後も、師匠の行方を気にかけていた。自分の安否よりも先に。
「あいつだっていつかはおれを離れるさ。師匠を超えたい、って口うるせぇからな。だがよぉ、超えた後はどうだ?
おれは必要のねぇ、ただのオヤジになるだけだ。
だから、あいつはおれの元から離れねぇようにしてやったんだ」
弟子と師匠。技や知識を受け継いでいけば、教え子は成長していくことだろう。そしていつか、憧れの人を追い抜かす日がくるかもしれない。
彼はそれに怯えている。若き才能が自分の前に現れることを。
「カリーエさんもあなたが寄生させたんだな」
ララクはカリーエが何故、熟知しているはずのアイアンデーモンの餌食になってしまったのかを理解できた。師匠であるディバソンが根回ししていたとしていれば、不意を突かれても無理はない。
「あぁ。仕方ねぇのさ。あいつを弟子でいさせるにはこうするしかない」
歪んだ愛、とでもいうのだろうか。人は恨みの対象でなくても、人を傷つけることがある。勝手に1人で思い込み、自分勝手に行動する危険性を孕んだ知能生物といえる。
「そんなことしなくたって、カリーエさんはあなたの元を離れない。彼女は確かに「師匠を超えたい」と言っていた。
けど、それはあなたの元から離れようとしているわけじゃない」
「おいララク、随分知ったような口をきくじゃねぇか」
ディバソンが言ったように、ララクは確信をもって語っていた。彼の表情からは、ひどく悲しみと怒りが入り混じった複雑な思いを感じる。
ゼマはそれを黙って見守っていた。
「知っているから。ボクは短い期間だけど、あなたたちの仲間だったから」
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