死んだ君が目の前に現れた

ぼの

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7 自殺の理由

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西陽が部屋に差し込んできた。

しばらく寝てしまっていたらしい。

起き上がり前を向くとさくらと目が合った。

「おはよう。優希。」

「お、おはよ......ごめん寝てた。」

さくらは俺が寝ている間もずっとそばに居てくれていたらしい。

冷めたコーヒーを口に運ぶ。


「寝言でさくらの名前呼んでたよ?」

「ほんと?少し昔の夢見てたんだ......さくら。悪かった、あの時気付けなくて。」

「優希は謝らないでよ......」

二人の間を再び沈黙が通り過ぎる。なぜかこの空間にもしんみりしてしまう。

突然、ぐうぅとお腹が鳴った。

「そう言えばお昼食べてなかったな......」

「でも、今時間的に微妙だよ?」

「そうだな......もう少し我慢するよ。
さくら、コーヒー飲む?」

「うん!お願いします!」

寝ている間に見ていた夢があまりにハッキリと思い出せるので、あの時のことが手に取るようにわかった。

そしてさくらの心情に気づけなかった自分の姿も、そこに存在していた。

さくらと会話をしながら、僕は台所に行き再び湯を沸かす。

時計は午後の四時を過ぎていた。
そんなに寝てしまっていたのか。

コーヒーを入れて、再びさくらの前にコップを置いて、一口。

カップを置いたさくらはまた話し始める。

「優希さ......私が死んじゃった時、怒った?」

「......まあ、少しね。
 でも、なんで自殺なんかしたのか、理由もわからなかったから......」

「怒った」という表現は少し違う、自分に対しての怒り、そして状況を呑み込めない自分の愚かさに屈服していた。

とにかく、あの時はさくらが死んだことが本当なのかを確かめたかった。

当時の僕の頭の中で、さくらが自殺するなんていう考え方は微塵もなかった。

さくらはまた重い口を開ける。

「実は優希が引っ越してから、お父さんの会社で一週間体験みたいな形で働くことになったの。 」

「そっか、それは約束だったもんね」

「でもそこね、初日過ぎると過度な仕事内容課せられたり、上司からのセクハラとかパワハラも当たり前で......

私......耐えられなくて。」


「そんな......」

僕はそのセリフを聞いて言葉が出なかった。

僕に力があれば、言わすぐにでもさくらをいじめた人を殴りたい気分になった。

その時、僕ははっと思い出して、スマホで検索をかける。


一番上に上がったのは、一年以上前のニュースだった。
水崎産業。従業員に過度な労働と上層部からのパワハラ、セクハラ問題を告発。水崎社長、取締役などが表明......

僕はその日、このニュースをテレビで見ていた。

その時の僕は現実を受け入れることに慣れている最中で、あまら興味を示さなかった。

でもたった今、さくらの口からその行為の矛先がさくらに向いていたなんて、当時の僕はそんなこと思いもしなかったのに。

「......守ってあげられなくてごめん。」

僕は怒りと自分への情けが生まれて、言葉が出なかった。

もっと頼れる人間になれば良かった。

俯いている僕に、さくらはまた言葉を放つ。

「それでも、今こうして優希に会えてるんだから、私は良かったなんて思ったりもするよ。 」

そのセリフは、今の僕にとって光のように明るく、暖かい言葉だった。

「ありがとう。嬉しいよ。
でも、さくらは幽霊だ。さくらに触ることも出来ないし、二人で外を歩くことも出来ないじゃないか。」


とてももどかしい気持ちだった。
目の前に愛する人がいるのに、守ってあげたかった人がいるのに、抱きしめることすら出来ないなんて。

「そうだよね......でも、姿は変わっても、優希のそばにいるよ。」

さくらが幽霊になってまで、僕の目の前に現れたことに僕は喜んでいた。

「たぶん、私が死んだこと、詳しく説明されなかったよね。その事も、謝りたい。」

「お願い、さくらは謝らないで」

たしかに、今さくらの話の通りなら、今までの事も全て辻褄が合う。

大体想像はできた。その時はまだ社内問題も公にはなっておらず、裏で警察も糸を引いていたんだう。いわゆる口封じだ。



その時、5時を知らせる鐘が鳴り響いた。

「夕飯作るよ。 何かリクエストある?」

「じゃあ......優希が1番好きなもの。」

「......わかった! 」


僕が一番好きなもの。
僕は台所に立ち、準備を始める。

一番好きと言うよりは、自分が作れる料理の中で一番自信のある料理。

準備をしている後ろで、さっきまでリビングに居たさくらが話しかけてくる。


「でも優希、いつから料理するようになったの?」

「こっちに引っ越してから、二人で過ごすんだから料理の1つくらいできた方がいいだろ?」

「へぇー、凄いなぁ......」




僕は出来上がったハンバーグを机の上に並べる。

そしてひとつをさくらの写真の前に。

「いただきます。」

まだ信じられない。こんな日を、僕ら二人で過ごすはずだったのに。


二人で食卓を楽しんでいると、さくらがこんな質問をしてきた。


「そう言えば大学どんな感じ!?」


「んー、えっとね......」


はっきり言って、当時の僕にはさくらの居なくなって、一人で大学生活を送っていける気力はほとんどなかった。

でもそれをさくらには言わないことにした。

一人でも、何とかここまでやってきたんだから。
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