【完結済】虐げられ身投げした子爵令嬢は、女嫌いの黒髪王子に庇護されて溺愛されました

北城らんまる

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エピローグ

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 わたしとヴェル様は国王陛下に結婚の報告をして、色んな人に挨拶をした。王子妃としてたくさんの人に笑顔で挨拶するのはとても疲れたけれど、ヴェル様のためだから頑張れる。みなさん結婚を喜んでくれる人ばかりで、本当に驚いた。
 この時初めてヴェル様のお母様……第三王妃様に会った。ヴェル様と同じ長い黒髪で、とても綺麗な人。第三王妃様もわたしのことを歓迎してくれて「あの子は不器用だからフェリスちゃんが面倒見てあげてね?」と微笑まれた。び、美人の迫力ってすごい……。もちろんわたしは頷いた。

 色んな夜会に出席して、色んな上流貴族の人たちと交流もした。
 わたしが元子爵令嬢だからと嫌味を言う人はいなかった。
 ヴェル様は「フェリスが堂々としているからだ」と言ってくれた。そうかな? ちゃんと出来ていたみたいで、とっても嬉しい。「あとは単純にフェリスが可愛いからな」って耳もとで囁かれたときは、ちょっと照れた。……ヴェル様って本当にずるい。


 色んな人への挨拶回りも終わり、王城に戻ってきた。
 お昼の時間、わたしはヴェル様に呼ばれて執務室を訪れた。

「フェリス」
「はい」

 ヴェル様は自分の膝をぽんぽんと叩いて、わたしに座る様に促してくる。

 ……あの、それ座る必要あります???

 わたしが訝し気な表情を浮かべると、ヴェル様は笑みを浮かべて「俺の癒しになる」と至極真面目な顔で言う。はぁ……癒しですか……。
 なんだか妻というより子どもみたいな扱いにモヤモヤするけど、わたしもヴェル様のイスに座るのは好きなので、結局座ってしまう。……こんなことするから子どもっぽく見えるのかな。

 ヴェル様もヴェル様で、わたしが座ると必ず頭を撫でてくれる。
 最初に撫でられた時は嬉しいというより戸惑いの方が大きかったけれど、好きという感情に気付いてからはとても嬉しい。ヴェル様は手が大きくてゴツゴツしている。わたしを水から掬い上げてくれたこの手が、とっても好きだ。

「そういえば、あのときは…………拒絶しなかったが大丈夫だったのか?」
「あのとき……?」

 どのとき……?

「あ、もしかしてゴル…………」

 わたしが元婚約者の名前を出そうとすると、ヴェル様に手で口を覆われてしまった。見上げてみると、すごく機嫌が悪そう。……名前は出さない方がいいのかな? わたしはヴェル様が続きを言うのを待った。

「蹴り飛ばしていいと言ったが、あの時の君は固まっていた。本当は俺にキスされて嫌だったが、怖くて拒絶できなかったというオチじゃないのか?」

 あ…………それですか。
 あのとき、ヴェル様がわたしに近づいてきて、ヴェル様の唇がわたしの……唇からわずかに離れた場所に当たった。唇同士ではないとはいえ、キスはキスだ。ヴェル様はわたしが怖かったのではないかと心配してくれている。わたしはすぐに首を横に振って否定した。

「ちょっと驚いただけです」
「本当か?」
「本当です」
「嘘ついてないか?」
「ついてないです」
「ならいいが。あのあと、そのことをスザクに報告したら『ムードもへったくれもありません!』と怒られたからな。少し心配していた」

 ムード…………確かになかったかも。
 ヴェル様はあの人の心を折るために、見せつけたようなものだから。
 
 もしかして、ヴェル様って結構性格悪い……?

「失礼なこと考えてないか?」
「いえ、そんなことありません」
「俺の性格について思う所があるんじゃないか?」
「え、なんで分かったんですか!?」
「フェリスは分かりやすいからな」

 ヴェル様は、わたしの顔を覗き込むように体を横に倒した。

「俺はまぁ、性格悪いだろうな」
「自覚あるんですね」
「ああ。でもムカついた奴にだけしか性格の悪さは出さないようにしている。アレを思いついたのも、アイツがどんな顔をするのか見たかったというのが本音だな」
「えぇ…………」

 ドン引きすると、ヴェル様は慌てたように唸った。

「待て待て! 確かにそういう理由もあるが、俺が女嫌いだというイメージをこれ以上フェリスに持ってほしくなかったんだ」
「わたしが……?」

 ヴェル様は大きく頷く。

「フェリスの告白は嬉しかった。でも俺は本当に女嫌いだから、そのせいで『俺がフェリスも嫌っている』という風になっていると思って、焦ったんだ」

 告白……。あ、わたしあの時、公開告白したんだった……!
 あの時は何も思わなかったけど、今になって思うととても恥ずかしい。

「一つだけ訂正させてくれ。確かにこの契約結婚は、フェリスを庇護するためのものだ。恋愛感情はない……と、最初は俺も思っていた」
「最初は……って、その言い方だと今はそうじゃないって聞こえますけど」
「その通りだ」

 私はヴェル様を見上げる。
 ヴェル様は、少しだけ視線を逸らしていた。

「……と思う」
「思う!?」
「いや、俺もよく分からない。正直、こんな感情を持ったことがなくて、戸惑ってるんだ。ただ、あの男がフェリスの肩を掴んだ時、今までで感じたことがないくらい強い怒りを覚えた。フェリスは俺の妻になるんだから、見せつけたいと思ったのはそのせいだ……」

 見せつけたい……。
 わたしの顔が少し赤くなる。
 だってヴェル様が、わたしのことを”異性”として認識してくれている証拠だから。
 
 嬉しくないわけない。
 とってもとっても嬉しくて、わたしの頬は緩んでしまう。

「愛おしいと感じたのもその時が初めてだ。だからきっと、俺はフェリスのことが好きで、本当にフェリスを大切に思っているんだろうと……」

 ヴェル様は自分の頭を乱暴に掻いた。
 急に何をするのかと思って、わたしは目を見開いてしまう。
 ヴェル様はわたしを持ち上げて立ち上がった。
 
「飯にする!」
「はい?」
「飯を食べながらフェリスの頭を撫でれば気分も晴れる!」

 そう言って、ヴェル様はわたしを抱えながらカルラさんを呼んだ。


 あたふたしているヴェル様が、わたしにはなんだか可愛く思えた。



~(完)~
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