ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

文字の大きさ
111 / 308
第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還

35 地下組織合流部隊(1)

しおりを挟む



【地下組織合流部隊】

 時は少しだけ遡り、ガルドたちが、離宮に向かっていた頃。
 ガルドたちと別れたジルベルト一行は、まず一つ目の地下組織が身を潜めている場所に到着した。
 ジルベルトは、大きな屋敷の横の石造りの保管庫に向かい、大きな壁を「コン、コン、コン、コン、コン」と五回もノックした。
 すると中から扉が開いて、男が出て来た。

「お待ちしておりました。さぁ、お早く」
「ああ」

 ジルベルトたちは、素早く保管庫に内に入った。中は倉庫のようになっており、保管庫内に入ると、見張りの男がジルベルトにあいさつをした。
 
「宰相閣下。ご無事でなによりです。公爵がお待ちです」

 どうやらここの地下組織のトップは公爵のようだった。いきなりの大物の登場に、ジーニアスは少し驚いていた。見張りの男が、大きな木箱を動かすと、細い地下への階段が現れた。

「暗いので足元お気をつけください」

 見張りの男に案内されて、狭い階段を降りると、着いた場所は信じられないほど広い場所に多くの人間がいた。

「ジルベルト宰相!! お待ちしておりました!!」

 ジルベルトたちに高貴な男が話かけてきた。

「ダン伯爵。準備を任せてすまなかったな……偵察隊はいるか? こちらが、ハイマ国の王太子妃殿下の記録書記官のジーニアス殿と、ハイマ国の騎士団のレガード殿とロニ殿だ。彼らにベルンの街の様子を報告してくれ。私は公爵の元に向かう」

「かしこまりました」

 ダン伯爵と呼ばれた男が、返事をすると、ジルベルトは、ジーニアスに「後はお願いします」と言って、奥の扉に入って行った。

――旧ベルン国の貴族が作った地下組織。
 彼らはずっとベルン奪還の機会をうかがっていたのだ。

 イドレ国が他国を奪った場合、イドレ国の皇帝は指定した税さえ納めれば、占領した国の統治は、それぞれ貴族に任せている。だから、良識のある者が統治すれば、元の国よりも豊かになり、国を奪還しようなどいう声は上がらない。
 だが、今回旧ベルン国に派遣された男は、自分のことしか考えない人間だった。
 旧ベルン国の民に重税を課し、従わない者は武力でねじ伏せた。ベルン国を統治するために訪れたイドレ国の兵は、その男の部下が大半で、ベルン王都内で傍若無人に振舞った。
 他の兵は、ベルン国のように占領されて、渋々付いて来た者たちばかりなので、人数は多いが、兵の統率は取れていないし、意欲もない。

 だからこそ、旧ベルン国の騎士が解体せずに、ダラパイス国とハイマ国の国境付近でクローディアを捕えるために軍を動かしても気付かなかった。
 イドレの皇帝から任命されて、派遣された貴族が住む王都以外は、重税を課せられた以外は、放置されている状態だった。
 王都内でも、兵が通らないような道は、放置され荒れ放題になっているようだった。

 ジーニアスたちは、地下組織の貴族から現状を聞き文書にまとめた。

「なるほど、想像以上に使えない場所や、通れない道もあるのですね……感謝いたします」

 ジーニアスは、王都内の封鎖された場所や、危険な場所を偵察隊から聞き出し、それをまとめるとロニに渡した。
 偵察隊は、ジーニアスたちに向かって真剣な顔で言った。

「皆様もお気をつけください。この時間、外にいるのはイドレ国の兵と思った方がいい」

 偵察隊の言葉にジーニアスは「ありがとうございます」と言ったのだった。
 ジーニアスと偵察隊の話が終わった頃、ジルベルトと、旧ベルン国公爵が姿を現した。公爵は、ジーニアスに手を差し出しながら言った。

「あなた方が、スカーピリナ国王と、ハイマ国の王太子妃殿の使者でしたか……ご尽力感謝いたします」

 ジーニアスは、公爵の手を取ると「恐れ入ります」と言った。公爵は、レガードとロニとも握手を交わした。その後、ジルベルトはロニを見ながら言った。

「では、ロニ殿。公爵とは話は済みました。例の屋敷に向かって下さい。我々も次の場所に向かいましょう」

 ロニは「はっ」と言うと、ジーニアスやレガードも頷いたのだった。
 公爵の率いていた地下組織を出ると、ロニはローブをかぶって「それでは」と言って、ガルドやレイヴィンが国王と王妃を連れて来ることになっている屋敷に急いだのだった。






 それから、ジルベルトとジーニアスとレガートは、二つの地下組織を回り、残りはあと一つになっていた。
 もう深夜になっていたが、イドレ国の兵が私服姿で大きな声を上げて騒いでいた。最後の地下組織のある場所は酒場なども多く、灯りも多い。ジルベルトは人目のないところで灯りを付けると目立つので、あえて人の多い歓楽街の中に隠されている地下組織を最後に回ることにした。
 ジーニアスは酒場の前に、多くの松明をかかげて、異様な盛り上がりをみせている人だかりを見つけた。よく見ると、それはジーニアスもよく知っている光景だった。ジーニアスは国が違っても歓楽街というのは同じ文化があるのだと、興味深く思って、その場を通り過ぎようとした。

「もうすぐです」

 ジルベルトがそう声を上げた時。

「ん? おまえたち……見慣れない顔だな……」

 数人の私服を着た男たちに旧ベルン国の言葉で声をかけられた。偵察隊に夜に出歩いているのはイドレ国の兵だと言われたので、この男たちはイドレ国の兵なのだろう。ジルベルト以外は、あえて顔を出し堂々と歩いていた。偵察隊から、歓楽街では顔を出して歩いていた方が声をかけられないと聞いていたので、まさか声をかけられるとは思わなかった。

 ジルベルトと、レガードが背中に汗を流していると、ジーニアスが、レガードの前に片手を出しながら、旧ベルン国の言葉で声を上げた。

「最近、強い者が居ないと、嘆いておられたのでは? この者は大変腕っぷしが強く皆様を楽しませてくれると思いますよ?」

 ジルベルトと、レガードは『ジーニアスは一体何を言っているんだ?!』と思ったが、表情には決して出さなかった。すると男は上機嫌にジーニアスの肩を抱きながら言った。

「そうか、あんた強いヤツを連れて来たのか。最近知った顔ばかりで盛り上がらなかったんだ。確かにそっちの男は良い身体している。よし、行こう」

 ジーニアスの読み通り、少しお酒も入ってほろ酔い気分の男たちはジーニアスの言葉で、警戒心を霧散させた。

「ええ」

 ジーニアスたちは、イドレ国の兵と思われる男に肩を組まれて、男たちにどこかへ連れて行かれそうになった。レガードはわけがわからなかったが、こんなところで騒ぎを起こすわけにもいかないので、ジーニアスに黙ってついて行くことにした。するとジーニアスは、ジルベルトの方を向くと早口で言った。

「ああ、彼は私たちの従者です。先に宿に戻り、カギを開けておきなさい。宿が閉まってしまいます」

 するとジーニアスに声をかけてきた男は、「ああ、宿は開けておいた方がいいな」と言ってジルベルトを解放した。

 ジルベルトは目を大きく開けた後に、ジーニアスの意図を汲み取り「かしこました」と言って、走って地下組織に向かった。
 ジルベルトを逃がすことに成功したジーニアスと、レガードは異様な盛り上がりを見せている人だかりの中に、連れて行かれた。
 そこでは、男たちが腕相撲の勝負をしていた。

「おい、参加者を連れて来た」

 ジーニアスたちに声をかけてきた男が、中央で男同士の熱い腕相撲の実況をしていた男に声をかけた。レガードはジーニアスに近付くと耳元で尋ねた。

「ジーニアスさん……まさか私にこれに参加しろ、とは言いませんよね?」

 ジーニアスは困ったように言った。

「申し訳ございません。つい成り行きで……私が出てもいいですが、瞬殺されます。……一応、強い人を連れてきたと伝えたので……レガードさんに出て頂きたいのですが……」

 レガードは、ため息を付くと「わかりました」と言った。
 中央で実況してた男が、大きな声でレガードに向かって言った。

「おお~これは新たな挑戦者だ!! 兄ちゃん負けたら、出場料1万ゼミーを払いな。勝ったら、賞金5万ゼミーだ!! みんな~~~!! 今日は、なんと、飛び込みルーキーの登場だ~~~~!!」

 腕相撲を見ていたお客さんは、レガードの登場にかなり盛り上がっていた。
 どうやら、試合中は上半身を脱ぐようで、レガードが上半身に着ていたシャツを脱ぐと、周りから歓声が上がった。

「すげー身体……」
「あれは、期待できるな!」
「腕、見ろよ!! 脱いだら、なおさら凄い身体だな……」

 レガードは脱いだ服をジーニアスに渡すと「いってきます」と言って、腕相撲の向かったのだった。
 ジーニアスは、レガードの鍛え上げられた鋼のような背中を見てポツリと呟いた。

「レガードさん……着やせする方だったんですね……」

 そう言って、自分の身体を見た後に「人は人」と言って、レガードを応援したのだった。






 ジーニアスの機転のおかげで、ジルベルトは無事に最後の地下組織に到着した。ジルベルトは、街に馴染んでいる仲間に、ジーニアスとレガードの迎えを頼んだのだった。




しおりを挟む
感想 955

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。