ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第四章 お飾りの王太子妃、郷愁の地にて

1 ガラマ領邸へ(1)

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「降って来たな……」

 馬車に雨が当たる音が聞こえて来た。辺りは薄暗く、風の音も聞こえる。私は雨と風の音を聞きながら口を開いた。

「そうね……あと、どれくらいなのかしら……みんなが濡れてしまうわ」

 そろそろ今日の目的に着くはずだが、私たちは雨に降られてしまった。段々と雨音は大きくなる。
 そしてとうとう、外は土砂降りの雨になってしまった。私たちは馬車の中にいるからいいが、多くの人は馬で移動している。

「今日の宿泊地は、ヒューゴさんの御学友の方が領主を務めるガラマ領邸です。あと一刻ほどで到着する予定になっております」

 ジーニアスの報告を聞いていると、さらに雨と風が激しくなってきた。雨のせいか町は静まりかえっていた。そしてブラッドが外を見ながら呟いた。

「この辺り家は多いが……随分と人の気配がないな……」

 家だけではなく道沿いにはお店などもあるが、人がいる気配はなかった。

「この辺りは、ベルンと近いですから、ベルン国がイドレ国になって客足が減ってしまったのでしょうか?」

 ジーニアスがそう言った時、大きく馬車が揺れた。そして私の身体が大きく浮き上がった。

「クローディア殿!!」

 気が付くと前に座っていたブラッドに抱き寄せられていた。
 馬車が傾いている?
 馬車が斜めになっていて不安になっていると、ラウルがすぐに近付いて来て、ブラッドは少しだけ窓を開けた。

「ご無事ですか? 馬車の車輪がぬかるみにハマってしまいました。すぐに引き出しますので、しばらくお待ち下さい。また揺れますので、何かに掴まって衝撃に備えて下さい」

 ブラッドは私を膝に抱き上げながら頷き窓を閉めた。私はブラッドの膝に乗せられ、力強く抱きしめられている。
 さらにブラッドの心音も聞こえて来る。少し早い心音に私の心音が重なる。そのくらいの至近距離で近付いていると、しばらくして大きな衝撃と馬の鳴き声が聞こえた後にまた馬車が水平になった。 
 車輪がぬかるみから出たようだった。
 すぐにラウルが馬車に近付いて来て「もう大丈夫です」と言った。ようやくほっとすると、ブラッドが私を抱きしめる手を緩めた。そして、リリアを見ながら言った。

「リリア嬢。悪いが席を代わってくれないか?」

 リリアは「かしこまりました」と言って、ブラッドと席を代わった。

 ブラッドは私の隣に座って、私の腰を抱き寄せ、長い手を腰のあたりから私のお腹に回した。

 近、近い!! いや、気にするな。これは……シートベルトの代わりだ。

 ブラッドの体温をいつも以上に感じて少し顔は熱くなりそうになったが、これはシートベルトなのだと言い聞かせたのだった。相変わらず雨は強くて、馬車はかなり揺れていた。

「領主が住む街にほど近い街道がこれほど悪路なのか……」

 ブラッドの呟きを聞いて私は再び外を見た。確かに町にはほとんど灯りもついていなかった。





 その後、ようやく今日の目的地であるガラマ領邸の門に到着した。
 ジーニアスは馬車の揺れが酷く、馬車に酔ってしまったようだが、私はブラッドに抱き寄せられていたから揺れをそこまで感じなかったし、リリアも問題なさそうだった。
 馬車が完全に停車すると、馬車に当たる雨の音が止んだ。屋根のある場所に着いたのかもしれない。しばらくして、ラウルの声が聞こえた。

「到着いたしました」

 ラウルの言葉を聞いてリリアが馬車の扉を開けると、ジーニアスに肩を貸して馬車の外に出た。私は、ブラッドに抱き上げられて馬車を出た。

 馬車から降りると、いつもはすぐ近くに居てくれるアドラーやガルドが離れていた。雨で濡れていたから私を汚さないようにと離れてくれているのだろう。
 ラウル、アドラーや、ガルド、ヒューゴは全身濡れて、さらに泥だらけだった。きっと馬車を持ち上げてくれた時に泥がついたのだろう。

「みんな、ありがとう。早くお風呂に入れるといいけれど……」

 私がそんなことを話していると、ガラマ領の領主だと思われる人物が、先に到着していたレオンとレイヴィンと一緒に現れた。

『ようこそ、王太子妃殿下。私はガラマ領の領主ダンテと申します』

 私はダンテにダラパイスの言葉で答えた。

『クローディアです。ダンテ様、歓迎感謝いたします』

 私が簡単にあいさつをした後に説明を聞いた。濡れたみんなはこれから訓練場脇で、汚れを落とした後にお風呂の入れるようだった。
 そして、私たちは先に部屋に案内されることになった。


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