ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

文字の大きさ
161 / 308
第四章 お飾りの王太子妃、郷愁の地にて

29 新たな計画

しおりを挟む

 私が思いついたこと実行するために再び忙しい日々が訪れた。
 
「クローディア様のお手紙が無事にレオン陛下とアンドリュー王子に届けて貰えるように手配いたしました。明日にはアンドリュー王子に、そして明後日にはレオン陛下に届くそうです」

 書類仕事をしていた私にリリアが報告してくれた。
 本来なゆっくりと過ごす予定だったが、朝からブラッドたちと一日話し合いをしていた。

「ありがとう、リリア」

 私がお礼をいうと、書類を見ていたアドラーが声を上げた。

「クローディア様のお考えはいつも私の想像を超えておられますが、今回はいつも以上です。アンドリュー殿下への内容はともかく……レオン陛下が納得して下さるといいのですが……」

 アドラーの言葉にラウルも頷きながら言った。

「それは私も危惧しております。お恥ずかしいですが……私は未だにクローディア様の策を完全に理解したわけではありません……ですが、ご安心下さい。今度の自分のするべき動きはしっかりと理解していますので、その点は問題ありません」

 私はラウルを見ながら微笑んだ。

「それで充分よ」

 レオンのことを知らなければ今回の策は立てなかった。でも、レオンなら絶対に乗ってくるとの確信があったのだ。

「クローディア様、そろそろお休みになられた方がいいのではありませんか? サフィール閣下が……かなり燃えていたようですから、今後もお忙しいかもしれませんよ」

 リリアの言葉で、私は思いついた案を伝えた時のサフィールを思い出した。

 ――いささか不安はあるが……ディアの頼みだ!! 私に任せておけ!!

 確かにサフィールは燃えていた。すると、ラウルが困ったように言った。

「燃えていたのはサフィール閣下だけではありませんでしたよ。ディノフィールズ殿も『面白い……最高な策だ。これがベルンを救った人物の策か……こんな歴史的瞬間に立ち会えるなんて……絶対に実現させる』と呟いておいででした」

 ラウルの言葉を聞いてそういえば、サフィールだけではなく、ディノもとてもご機嫌だったのを思い出した。

 ディノ、そんなことを言っていたんだ……私はリリアとアドラーとラウルと顔を見合わせて微笑んだ後に言った。

「ふふ、それもそうね」

 私たちが笑っていた時だった。
 ノックの音がしてラウルが対応すると、サフィールが凄い勢いで入って来た。

「ディア!! 見つけたぞ!! 彼らが例の物を作ってくれるそうだ!!」

「え!? もう職人を見つけて下さったのですか?」

 私が声を上げるとサフィールが得意気に言った。

「ああ、なんたってディアの頼みだからな。ディノが先に言って話をしている。今から……行くか?」

「行くわ!!」

 私たちは今回の作戦に使う物を用意するために工房にお邪魔することにした。




「ドレス工房……?」

 私たちはサフィールに連れられてドレス工房にやってきた。

「ようこそ、クローディア様!! お会い出来て光栄です!!」
「なんてお美しい!!」
「可憐だ……我が国の大公閣下が我々のような者たちに頭を下げるのも頷けます……」

 工房に入ると、皆が私を歓迎してくれた。どうやらサフィールは私の想像以上に尽力してくれたようで、胸が熱くなりながらも笑顔であいさつをした。

「はじめまして、この度は私の無理なお願いを聞き届けて下さってありがとうございます」

 私があいさつをすると、一番奥に座っていた男性が立ち上がりこちらに向かって歩いて来た。
 男性はかなり体格がいい。とてもドレスを作る職人とは思えない。傭兵と言われた方が納得するような筋肉の鎧を身に着けたように見える壮年の男性が私の前にまで来て立ち止まった。

「俺はこの工房の責任者だ。ハイマ国の王太子妃殿。弟子にドレスを任せてくれて感謝する。あなたのドレスを作ったおかげで弟子は、国際的な評価も得て自信をつけた。最近のあいつの作るドレスはどれも出来が良くてな。俺たちも鼻が高い。元々才能はあったんだが……あいつは気が弱くて……相手の望む既存のドレスを作るばかりで自分で考えて作るって機会に恵まれなかった……あいつは、あなたにドレスを任されて、死ぬほど頭と身体を使ったと言って誇らし気に笑っていた」

 結婚式のドレス?
 あ、もしかして……私がまだジーニアスのことをよく知らなかった時に、記録書記官にドレスのことで何か断罪に繋がることを書かれないために、ドレスの全てをお任せした……あのデザイナーの方??
 まさか、あんな後ろ向きな決断が、こんな幸運な結果になるなんて……。
 私は驚きながらも慌てて姿勢を正しながら言った。
 
「あなたが、彼のお師匠様ですか……。そうとは知らずに、こちらこそ結婚式の時は、お弟子さんに大変お世話になりました。あのドレスは本当に素晴らしい物でした」

 ――私のような偽りの花嫁には身に余るほどに……。

 私は、その言葉を飲み込んで目の前の工房の責任者を見上げた。

「ははは。まぁ、俺たち職人同士でないと繋がりはわからないものだ。ただ職人同士なら南はダブラーン国から北はもう今はイドレ国になっちまった国々まで繋がってるがな。ああ、遅くなってすまない。俺の名は、マイルだ。大公子息閣下から話を聞いた時は、正直断ろうかと思ったが……。閣下に頭を下げられるし、ハイマの王太子妃の頼みって言うじゃねぇか。そいつを断ったとなれば、弟子に顔向けできないからな。それにのは得意だ。任せてくれ」

 マイルは白い歯を見せて笑ってくれた。私は、アドラーとラウルと顔を見合わせると笑顔でマイルを見ながら言った。

「よろしくお願いします!!」

 職人たちは、みんな私を見て腕を上げて「お任せを!!」と答えてくれたのだった。
 こうして私は目的の物を作るために、ダラパイス国の職人の手を借りれることになったのだった。





しおりを挟む
感想 955

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。