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第六章 最強チーム、強大国へ
12 慧眼
しおりを挟む展望デッキに着くと、陸地に家がまばらに見えて遠くに町が見えた。
「先ほどからいつくか町が見えていましたが、もうすぐオーラム町が見えます」
どうやらこの先にオーラムの町あるようだ。
この辺りは随分と栄えているのね……
私がじっと町を眺めていると、階段を上って来る足音が聞こえた。視線を向けると、レガードとレイヴィンが姿を見せた。
「クローディア様、おはようございます!!」
レガードが今日も爽やかな笑顔であいさつをしてくれた。
今日はいつかの訓練の時のように額だけではなく首元まで汗が流れ、それが朝日を浴びて輝き、爽やかさに拍車をかけていた。
「おはよう、レガード。さっきの模擬戦、やっぱり舞を見ているようで綺麗だったわ」
レガードが本当に嬉しそうに笑った。
「本当ですか? 嬉しいです」
すると今度はレイヴィンが汗をかいた髪をかき上げ、爽やかさと言うよりも妖艶さという雰囲気の色気を振りまいた後に言った。
「おはようございます、クローディア様。もうすぐオーラムの町が見えますよ。あの町は交易の拠点として古くから栄えていた町ですので、かなり規模の大きな街です。立ち寄れなくて残念ですが、ぜひご覧下さい」
私はレイヴィンを見ながら言った。
「おはよう、レイヴィン。そうなのね……それは見るのが楽しみだわ」
そして私はレイヴィンを見ながら言った。
「レイヴィンは、小さな剣を両手に持って戦うのね」
レイヴィンが頷きながら言った。
「はい。馬上では違う武器を使いますが、このような狭い場所ではこの両手剣を使っています。両手剣の方が手数が多くて隙を作りにくいのです」
私はそれを聞いて納得した。
「ああ、なるほど……それで、剣を素早く動かすレガードと組んで練習しているのね。お互いが苦手な相手ってこと?」
私がレイヴィンとレガードを見ながら尋ねると、レガードは笑顔になり「ええ、その通りです。さすがクローディア様ですね」と喜び、レイヴィンとフィルガルドは驚いた顔をした。
そしてフィルガルドが口を開いた。
「クローディアはあれだけの練習を見て……そんなことまでわかったのですか?」
私はなぜそんなにフィルガルドが驚いているのかわからずに頷いた。
「はい……」
するとブラッドが口角を上げながら言った。
「ふっ、なるほど……通りで騎士団の砦の内部にたった2日目で入れたはずだ」
その時だった。
鐘の音が聞こえた。
「それでは、クローディア様。フィルガルド殿下、ブラッド様、失礼します」
レガードは鐘の音を聞くと、すぐに私たちにあいさつをして爽やかに階段を降りて行った。
「それでは、クローディア様と皆様。私もこれで」
レイヴィンもレガードを追うように、階段を降りて行ったのだった。
◇
レガードとレイヴィンが展望デッキから姿を消してしばらくすると、汗を拭きながらラウルが上がって来た。
そして私たちの近くまで来るとあいさつをしてくれた。
「クローディア様、フィルガルド殿下、ブラッド様。おはようござます」
ラウルは先ほどあれほど激しい戦闘訓練を行っていたとは思えないほど、にこやかな笑顔であいさつをしてくれた。
フィルガルドたちが「おはよう」とあいさつを返した後で、私もラウルにあいさつをした。
「おはよう、ラウル。ありがとう……もう、水賊対策を始めてくれていたのね」
私がラウルに感謝を伝えると、ラウルが微笑みながら言った。
「クローディア様が決意されたのです。このくらい当たり前です」
私はラウルの言葉に胸が熱くなるのを感じた。
昨日の私の言葉を聞いて、ラウルやアドラー、リリアはすでに動いてくれているのだ。
みんなの行動の速さに感動していると、フィルガルドがラウルに向かって尋ねた。
「ラウル、今はどのうような訓練をしているのですか?」
ラウルが背筋を伸ばしながら答えた。
「はい。元々ハイマの騎士や、スカーピリナ国の兵は広い場所で訓練してきました。ところが対水賊戦では、剣を振るえる範囲を限られているため、枠を設けそこから出ないようにしたり、周囲との間隔を意識したり、樽などの障害物を置いてそれを避けながら戦えるように訓練を行っております」
狭い範囲での戦い。
確かにハイマで訓練を見た時、かなり広い訓練場で訓練をしていた。
そしてブラッドがラウルを見ながら尋ねた。
「どうだ? ランヴェルトと手合わせして」
ラウルが眉を寄せながら言った。
「正直に申し開けますが……彼は私よりも腕が立ちます。悔しいですが……胸を借りている……というところです」
私はラウルの言葉に首を傾けた。
「そうかな? 以前、ラウルとガルドが訓練してた時の剣の音より、さっきの音の方が響いていたように思えるわ。そう実力差があるように思えないけど……」
私は思ったことを率直に口にした。
「え? 剣の……音ですか?」
ラウルが目を大きく開けて私を見た。だから私もラウルを真っすぐに見ながら答えた。
「ええ。そう、音。私は普段、馬車の中に居てみんなに守られているから、戦いの様子はわからないわ。でもね、以前リリアに教えてもらったの。剣の音で判断すればいいって。あれ以来、みんなの愛刀の音を聞いて形勢を判断しているの。それにさっきも実際に戦いを見たけれど、ラウルたちの動きは早すぎて、全く見えないから……情けないけど耳に頼るしかないのよ」
フィルガルドが私を見て驚いたように言った。
「クローディアは、剣の音で形勢を判断していたのですか? もしかして……音楽のようにですか?」
そう言われて自分でもようやく気付いた。私は目で見ても動きが早くてわからないが、剣の音は耳で正確に拾える。
「ああ、そうかもしれません。私……音楽のように剣の音を聞いて判断していたのかもしれません」
これまでの旅で私は多くの剣の音を聞いてきた。
それはいつしか音楽のように私の身体に沁み込むように耳に入っていたのかもしれないと思えた。
ブラッドが私をじっと見ながら言った。
「なるほど……あなたは、ピアノが弾けるだけではなく音に関する感覚が優れているのか……では、剣の音を聞いて、仲間かどうかわかるということか?」
私はそう言われて考えた。さすがに私もそれほど多くの剣の音を聞き分けられるわけではない。
だが、ずっと私の側に寄り添って、戦い続けてくれた……そんな人たちの剣の音ならわかる。
「私がわかるのは、ずっと私を側で守ってくれて、馬車からよく聞こえていたアドラーと、ラウル、ガルドの剣の音だけよ」
ブラッドとフィルガルドが唖然としなが私を見ている横で、ラウルが私の手を取った。
「今、私はこの心の中が異様に波立つ感情を押さえられません。私の剣が……あなたにそれほどまでに届いていただなんて……!!」
私は泣きそうな顔をして笑っているラウルを見上げながら言った。
「いつも感謝しているわ……ラウル」
その時だ。
二階から鐘の音が聞こえた。
ラウルは名残惜しそうに私の手を見ると、首まで真っ赤にしながら言った。
「鐘が鳴ってしまいました。クローディア様、名残惜しいですが……私はこれで失礼します」
そして再び私を見て微笑むと手の甲にキスをして微笑んだ。
「(やはりあなたの絶望に沈む顔は見たくない……そのためなら――全てを捧げてもかまわない)」
ラウルは私には何も言わなかった。だが彼の瞳は確実に何かを訴えていた。そして、私を見つめた後に、ラウルは足早にその場を去って行った。
「あなたはラウルたちの剣の音がわかるのですね……クローディアたちが培ってきたこれまでの絆は、凄いとか、素晴らしいという……心から尊敬の念を抱いているのに、胸の中に嵐が吹き荒れるような落ち着かない気持ちになります。なぜこんなに心が乱れるのか、自分でもわかりません」
フィルガルドが切なそうな表情で言った。
するとブラッドが相変わらずの無表情のままで口を開いた。
「それについては……私も例外ではない……」
どれについてだろうか?
凄いと思っているということだろうか?
それとも、心が乱れていることだろうか?
私は超能力者ではないので、二人が一体どんな感情を抱いたのかわからなかった。
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