ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第六章 最強チーム、強大国へ

33 秘密の建物

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「絶好の探検日和ね!!」

 私が明るい陽の光の元、空を見上げながら言うと、ダグラスが乾いた笑いを浮かべながら言った。

「探検場所は地下だがな……」

 私はダグラスを見ながら言った。お互いの顔を見合わせた後に一瞬の沈黙……

「とにかく行きましょう!!」

 私はダグラスとみんなと一緒に昨日訪れた建物まで来た。
 そして、ダグラスが鍵を開けてくれた。
 中に入ると、すぐにジーニアスが本のような箱を手に取った。昨日のうちにみんなに簡単な説明は終えていた。

「あ、本当に箱ですね」

「そうなの……」

 アドラーが本を手にしながら言った。

「この紙……よくよく観察すると通常の紙と違いますね……」

 アドラーが私に差し出してくれた紙箱を私も触れて見た。
 
 ざらざらしてる。それにどこかで触ったことがあるような……

「あ!!」

 私は思わず声を上げた。

「どうされました??」

 ジーニアスに聞かれて私は「糊付けされた紙を乾かしたみたい」というとフィルガルドがうなずいた。

「そう言われてみるとそうですね……」

 そして本を置くとブラッドが上を眺めていた。

「何か気付いた?」

 私がブラッドに尋ねると口を開いた。


「建物自体は石造りなのに内部は、木造だ」

 するとリリアがうなずきながら言った。

「私も不思議に思っていましたが、木のあたたかみと石の強度を兼ね備えたということかと……」

「本当ね……石の建物の中に木の建物を建てたようね」

 私がしばらく見ていると、ダグラスが声を上げた。

「クローディア。準備ができたぞ」

「ありがとう!! じゃあみんな、ランプに火を付けて地下に向かいましょう」

 ダグラスは、地下への扉を開く用意をしてくれていた。内部は暗いと聞いていたので、私たちは全員ランプを持ってきていた。
 しかもこのランプは優れもので、火を使わずに暗い場所で光る石を使っている。スカーピリナ国にはよくあるものらしい。蛍光灯のような白い光が特徴だ。レオンが探検に行くならと言って貸してくれたのだ。

「クローディア。手を」

 フィルガルドが私に手を差し出しながら言ったのでその手を取った。

「ありがとうございます」

 私がフィルガルドに手を引かれて歩いているとダグラスが口を開いた。
 
「今日は歩きやすい服なのだな。せっかく運んでやろうと思ったのに残念だ」

 するとフィルガルドが笑ってない瞳で笑いながら言った。

「気遣い感謝しますが、私がいますので皇帝陛下のお手を煩わせることはありません」

 ダグラスがフィルガルドをからかうように言った。

「フィル、遠慮するな。ははは」

 フィルガルドは小さく息を吐いた。

「その呼び方に決まってしまったのですか?」

「ああ」

 フィルガルドとダグラスの掛け合いを聞きながら階段を降りると、机と本棚が置いておいてあった。
 私はフィルガルドと繋いでいた手を離した。

「フィルガルド、ありがとう。じっくり見るわ。みんなも何か気づいたら教えてね」

「かしこまりました」

 みんながそれぞれ散らばって捜査を始めた。
 私は、まず机に近づいた。何か仕掛けがあるという雰囲気もない。ごく一般的な机だ。

 何もないか……

 そして、この建物全体を見た。

 待って……ここが1階と同じ広さだとすると……ここだけだと狭いわよね……

 私は部屋の奥に歩いた。
 そして棚の並ぶ奥の壁の近くにブラッドが立っていた。

「ブラッド、壁に引っ付いてどうしたの?」

 ブラッドは壁に触れながら言った。

「壁に引っ付いているわけではない。私なりに探っている最中だ」

 私はブラッドを見ながら言った。

「もしかして、ブラッドも図書館とこの場所の広さが違うことが気になったの?」

 ブラッドは口角を上げながら答えた。そして壁をコンコンと叩いた。

「ああ、その通りだ。壁の向こうは空洞になっているようだが……完全にふさいであるようで入り口のような物はないな」

 私は「そう……」と言いながら、ブラッドを見ているとふと風を感じた。

 風? ブラッドの後ろから?

 私はブラッドの方に近づいた。

「どうした?」

 答えたかったが、風が止まりそうで私はその風を追うことに集中しながら、ブラッドに触れるくらい近づいた。

 ドン!!

「何を……」

 気が付けば、私はブラッドを壁に押し付けていた。
 その瞬間、くるりと壁が回って私はブラッドを下敷きにして、壁の向こう側に倒れてしまった。

「……なるほど……仕掛けに気付いたのか……」

 ブラッドの声がすぐ近くで聞こえる。

「……ん……あっ! ごめんなさい、ブラッド」

 気が付けば私はブラッドを床に押し付けていた。
 慌てて手を着くと、ブラッドの顔が至近距離で見えた。

 あれ……これって床ドン!? 
 そしてさっきは壁ドン!?
 いやいやいや、これはそういう意図じゃなくて……
 私は慌ててしまって、手を滑らせてしまった。

「きゃあ」

 すると再びブラッドの胸に倒れ込んでしまった。
 次の瞬間、背中と頭にあたたさを感じた。

 え……?

 気が付くと私はブラッドに抱きしめられていた。
 確実にブラッドの腕に力が込められ、きつく抱きしめている。心臓が早い。でもブラッドの心臓も早くて……思考が止まる。
 思わず顔を上げると、ブラッドが優し気に目を細めて私を見ていた。

「大丈夫か? クローディア殿」

「う、うん」

 ブラッドの少し早い心臓の音が聞こえて、身体が熱くなるのを感じる。
 するとブラッドが触れるか触れないかギリギリ、遠慮がちに頬を撫でながら言った。
 
「落ち着いたら、ゆっくりと立ち上がれ。急がなくていい……私は、しばらくこのままでも……かまわない……」

 ブラッドの目が優しくて、思わず固まってしまう。
 
「クローディア様!! 先ほどの音は……クローディア様!! どちらですか? こちらに向かったはずなのに……」

 壁の向こうからアドラーの焦った声が聞こえた。私はゆっくりと立ち上がって声を上げた。

「アドラーここよ!! 壁の向こうよ。隠し扉があったの。今、開けるわ!!」

 私が声を上げると壁に手を置くと、ブラッドも立ち上がり小さな声で呟いた。

「壁ドンか……確かに……何かを数えたくなるかもしれないな……」

「……え?」

 ブラッドの言葉で、思考が停止している壁が開いてアドラーやダグラスが入って来て驚いた。

「こんなところがあったのか……」

 奥に続く部屋を見つけたことで私はみんなを呼んだ。

「クローディア様、さすがですね……」

 ジーニアスが隠し扉を見ながら声を上げた。

「ん~~建物の大きさを考えていたら、ここを見つけたのだけれど……どのくらいの大きさなのか全体像が知りたいわ」

 私は部屋を見渡しながら言った。
 どこからか、かすかに水音が聞こえる。もしかしたら外が近いのかもしれないが、私の記憶ではもっと建物は大きかったように思える。
 リリアが声を上げた。

「クローディア様、それでは私が外に出てこの建物の大きさを測って参ります。クローディア様は内部の捜索をお続け下さいませ」

「わかったわ。お願いね」

「かしこまりました」

 私はリリアに建物全体の大きさを測ってもらうことにして捜索を進めることにした。ジーニアスが部屋を見渡しながら言った。

「クローディア様。ここの部屋は物がほとんどありませんね」

 見渡すとここは狭くもなく、物もほとんどない。
  
「ここにはあの壁の入口しかないのかな……」

 私が眉を寄せていると、フィルガルドが声を上げた。

「クローディア。この部屋の隅にドアノブがついていたと思われるくぼみを見つけました。ですが、扉があるようには思えせん」

 私はすぐにフィルガルドが見つけたドアノブがついていた場所に向かったが、確かに扉は見えない。

「ん~~まるで密室ね……」

 私たちが悩んでいると、リリアが早足で戻って来た。

「クローディア様、お待たせいたしました。恐らくこの方向にまだ、私の歩幅で20歩はありました」

 リリアの歩幅は恐らく50センチ前後だろうから、10メートル前後はあることになる。

 結構広いわね……

 私は天井を見たが暗くてよくわからない。
 
 何か……ヒントがないかしら?
 すると水音だけではなく風の流れを感じた。

「ねぇ、何か煙が出るようなものを持っていないかしら? お線香とか??」

 この場所を見つけた時のように空気の流れをで部屋の構造を見てみようと思ったのだ。

「煙の出る香は持ち歩いていますよ」

 そう言うとジーニアスが用意してくれた。

「どうぞ」

「ありがとう」

 私は香を入れた小さなお皿を持った。
 緩くけむりが上がり、爽やかでとてもいい匂いがした。

「華やかでいい匂いね。少し借りるわね」

「はい。どうぞ」

 ジーニアスが香を渡してくれたので、それを持って部屋中を歩きまわった。

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