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再会はデジャヴ

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「……」

 果歩はなにも言えなかった。

 普段ならすぐにお礼を言っただろう。

 でも今は、なにも出てこない。

 だって。

「お母さん、災難でしたね。もう大丈夫、……!」

 彼は振り返り、安心させるように笑いかけようとしただろうが、果歩をはっきり見た途端、さっとその顔が強張った。

 一瞬で言葉が切れる。

 その反応で、果歩はかえって我に返った。

 見間違いや、人違いではない。

 このひとは……確かに翔だ。

「……どうして……」

 ぼんやり言った。

 果歩の反応から、翔もわかっただろう。

 今、目の前にいるのが果歩だということ。

 わからないはずがない。

「……果歩、なのか」

 呆然と、といった様子で翔が言った。

 確認するようだったその声は、信じられない、と確かに言っていた。

「……翔さん」

 震えるくちびるで押し出した。

 もう、ここしばらくずっと口に出していなかった名前だ。
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