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婚約の成立

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 式は秋に決まった。

 二ヵ月ほどはかかるが、本来、貴族の結婚としては急すぎる話だ。

 しかしアマリアは結婚式を待つより先に、レノスブル家へ引っ越すことに決まった。

 何故ならこの契約結婚は、『肖像画を描き、完成させる』というのが本来の目的なのだから。

 そのために契約だの結婚だのの形を取るだけなのだから。

 よって夏の終わりにアマリアは引っ越しをすることになった。

 身の回りのものを整頓して、同時に要らないものは処分していく作業が急にできてしまった。

 勿論ほとんどは家の使用人がしてくれる。

 でも自分が直接使うものは、やはり自分でしなければならない。

 服などの小さくないものも、選定くらいは自分でしておきたいものである。

 アマリアは毎日のように持ち物を「これは要ります」「要らないです」「持っていくほどでもないけれど、あとで必要になるかもしれませんから、家に置いておいてほしいです」などと選び、決めていく作業に追われた。

 引っ越し、いや、嫁入りに伴い、メイドや使用人が何人かついてきてくれることになっていた。

 勿論、アマリア付きのメイド・ハンナも来てくれることになった。

 自分の都合で違う領まで引っ越させるのは悪いと思った。

 しかも契約は一年間の予定であるから、一年後にはきっと帰ることになるだろうに、ばたばたさせるだろう。

 でもハンナにそんなことを言うわけにはいかない。

 それにハンナは「お嬢様にこれからもお仕えできるなど、身に余る光栄ですわ」と喜んでくれた。

「素敵な縁談がお決まりになって、なによりです」と涙ぐんだほどだった。

 お祝いされて、嬉しいやら、少々心が痛むやら。

 アマリアの身の回りのこともどんどん決まっていって、予定通り、一ヵ月後にはレノスブル家の宮廷への引っ越しが実行となった。
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