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2章ローゼンベルト王国

隣国1

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 三者の睨み合いから、最初にいたラスニア王国を出て、現在ユークリッド皇国それも外れで、あと2日程行けばいよいよローゼンベルト王国に入ろうという国境付近まで来ていた。



 ここまで順調? という程順調ではないが、大きな混乱もなく来ていた。



「ぶぇっくしょん!」

 色気のないくしゃみをしたのは綾人だ。



「アヤト大丈夫か?」

 そんな綾人にすぐさま近付き声をかけるアレク。



「大丈夫……だと思う」

「やはり戻って町でちょっと休もう」

「いや、もう直ぐだし、早く終わらせてゆっくりしよう」



 今は休憩を兼ねて、座れそうな倒れた木に座って休んでいた。



 アレクが綾人を心配して、そっと抱きしめ額にキスをした後、風が入らないように綾人の服を整える。人も少なく、陽が当たらない鬱蒼とした森の中は冷えるのだ。

 アレクのさり気ない甘い気遣いに、綾人は恥ずかしい気持ちはあるものの、心があたたまる。



 ここまで来るのにレベル上げも兼ねていた為、約1ヶ月掛かった。

 森でレベル上げをしつつ野宿し、町では宿に泊まり体を休めながらここまで来たのだ。

 森でレベル上げと言っても、過保護なアレクはダンジョンで使用していた経験値を分ける腕輪を装着し、ヨハンを綾人の護衛に付け、綾人には戦わせなかった。

 綾人はダンジョンで魔物を倒せるようになったとはいえ、ダンジョンとは違い、魔物の遺体は残る。

 その遺体の処理等も行わなければいけないとなると、現代人の綾人には刺激が強かった為、アレクが率先してくれる事で綾人は戦わずしてレベル上げが出来て正直助かっている。



 そして、それは野宿でも食事でもそうだ。

 ヨハンに捌かれる、先程まで生きていたウサギを見て気分が悪くなり、かたい地面で周りを警戒しながらの野宿で、5日もすると綾人はただ歩いてるだけでも精彩を欠き注意力が散漫になり、先へ進む歩みが遅くなった。



 普通の現代社会人に、慣れない長期間サバイバル生活はキツかったのだ……。



 そこからはアレクの勧めで、定期的に町にも寄るようにして、休息も取るようになったが、油断した頃にやってくるヨハンからのさり気ない身元を探って来るような会話も、精神的な疲れが取れない原因になっていた。

 今ではさり気なく所か堂々と"ラスニア王国に行く前は何処にいたんです?"とか聞いてくるが、のらりくらりと交わしている。

 この世界で一番信頼出来るアレクにも言ってない前世の話を、まだ信頼しきって良いものか判断のつかないヨハンに言える訳もない。

 おかげで、ヨハンからは益々警戒されているようだが、アレクの手前か表立って対立する訳ではないので、そのままにしている。





 ――パキッ、パキッ



 少し離れていたヨハンが帰ってきたようだ。

 ヨハンはこうしてちょくちょく、リアルの鳥なのか魔法の鳥なのか不明だが、鳥を使って国の人と情報をやり取りしているようだった。



 ヨハンはアレクに向かって話す。

「やはり関所と素通りした町は王太子過激派陣営が待ち伏せしているようです。このまま、森から抜けて国へ入るのが良さそうですね」



 ここ1ヶ月で、今まで大きくそれぞれの王子に分かれていた3つの陣営の勢力図が変わったそうだ。

 アレクの元婚約者であったエリーメイル伝に、貴族上層部では第三王子のアレクが生きている事が周知の事実になってしまったそうだ。

 それまでは、貴族の7割が王太子派、2割が第二王子派、1割が第三王子派であったのが、水面下では第三王子派に乗り換える者が増えたらしく、現在は王太子派5割、第二王子派1割弱、第三王子派4割となっている。

 数の上ではまだ王太子派が優っているようにも見えるが実は王太子派の中でも、3割が第三王子迎合派で2割が王太子過激派と正反対の方針を謳っているようなのだ。

 これがまた厄介で、第三王子迎合派は王太子はそのまま第一王子だが、第三王子と協力して国を運営する次世代は第三王子の子を目的とするのに対し、王太子過激派は何が何でも第一王子が王太子であるべきとして、第三王子の排除を目論んでいる。



 1週間ほど前にはヨハンが"関所はその王太子過激派が潜伏している可能性がある"という事を掴んでいた為、念の為関所に近い町には入らずにその手前の町を最後に既に5日間森を進んでいたのだ。



「また、悪い事にアレク殿下お帰りの前にこちらの陣営でも、王太子暗殺案が止められない所まで来ているようです」

「……そうか」



 ヨハンの言葉にアレクが苦い顔をする。



 元々政界の打算等で成り立つ各王子の派閥だが第三王子陣営は、アレクのカリスマ性や能力に惚れて、主君として心より忠誠を誓っている者が多かった。

 アレクもアレク陣営も王太子や第二王子を敵にした事等無かったのに、王太子派陣営は主人であるアレクを奴隷落ちさせた敵であるのだ。

 その復讐心や帰ってきたアレクに憂いのない国の運営を望む者が、こぞって王太子の暗殺に賛成してしまっているのだ。

 ……主君であるアレクは望んでいないにも関わらず。

 ヨハンを通じて、アレクの意思は伝えているものの、綾人の存在を明かしていない為、今後の国を思う者達も"半身不随の王太子よりは"と賛成はしないものの、王太子暗殺を止める者も少ないようだ。




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