光彩

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第一章 朝日奈馨

国立美術館

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駅から出た途端強い光が僕を襲った。長いこと電車の中にいたからか目がまだ日光になれない。数秒経った後やっと外に慣れて来た途端たくさんの情報が僕の脳を襲った。今まで目に付かなかったところがどんどんと入ってくる。植物の代わりにより多く建てられた建造物、永遠と流れる人の波。
「東京ってこんな町だっけ?」
思わず声に出てしまった。小さい頃に見た景色とはまるで違う。もっとも最後にこんな都会の町に来たのは保育園の頃だが。
 そんなこんなで歩を進めていくと一つの看板が見えてきた。
「東京国立美術館→2km先」
看板通りに右折し道なりに進んでいると道路を覆うほどの人だかりがみえてきた。まさかとは思ったが少しして確信を持った。僕と全く同じ方向に進んでいる。人だかりの中心にいる人物が誰かは分からないがおそらく美術に関する業績を残した人なんだろう。
 その固まりと共に少し歩いた辺りで中心人物の顔が見えた。スラッと通った鼻筋。凛とした黒目の大きい吸い込まれるような目。
 間違いない。朝日奈馨だ。
 初めて姿を見た。ネットなんかで見るよりもスラッとしていて儚げな雰囲気を醸し出している。その時の僕はまさに「開いた口が塞がらない」状態だった。こんな嬉しいハプニングがあっていいのか。
 何を考えているのか僕は真っ先に彼女の元へと駆けていた。彼女までの距離はおよそ30m。今までにないくらいスピードで追いかけた。周りの人たちからは僕に向けた冷たい視線が送られていたが、そんなもの気にしていられるか。僕が目指すべき人が手を伸ばせば届く位置にいるんだ。もう出会うことも無いかもしれないやつらからの評価なんぞゴミ同然だ。そいつらの視線を横目に僕は駆け抜けた。彼女の元へと着く頃には軽く息が上がっていた。
 「ずっと前からファンでした握手してもらえますか?」
大きく背中が動いている身体とは裏腹にあくまでも冷静かつ落ち着いた声で求めた。
 「私なんかで良ければいいですよ。」
彼女はその容姿からは想像出来ないくらいほんわかと優しい声で応えてくれた。彼女の手は指が長く親指が大きく少し角ばっている包み込むような包容力があった。
 「あの僕馨さんの作品を見に来たんです!」
僕はさっきとは全く違う声色で伝えた。
 「あら、そうだったの!ゆっくり見ていってね。」
そう言い残すと足早に美術館の中へと入っていった。
 憧れの人との会話は少しの時間だったけどすごく緊張した。少しの間余韻に浸っていると徐々に雲行きが怪しくなってきたのを感じた。
 雨が振り始める前に早く中へと入ろう。
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