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care!!!
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しおりを挟む「誰も来ないねぇ」
「静かだなあ」
「1時間は経ってない?」
忘れられてるんじゃ無いかと言うくらい誰も来ない。目的もわからないし、拉致監禁ってこんなに放置されるの?
少し寒いしゴロゴロすると制服がちょっと汚れるのが不満です。
そして、何より暇だった。
ただただ何もしない、と言うのが性に合わないおれたちは足も手も動かせない代わりに口を動かすしかないので、取り柄としか言いようがない適当な会話をひたすら繰り返していた。観客がないのが惜しいところだ。
「初!拉致監禁!」
「祝!みたいにいうなよ」
「じゃあ、初めて拉致監禁されてみた」
「動画投稿者かよ……まあ、録画できるものがあればなぁ再生数稼げそうなのに」
「俺携帯ポッケにいれてたんだけど、当たり前のようにないよね」
優があくびをしながら答えた。おれの携帯はカフェのテーブルの上だ。ちょっとした寒さが眠気を誘うのはおれも同じでつられてあくびが出る。
「動かないと眠いし寒いからあれやろうよ、いっせのーせゲーム」
「指見えないんだけど」
「じゃあ足で」
「やりずら!」
結ばれてるのは足首だから足先は動かせる。靴をパタパタさせて、いざ。
「いせのせ、いち!」
ずざっと音がして全員が足先をあげるので、おれの数字は外れたわけだが、あろうことかおれ自身も両足の先を上げていた。
2人がにやにやしながら笑い出す。
「当てる気なさすぎ」
「体を動かすこと意識しすぎた、くっ」
大げさに悔しさを表現すると、思い出したように秋が膝に顔を乗せて悔しそうな声を上げた。
「あー……教科書持ってこれなかったほうが後悔始まった」
「そうだよ……ほんと貴重な時間……」
「えーじゃあみんなで思い出せる知識で問題出そ?」
「いいね」
こんな時まで真面目なおれたちは頭を働かせて詰め込んだ知識を呼び起こす。最近楽しかったのは古文だな。
「じゃあラ行変格活用の4語を答えよ!」
「あり、おり」
「はべり、いまそかり」
すらすら迷いもなく答える2人。
「おお、正解!って2人とも時間なかったのに全然覚えてるね……」
「もう本当に先輩様様ですな、あの後も問題集くらいわかりやすいまとめ送ってもらったしね……あれもうカンペよりカンペだったな」
「なんだろね、合法なのに合法じゃないものを教えてもらった気分になるよね」
秋と俺が話す中でふと、優が思いつめたように固まっていた。
「どしたの優」
「んーいやど忘れ、平等院鳳凰堂作ったの藤原なんだっけ?」
「えーと」
「んーと」
1秒、2秒、過ぎても出てこない。三人寄れば文殊の知恵ではなかったのか、藤原のなんとかさんはどうにもたくさんいすぎよ。
「より、つね?」
「え、いや、なんか、それは誰っけ?」
「惜しい気がする……」
この、痒いところに手が届かない感じがものすごく気になってしまう。だって他にやることがないから。
「頑張って!思い出して!スッキリしたい!」
「いや、て言われても…………より、より、頼幸、頼子、頼男……」
「頼一、頼二郎、頼三郎……」
「絶対違うわ……」
いやだ、スッキリしない。こんな状況で謎が謎を生むとは思っても見なかった。せめて手も足も自由なら、何かのきっかけで思い出したかもしれないのに。
その時ここに来て初めておれたち以外が立てる音が聞こえてきた。でもそれよりもおれは藤原さんの方が気になってしょうがない、より、なんだっけ。よりより。
「より、より、ううううううん」
「なんだ、うるせえなあ」
バン!と開かれたドアが壁に当たる。そこに立っている見覚えしかないある紺ブレザーにグレーのスラックスの二人組。1人はぱっちり二重と塩顔系男子。
制服……そうだよ、この人たちも高校生なら知ってるはずだ。
出せとか、ここはどこだとか言う前に聞きたいことがある。質問があります!と叫んだおれに拉致監禁の犯人がビクついた。
「ねえ、平等院鳳凰堂を建てたのは藤原の?!」
「あ!?……な、え?」
「お願い教えて!平等院鳳凰堂を建てたのは藤原なにさん?!」
「…………頼通だろ」
焦る二重くんを他所に、塩顔くんが答えた。彼はもしかしたら真面目なのかもしれない。
彼の答えにおれたち一同、クイズ番組ばりにスッキリ。
「それだーーーー!」
4人目でやっと文殊の知恵。
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