おれがアレを授かりまして

石月煤子

文字の大きさ
47 / 89
平凡DKのおれがアレを授かりまして

7-1-GWの予定は

しおりを挟む




「柚木とハネムーンに行きたい」






比良くん、とうとうおかしくなっちゃった、失礼ながらも柚木はそう思った。


「ハネムーンに行きたい」
「に、二回も言った」
「行こう?」
「いやいやいやいや、おれと比良くん、け、けけけけ、結婚してないし? ハネムーンって新婚旅行のことでしょ? 新婚さんが行くやつでしょ?」


高校三年生になった二人は現在昼休み中、いつものように空き教室でランチをとっていた。

明日から大型連休を控えた五月上旬。

窓から覗く空はいつにもまして青く澄み渡り、常緑樹の葉は艶々と輝いて見えた。


「行こう、柚木」


オフホワイトのサマーセーターを腕捲りし、チャコールグレーのズボンを履いた比良は机に頬杖を突いて柚木ににっこり笑いかけてきた。


食べるのが遅い、購買で購入した天丼の米粒をほっぺたにくっつけた、毛玉つき灰色のベストを着用した柚木はエビ天の尻尾をゴクリと呑み込んだ。


……比良くんって五月の申し子?
……爽やかの化身?


「俺と柚木で新婚さんになってハネムーンに行こう」


比良くん、これ、冗談言ってるんだろな……。
よくわかんないけど、話、合わせてあげようか……。


「ハネムーンかぁ。ど、どこがいいかなぁ~」


すでに食事を終えていた比良は、机を挟んで向かい合う柚木に楽しげに提案してみせる。


「綺麗な海の見えるところがいい」
「ああ、海……」
「二人で砂浜を散歩したり」
「さ、散歩……」
「一緒に夕日を見たり」
「ゆ……」


はずいわ!!
そんなん、比良くんにしか言えんわ!!
おれが言ったらさぶくて初夏が真冬になるわ!!


柚木が脳内で関西弁ツッコミを入れたことも知らないで、比良は、夢見るような口調で続ける。


「この間も言ったけれど弓の方は火曜から引退試合に向けた練習が始まるんだ」


今回のゴールデンウィーク、暦の上では土曜日から水曜日までの五連休になっていた。


「だから明日の土曜から月曜、二泊三日、二人きりでずっと過ごそう」
「う……うん……?」
「片道二時間。午前中に出発すれば向こうでゆっくりできる」
「ん……?」


なんかいやに具体的でない?


「土日月、空けてくれてるか?」


凛とした眼を真っ直ぐ向けられて反射的に柚木は頷いた。


「よかった」
「えーと、比良くん? その、何するのか聞いてなかったけど、もしかしてどこか旅行に行くの?」


キョトンしている平凡男子に比良は手を伸ばす。

ほっぺたについていた米粒をとり、さっと食べ、あわあわしている極々平々凡々な恋人に言う。


「そう。俺と柚木でハネムーンごっこしよう」

……なに、そのごっこ遊び。
……おれにはレベル高すぎるよ、比良くん。







柚木にナイショで比良は計画を進めていたらしい。


「ば、場所どこ? ここから二時間って、電車で? バスで乗り換えとか?」
「ナイショ」
「えぇぇぇえ」


予鈴が鳴り始め、大慌てで天丼をかっ込みつつ、柚木は教えてくれない比良に戸惑った。


「荷物も俺が準備するから。柚木は手ぶらでおいで」
「え? 着替えは?」


比良はにこやかに首を左右に振る。

悠然と着席したままでいる彼をあせあせ立たせつつ、予想もしていなかった明日からの旅行に……柚木はどちらかと言えば不安を抱いた。


急すぎてなんか焦るな。

大体、荷物どころか着替えもいらないってどーいうこと?

まさか裸で過ごすよう強制されたりとか……ヒィィ……。


「柚木」


駆け足で教室へ戻る生徒が多数いる中、比良の触り心地よき背中を恐れ多くもグイグイ押し、やっと廊下へ出た柚木は顔を上げた。


「これ、忘れないでくれ」


比良はそう言って自分の左手の薬指を指し示してみせた。


指輪のことだ。


二月のバレンタインデー前にプレゼントされ、なくしたら怖いので、柚木は勉強机の引き出しに厳重に封印……家族に見つからないよう仕舞っていた。


「うん、わかったから、比良くん、早く」
「明日の朝、迎えにいくから」
「えぇぇえ、んなわざわざ、どこかで待ち合わせしようよ?」
「柚木のこと迎えにいきたいんだ」


マイペースな歩調で歩む比良の背中を押し続け、柚木は、やっとこさ目的の教室に到着した。


「じゃあね、比良くん」


そこは比良のクラスだった。
三年になって二人は初めて教室が別々になったのだ。


「柚木、行かないで」


は、始まった、いつものやつが。


「ひ、比良くん、いい加減もう慣れよ? もう五月入ったんだし、ほら、センセイ来ちゃうから自分の教室入って入って」
「柚木も一緒に来て」


唐突に背中を屈めた比良に顔を覗き込まれる。

誰もが認める凛々しく整った男前フェイスが今にも「クーン」しそうな様子で目の前に迫り、柚木はド赤面、慌てふためいた。


「おれは下のフロアだからっ、急がなきゃまた遅れるっ、じゃあねっ」


柚木はなけなしの馬鹿力を込めた。

生徒の注目を浴びる中、比良を教室の中へ押しやるのに何とか成功した。


「じゃあね!」
「あ、柚木……」


ヒィヒィしながらダッシュで廊下を駆け抜け、階段を下り、自分の教室へ。

着席した瞬間、五限の教師がやってきて、ほっと胸を撫で下ろした。


……比良くん、昼休みの後に毎回「今生の別れ」みたいになるの、勘弁してほしい……。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

バスケ部のイケメン先輩に誘惑されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 他にも書きたいのがいっぱいある。

趣味で乳首開発をしたらなぜか同僚(男)が近づいてきました

ねこみ
BL
タイトルそのまんまです。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...