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一章

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 四月の入学式からふた月経ち、七月に行われる学院のデビュタント演習の準備が始まった。

 ここウルリアン王国では十六歳でデビュタントの舞台である舞踏会、そして成人の儀が十八歳である。
 学院では学生が在院中にそれを迎える為、ひと月かけてデビュタントにおけるマナーや会話術、ダンスの授業を増やして対策をし、本番一年前の同月に実際にプレ舞踏会をひらいて成果を披露する場を設けている。

 普段着ることのない衣装、きらびやかなパーティーとあって、同級生達は浮き足立っている。

 そのわくわくそわそわした空気の中で、わたくしは放課後ひとり、中庭のベンチに座り溜息をついていた。

 噂も落ち着いたので、最近はケンウィットもクラスこそ同じだけれど、いつもの距離に戻りつつ時間がある時だけそばにいるようにしてもらっていた。

 あれからちらりと様子を伺うのみになった殿下は、教室にいるときはなんだかウキウキしている。
 わたくしが握手を求められている時にたまにすごい形相になったり、教室から出る前のほんの一瞬だけは苦虫を潰したように顔をしかめつつも、なんだか悪い顔をしながらとてもお元気そうだ。

「う゛~、……デビュタント演習のパートナー、どなたに頼めばいいのかしらーー」

 一番の気鬱きうつの噂が落ち着いた最近は、もっぱらこの件について頭を悩ませている。
 実は準備が始まってすぐ、お父様が割と懇意にしているお家に二、三申し込みはした。
 けれど、噂の力侮るなかれーー火中の栗を拾う勇敢な騎士、もとい無謀にも将来をふいにしても良いという物好きな方はいらっしゃらなかった。

「……これも名誉の負傷、っていうのかしらね……」

 目線を下げたまま独り言を言えば、突然返事を返された。

「メルティ、君何処か怪我でもしたのかい?」

 地面を見ていたので気づかなかったわ……。

 わたくしはつい人気の少ない場所に来てしまったことを後悔した。
 声の先にはもう二度と会いたくないと思っていた、元婚約者がコチラに視線をやりながらゆっくりと歩いてきているのが見える。

「いつぶりかなぁ。君は僕に謝りに来なきゃいけない事があったはずだから待っていたんだけど。なかなか来ないから、僕から探しに来たよ」

 見つけることができて良かった、と彼は微笑む。
 この学院に通っている事は、リリッサの話を聞いて知っていた。
 気付くのが遅れて後手を取ったことに、下唇を思わず噛む。
 急いで立ち上がろうとすれば、相手の方が速くて、ベンチに置いていた左手首を掴まれ、縫いとめられたように逃げられなくされてしまっていた。
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