初恋リフレイン ― Melody of First Love

梵天丸

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深まるキス — Deeper Than Words

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翌朝、桐谷湊は陽真より早く大学に着いていた。まだ人の少ない教室に入り、いつもの席ではなく窓際に腰を下ろす。

 陽真と顔を合わせる勇気が出なかった。

 視界の端に、昨日の光景が何度も蘇る。ショーケースの灯り、笑って腕を絡めてきた女の子。
 あんな姿を見せられては、信じたい気持ちと不安がせめぎ合ってしまう。

「……湊」

 後ろから声がして、肩がびくりと揺れた。
 振り返ると、いつもの笑顔の朝倉陽真が立っていた。けれど、湊は返事をしないまま、机の上のノートに視線を落とす。
 声をかけられても、無視をした。自分でもひどい態度だと思ったが、どうしても顔を合わせると涙が出そうで。

 その後も、授業の合間に何度か陽真が話しかけてきたが、湊は頑なに応じなかった。



 昼休み。中庭を横切ろうとした湊の手首を、陽真が掴んだ。
 周囲に人影があったので、湊は慌てて振りほどこうとする。

「なあ、ちょっと来いよ」
「……やだ」
「頼む。逃げんなよ」

 強い声に逆らえず、湊は引っ張られるままに廊下を歩き、使われていない準備室へと入った。ドアが閉まると同時に、周囲のざわめきは遠ざかる。

「……なんで避けるんだ?」

 低い声が、静かな部屋に落ちた。

 湊は唇を噛みしめ、答えを探す。
 陽真は続ける。

「俺のことが嫌になったんなら仕方ない。でも、それなら理由を聞かせてくれ。何も言わないで離れるのだけは……嫌だ」

 胸が痛んだ。嫌いじゃない。むしろ逆だ。だからこそ、昨日の光景が刺さって抜けない。

「……嫌いじゃないから辛いんだよ!」

 思わず声が震える。

「何が辛いんだ?」
「昨日のこと、見たんだから」
「昨日……?」
「女の子と、腕を組んで歩いてただろ……! 家庭教師だって言ってたくせに、あんなの、嘘じゃないか!

 陽真が目を見開いた。

「ああ……あれを見たのか」

 驚きの後、すぐに表情を和らげる。

「違う。あれは家庭教師やってる子で、彩香ちゃんっていう。妹みたいな存在だ。ふざけて腕を絡ませてきたから……俺は“誤解されたくないからやめろ”って、ちゃんと断った」

「……ほんとに?」
「ほんとだ。俺が好きなのは湊だけだ。信じてくれ」

 その言葉が胸に落ちると、張り詰めていた糸が一気にほどけた。
 昨日からずっと抱えていた痛みが、じんわりと溶けていく。

「……ごめん。信じたいのに、信じられなくなって」

 湊の声は小さかった。けれど、涙が目尻に溜まって、感情ははっきりと表に出ていた。
 陽真はそっと湊の肩を抱き寄せ、額に唇を押し当てる。

「信じろよ。俺は、おまえに夢中なんだから」



 唇が重なる。昨日までと同じ、触れるだけのキス。
 けれど、今日はそこで終わらなかった。

 湊が目を閉じたまま、わずかに息を吐いた。その隙間に、陽真の呼吸が混じる。
 唇の角度が少し変わり、今度は深く重なった。柔らかな温度が、さらに奥へと広がっていく。

 湊の心臓は早鐘のように鳴っている。息が苦しいのに、離れたくなかった。
 陽真の舌がそっと触れてきたとき、一瞬驚いたが、拒むより先に胸が震えて——受け入れてしまった。

 互いの呼吸が重なり、唾液の味と温度が混じる。
 指先が震えて、湊は思わず陽真のシャツを掴んだ。
 深く繋がるたびに、昨日の棘がひとつひとつ溶けていく。

「……っ」

 湊の歯が少し触れてカチンと鳴り、二人は一瞬だけ動きを止めた。
 けれど笑う暇もなく、再び唇が重なる。ぎこちなさごと確かめるように。

 唇が離れた瞬間、湊は大きく息を吸った。頬は赤く染まり、目尻には涙の粒。
 陽真は湊の頬を指でなぞり、優しく笑った。

「初めてだったな、今の」
「……ばか。いちいち言わなくていい」

 小さな声でそう返した湊の目も、どこか笑っていた。



 二人は額を合わせ、しばらく言葉を交わさなかった。
 準備室の窓から差し込む午後の光が、二人の間をやわらかく照らす。

「俺たち、また一歩進んだな」

 陽真が囁く。

「……うん」

 不安はもうない。あるのは、互いの温度と、これから続いていく未来の確かさ。
 言葉よりも深く伝わったキスが、その証だった。


(もう疑わない。ちゃんと信じて進んでいきたい——彼と一緒に)

************

今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「深まるキス — Deeper Than Words」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫

「深まるキス — Deeper Than Words」はこちら⇒ https://youtu.be/X7FrmAYaFZM
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