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第8話 君がいるから — Because You’re Here
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週末の朝、湊はベッドの上でスマホを見つめていた。画面には短いメッセージが並んでいる。
〈今度の土曜、映画行かない?〉
〈気分転換しよう〉
陽真らしい、あっさりとした誘い文句。それだけで胸が温かくなる。
「……うん、行きたい」
返信を打ち込む指が、わずかに震えていた。
(これって、デートの誘い…なのかな?)
いつもの遊びの約束とは違う。
ワクワクする気持ちと、ドキドキする気持ちが同居している。
(僕たちって、本当に付き合ってるんだな…)
湊はそんなことを実感していた。
◆
映画館の前は、休日らしく人で賑わっていた。ポスターに描かれた鮮やかな色彩、ポップコーンの甘い匂い。湊は少し緊張した面持ちで待っていたが、陽真が「待った?」と笑って現れると、胸のざわめきは自然に解けていった。
「どれ観たい?」
「この恋愛のやつ。原作、ちょっとだけ読んだことある」
「じゃあ決まりだな」
映画館に向かう途中、横断歩道で車が急に曲がってきた。陽真はさりげなく湊の肩を引き寄せる。
「危ない」
「……ありがとう」
手をつないだわけでもないのに、その一瞬の距離の近さが、指先よりもずっと強く湊の心を熱くした。
(陽真って、けっこう力が強いんだな…)
そんなことも、初めて知った。
◆
暗い館内、ポップコーンを分け合いながら映画を観る。スクリーンの光が湊の横顔を淡く照らす。笑うタイミングも、切ない場面で息を呑む仕草も、隣で見ているだけで十分だった。
湊は、女の子とのデートも経験がない。
だから、これが初デートの気分だった。
(小さい頃から知ってる陽真なのに…今日は違う人みたいに見える…)
「どうだった?」
「……すごくよかった。最後のシーン、ちょっと泣きそうになった」
「俺も。連れてきてよかった」
言葉は短い。でも、その短さの奥にあるものを、湊は確かに感じ取っていた。
◆
映画の後、二人は近くのカフェに入った。ガラス越しに夕方の街並みが映り、食器が小さく触れ合う音が心地よい。
「今日、誘ってくれてありがとう」
「俺も楽しかった。またデートしよう」
さらりと『デート』という言葉が陽真の口から出て、湊はドキッとした。
「う、うん、また…デートしよう…」
「……あのさ」
陽真が真顔になる。
「どうしたの?」
「実は、彩香ちゃんに俺たちが付き合ってること、知られた」
「……え?」
湊は思わずフォークを止めた。
「でもいいと思ってる。悪いことしてるわけじゃないし。俺は湊と一緒にいること、隠したいんじゃなくて、大事にしたいんだ」
胸の奥が熱くなる。秘密を抱えている罪悪感が、少しだけ溶けていく。
「……ありがとう。そう言ってくれて、嬉しい」
湊の声は震えていたが、笑顔は確かだった。
◆
夕食を終え、二人は街の外れの小高い公園に足を伸ばした。丘の上からは、夜景が広がっている。無数の光が瞬き、冷たい風が頬を撫でる。
「綺麗だな」
「うん……」
並んで座ったベンチ。沈黙は、気まずさではなく穏やかな安心感を伴っていた。
「秘密にしてるの、大丈夫?」
湊が小さく尋ねる。
「大丈夫。俺たちが変に見られるのが嫌なだけで、隠すことに後ろめたさはない。……大事にしたいから」
その言葉に、湊の胸がじんと熱くなる。
顔が自然に近づいた。視界から夜景が消え、陽真の瞳だけが映る。唇が重なり、柔らかな温度が広がった。今までよりも長く、穏やかで温かいキス。
唇を離して見つめ合った後、もう一度、陽真の唇が重なった。
今度は、さっきよりも、熱くて深いキス。
互いの息が絡み合い、時間が止まったように感じられた。
「……やっぱり、陽真じゃなきゃだめだ」
湊の呟きは、夜の空気に溶けていった。
◆
その頃。
彩香は、コンビニのレジ前でわざとらしく会話を切り出していた。
「ねえ、このお店でバイトしてる湊くん、知ってます?」
「ああ、桐谷? 今日は休みだよ」
「あ、そっか。デートって言ってたもんね」
「デート…」
その人が、湊のことを気にしているという情報は、友人の伝手を通じてすでに調査済みだった。
『デート』という言葉への反応も、彩香の期待通りだった。
「もしかして、湊くんのこと、隙なんですか?」
「べ、別に…そんなんじゃ…」
「とられて、悔しくないんですか?」
「……」
唇をかみしめる男性を見つめながら、彩香は笑った。
「いい方法、ありますよ」
「いい方法?」
「湊くんを手に入れる方法。良かったら、手伝いますよ?」
その声は甘く、けれど鋭い棘を含んでいた。
◆
夜景の見える公園では、まだ湊と陽真が寄り添っていた。
二人は知らなかった。背後で新しい嵐の種が芽吹いていることを——。
*************
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「君がいるから — Because You’re Here」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
「君がいるから — Because You’re Here」はこちらから⇒ https://youtu.be/h2GtV0JXLuE
〈今度の土曜、映画行かない?〉
〈気分転換しよう〉
陽真らしい、あっさりとした誘い文句。それだけで胸が温かくなる。
「……うん、行きたい」
返信を打ち込む指が、わずかに震えていた。
(これって、デートの誘い…なのかな?)
いつもの遊びの約束とは違う。
ワクワクする気持ちと、ドキドキする気持ちが同居している。
(僕たちって、本当に付き合ってるんだな…)
湊はそんなことを実感していた。
◆
映画館の前は、休日らしく人で賑わっていた。ポスターに描かれた鮮やかな色彩、ポップコーンの甘い匂い。湊は少し緊張した面持ちで待っていたが、陽真が「待った?」と笑って現れると、胸のざわめきは自然に解けていった。
「どれ観たい?」
「この恋愛のやつ。原作、ちょっとだけ読んだことある」
「じゃあ決まりだな」
映画館に向かう途中、横断歩道で車が急に曲がってきた。陽真はさりげなく湊の肩を引き寄せる。
「危ない」
「……ありがとう」
手をつないだわけでもないのに、その一瞬の距離の近さが、指先よりもずっと強く湊の心を熱くした。
(陽真って、けっこう力が強いんだな…)
そんなことも、初めて知った。
◆
暗い館内、ポップコーンを分け合いながら映画を観る。スクリーンの光が湊の横顔を淡く照らす。笑うタイミングも、切ない場面で息を呑む仕草も、隣で見ているだけで十分だった。
湊は、女の子とのデートも経験がない。
だから、これが初デートの気分だった。
(小さい頃から知ってる陽真なのに…今日は違う人みたいに見える…)
「どうだった?」
「……すごくよかった。最後のシーン、ちょっと泣きそうになった」
「俺も。連れてきてよかった」
言葉は短い。でも、その短さの奥にあるものを、湊は確かに感じ取っていた。
◆
映画の後、二人は近くのカフェに入った。ガラス越しに夕方の街並みが映り、食器が小さく触れ合う音が心地よい。
「今日、誘ってくれてありがとう」
「俺も楽しかった。またデートしよう」
さらりと『デート』という言葉が陽真の口から出て、湊はドキッとした。
「う、うん、また…デートしよう…」
「……あのさ」
陽真が真顔になる。
「どうしたの?」
「実は、彩香ちゃんに俺たちが付き合ってること、知られた」
「……え?」
湊は思わずフォークを止めた。
「でもいいと思ってる。悪いことしてるわけじゃないし。俺は湊と一緒にいること、隠したいんじゃなくて、大事にしたいんだ」
胸の奥が熱くなる。秘密を抱えている罪悪感が、少しだけ溶けていく。
「……ありがとう。そう言ってくれて、嬉しい」
湊の声は震えていたが、笑顔は確かだった。
◆
夕食を終え、二人は街の外れの小高い公園に足を伸ばした。丘の上からは、夜景が広がっている。無数の光が瞬き、冷たい風が頬を撫でる。
「綺麗だな」
「うん……」
並んで座ったベンチ。沈黙は、気まずさではなく穏やかな安心感を伴っていた。
「秘密にしてるの、大丈夫?」
湊が小さく尋ねる。
「大丈夫。俺たちが変に見られるのが嫌なだけで、隠すことに後ろめたさはない。……大事にしたいから」
その言葉に、湊の胸がじんと熱くなる。
顔が自然に近づいた。視界から夜景が消え、陽真の瞳だけが映る。唇が重なり、柔らかな温度が広がった。今までよりも長く、穏やかで温かいキス。
唇を離して見つめ合った後、もう一度、陽真の唇が重なった。
今度は、さっきよりも、熱くて深いキス。
互いの息が絡み合い、時間が止まったように感じられた。
「……やっぱり、陽真じゃなきゃだめだ」
湊の呟きは、夜の空気に溶けていった。
◆
その頃。
彩香は、コンビニのレジ前でわざとらしく会話を切り出していた。
「ねえ、このお店でバイトしてる湊くん、知ってます?」
「ああ、桐谷? 今日は休みだよ」
「あ、そっか。デートって言ってたもんね」
「デート…」
その人が、湊のことを気にしているという情報は、友人の伝手を通じてすでに調査済みだった。
『デート』という言葉への反応も、彩香の期待通りだった。
「もしかして、湊くんのこと、隙なんですか?」
「べ、別に…そんなんじゃ…」
「とられて、悔しくないんですか?」
「……」
唇をかみしめる男性を見つめながら、彩香は笑った。
「いい方法、ありますよ」
「いい方法?」
「湊くんを手に入れる方法。良かったら、手伝いますよ?」
その声は甘く、けれど鋭い棘を含んでいた。
◆
夜景の見える公園では、まだ湊と陽真が寄り添っていた。
二人は知らなかった。背後で新しい嵐の種が芽吹いていることを——。
*************
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「君がいるから — Because You’re Here」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
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