年下将軍に側室として求められて

梵天丸

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side story2 ~すれ違い~

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 この物語は、第7話で芭乃はの義藤よしふじが初めて結ばれてから、少し経ったある夜の話――。

 今夜も芭乃は義藤のルビに呼ばれた。
 もう何度目になるか、数えるのもやめた。
 どういうことをするのかということは、だいたい理解できている。その流れに戸惑うことはない。
 けれども、閨での義藤の雰囲気に、芭乃はどうしても慣れることができなかった。
(私が知っている義藤様と、今の義藤様は違う……)
 義藤の側室となってから、芭乃は義藤が自分の知っている義藤とは別人でないかと感じることが幾度もあった。
 義藤は確かに義藤であるのだが、得体の知れない気配を、閨での義藤には感じてしまう。
 時にそれは芭乃に恐怖を植え付け、そしてまた別の時には感じたことのない胸の高鳴りを覚えさせる。
 芭乃自身、自分の胸の中を冷静に分析する余裕すらなく、義藤に抱かれ続けている状態だ。
 側室となった以上、とぎを断ることはできない。
 命じられるがままに閨を訪ね、義藤に身体を預けるしかないのだ。
 しかも、初めての日に芭乃が聞かずとも多くのことを語ってくれた義藤は、あの夜以降、芭乃を抱くときにほとんど口をきかない。
 まるで欲望のはけ口にされているような気が、芭乃にはしていた。
(義藤様は私が明智殿に恋心を抱いているように仰っていたけど……あの不思議な気持ちは本当に恋……だったのかな?)
 光秀に惹かれている自分に気づいてはいたが、それが果たして閨で彼に抱かれたいと思うような類いのものなのかどうか、芭乃には判断がつかなかった。

 閨にはすでに義藤の姿があった。
「お側にいっても、よろしいでしょうか?」
 芭乃が聞くと、義藤は言葉ではなく、頷いて答える。
 今日もまた、あまり喋ってはもらえないのだろうと芭乃は少し落胆したが、気を取り直して義藤の傍に歩み寄る。
 こうして何度も触れあっていれば、いつか昔のように……菊童丸と彼が呼ばれていた頃のように、何でも芭乃に話してくれる日も来るかもしれない。
 義藤はすぐに芭乃の身体を押し倒してきた。
「……ん、ぁ……っ……んんっ!」
 乱暴に唇を奪われ、身体をまさぐられ、芭乃はすぐに自分の身体が熱くなり始めるのを感じた。
 もう条件反射的に、身体が義藤の次の動きを待ってしまっているのだ。
 はしたないと思いつつも、身体が昂ぶるのを止めることはできない。
「ん、ふ……ぁっ……んっ、く……ぁ……はぁっ……」
 密着した身体の中心に、義藤の硬くなった昂ぶりが当たっている。
 これがまた自分の中に入って身体を狂わせるのだと思うと、芭乃は怖くなって逃げ出したくなることがある。
 痛みや苦痛が恐ろしいのではない。
 芭乃の身体がいやらしく、みだらに反応してしまうのが恐ろしいのだ。
 自分はそうした淫乱とは無縁だと思っていた。
 そういうものは、一部の淫乱な女性だけが持つ特性だと考えていたのに、義藤に抱かれるたびに何度も果て、あられもない声をあげる自分は、まさに淫乱ではないかと、芭乃は最近疑い始めている。
(義藤様も……呆れているのかも……)
 そう思いつつも、身体の昂ぶりを止めることは、芭乃にはできない。
 今もまた、熱く濡れたその部分を義藤が弄り始め、腰はくねくねと自分の意思とは無関係に動いてしまう。
 身体に汗が浮かび、息はさらに熱く乱れていく。
「ん、ふ……ぁっ、は……ぁっ、よし……ふじ……さ……ぁっ!」
 たっぷりと濡れたその場所を義藤の指がかき回す。
 けれども、指では物足りず、もっと大きく逞しいものを、芭乃の身体は求めてしまう。
 口が裂けても、そんなことは言えないけれども……でも。
(早く義藤様のあれを……入れて欲しい……)
 心の中ではそれを渇望し続ける。
「あ、ぁっ、はぁっ、はぁ……っ……はぁっ……」
 息がさらに荒くなり、身体がまるで燃えているように火照り始めた頃、義藤はようやく自身の硬くなった昂ぶりを、芭乃の入り口にあてがった。
「あ、ぁ……あぁぁ……っ……!」
(やっと……やっと入ってくる……)
 芭乃はその瞬間を待ちわびていた。
 そして、義藤もまるでそれを知っているかのように、濡れた芭乃のその場所を、ずぶりと一気に貫いてくる。
「あぁっ……ああぁっ……!」
 狭い器官が開かれ、満たされていく感覚に、芭乃の全身が歓喜して震えている。
 義藤はすぐに芭乃を揺さぶり始めた。
 まるでずっと我慢を続けていたかのように荒々しいその動きは、芭乃の身体を一気に高めていく。
「ひうっ、ぁっ、は……あっ、ぁっ、あぁぁ……!」
 芭乃の耳元で、義藤の荒い息づかいが聞こえる。
 義藤が自分の身体で快楽を感じてくれているのだと思うと、芭乃は密かな喜びを感じてしまう。
 義藤を男として好きかどうかという問題とはまた別の次元で、自分の身体で義藤に気持ち良くなってもらいたい、気持ち良くしてあげたいと思う気持ちは芭乃の中に確かにあるのだ。
「あ、ぁ、ひ……ぁっ、義藤さま……っ……あ、ぁっ、あぁっ!」
 義藤の名を呼んで喘ぐ口を、接吻せっぷんによって塞がれる。
 息苦しさを感じつつも、重なった唇の感触に、芭乃はまた喜びと興奮を覚える。
「ん、ふぁっ、ふ……んんぅっ、んっく……!!」
 義藤の舌が、まるで自分の所有物であることを示そうとするかのように、芭乃の口腔を蹂躙する。
 息苦しくて辛いのに、喜びのようなものも感じてしまう。
 義藤が決して芭乃に対して無関心ではないと感じられる喜び。
 芭乃は自分のものだと主張するかのように、激しく求められる喜び。
 近頃はほとんど言葉を交わしてもらえないだけに、こうして繋がりあう時だけが、芭乃が義藤にとって意味のある存在であると確かめることのできる時間だった。
 身体を繋げ合う時にしか、義藤の気持ちを感じられないのは、芭乃としては寂しい気持ちもある。
 けれども、こうした時間がなければ、義藤の中で芭乃の存在はいてもいなくてもどうでも良い存在になってしまいそうで怖かった。
「んぅっ、んっ、ふ、ぁっ、ふ……ぁんっ!」
 接吻を解くと、義藤はさらに強く深く芭乃の身体を突き上げてくる。
 義藤は、芭乃が気持ち良いと感じる部分をかなり把握しているようだった。
 乱暴に律動を繰り返しているように思えても、要所で芭乃の性感帯を正確に突き上げてくる。
「あっ、ぁっ、あ、ぁんっ、はぁっ、あぁっ!」
 とても自分のものとは思えない甘い声が、芭乃の唇から零れてしまう。
 こうして身体を好きにされていても、ふと我に返ることが芭乃にはある。
 その時には自分の出している声に驚き、だらしなく緩んだ顔の気配に驚き、これは本当に自分だろうかと考えてしまうのだ。
 義藤にどう見られているだろう……しかし、そう考える余裕は、今の芭乃にはもうなかった。
 激しく揺さぶられ、突き上げられるままに、声をあげて喘ぎ続けている。
「あ、ふ、ぁんっ、は……よし……さ……あっ、ひ、ぅっ、あはぁっ!」
 義藤の動きがさらに加速し、その限界が近づいてきたことを芭乃も感じる。
 芭乃自身も、またあの瞬間が近づいてきているのを感じていた。
 身体が宙に放り出されるような……何もかもが弾けてしまうような、あの感覚。
 そこに早くたどり着きたい……でも、怖い。
 そんな芭乃の気持ちの葛藤など知らないかのように、義藤のものが芭乃の身体の深いところを容赦なく突き上げ続けている。
「よ、義藤様……っ……あっ、ぅっ、も、もう……!」
 限界が近いことを芭乃が告げると、義藤は揺さぶるようにして追い込みをかけてくる。
 芭乃の全身を、熱の波が駆け巡っていく。
「あっ、ぁぁぁっ!!」
 ほどなく芭乃は果てた。
 そして、義藤も芭乃とほぼ同時に限界を迎えた。
 義藤の放ったものが、芭乃の身体の中へと注がれている……。
「あ、ぁ……はぁ、はぁ……っ……」
 やがて、芭乃の身体の中から義藤のものが引き抜かれた。
 身体の中から義藤の存在がなくなった喪失感を感じながら、芭乃は隣を見る。
 義藤は乱れた呼吸を整えるようにしながら、布団にその顔を押しつけるようにしている。
 義藤がどんな顔をしているのか、分からない。
 言葉も交わしてもらえず、まともに顔を合わせることもしてもらえなくて。
 芭乃が先ほどまで快楽を感じてしまっていたことにさえ、罪悪感を感じてしまう。
(もしかして義藤様は、私なんて側室にするのではなかったと後悔しているのかも……?)
 側室にしてしまったから、仕方なくこうして閨を共にしてくれているだけなのかも。
 思考がどんどん悪いふうに転がっていきそうになり、芭乃は汗に濡れた顔を軽く横に振る。
(私の知っている義藤様は、嫌なら嫌だとちゃんと言ってくれる人のはず……嫌なのに、そのまま私を側室に置いておくことはしないはず……だけど……)
 しかし、今隣で、芭乃に何か声をかけるでもなく天上を見上げているこの人は、本当に自分の知っている義藤だろうか……。
(分からない……私はどうすればいいのか分からない。でも、私には何もできない。選ぶ権利なんてない……)
 芭乃の思考は結局そこに落ち着き、たとえ義藤にどう思われていようと、側室としてここにいる間は、義藤の命に従うしかないのだと自分に言い聞かせる。
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