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第2章 江戸時代のようなの国

第02話 初めの村へ

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「うーん、ソラ? オオカミおじさんって、起きたらまた向かってくるよなぁ、何か拘束できるものはないか?」
「それならうちに任してー」
 そういうと胸元から箸を1本取り出し、オオカミの脇に向かって投げつける。

「影縛りー!」
 箸がオオカミのすぐ横の地面に刺さる。よく見るとオオカミの影部分に突き刺さってるようだ。

「これで大丈夫だよー」
「それはなんだい?」
「影縛りだよー」
 聞いた私がバカでした。

 ソラのステータスに忍法ってスキルは持って無かったと思うが。
 闇魔法か何かなのだろうか。もう想像するしかない、ソラに聞いても分からないのだから。

 小一時間ほど待つと、オオカミおじさんが目を覚ました。

「うーむ……これは? う、動けぬ……」
 おっと、オオカミおじさんってしゃべれるんだな。ソラから聞いてたがアニメ映画みたいだ。いや、実写版か?
 動けない所を見ると、どうやらソラの影縛りも効いてるようだ。何なのだろう、影縛りとは……いや、ソラのする事だ。深くは考えまい。

 オオカミの顔の前に回り、話しかける。
「大丈夫…か?」

 グルグルグル……と低く唸り声をあげるオオカミおじさん。
 額に少し血が滲んでるけど、それ以外に怪我は無さそうだし目の焦点も合ってるように見える。
 獣医では無いので、ハッキリとは分からないが大丈夫なように見える。

「大丈夫そうだな。少し話をしたいんだがいいかな? こちらはあなたと敵対するつもりはないので話を聞いてくれるとありがたいんだが」
「敵愾心は無いと申すか! あれだけ森を破壊したにも関わらず! 信じるに値せん!」
 こちらの言葉に対して怒鳴り散らすオオカミおじさん。

 森を破壊? あー、さっき走ってやっちまった件だなー
 確かに休憩した時に見たら結構大きな木も倒れてたんだよな。
 若干煙が燻ってるところもあったりしたなぁ。
 まさか自分がやったとは思えなかったけど、他にやった奴がいるようにも思えない。恐らく私がやったんだろうな。
 現実逃避してソラにも敢えて聞かなかったんだが、オオカミおじさんが私に対してこれだけ怒ってるんだから間違いないだろ。

「獣や魔物を倒すことには何も言わん! しかし、森を破壊するものには我が相手を致す!」
 動けない割には上から目線な奴だなぁ。あんたその状態から逆転できるのか? しかし、やっちまったものはしょうがない。

「それに関しては、すまなかった。申し訳ない、この通りだ」
 と素直に頭を下げる。

 クレーマー対応には少し自信がある。まずは話を聞く、謝る、同調する。オオカミおじさんは正当な理由で怒ってるのかもしれないが、やる事は同じだ。
 そこから落ち着かせてこっちのペースに持っていき、話を聞いてもらう。
 伊達に年を食っているわけではない。それなりの部署も熟してきた。ま、厄介払いの左遷と言う人もいたりするが……
 時間はかかるが、ほとんどの案件は解決してきた。そのストレスのせいで今回は引き篭ろうとしていたわけだが、異世界に来てもこんな事態になってしまっているのは納得が行かない部分ではある。

 クレーム処理ですか……ふぅ、仕方がない、やりましょうか。

 根気よく時間を掛けて話を続けて、ようやくオオカミおじさんを落ち着かせ、こちらの話も少しずつ聞いてくれるようになってきた。
 少し笑いも出るようになり、もう大丈夫だろうと思ったところでソラに声を掛けた。

「ソラ、影縛りを解いてやってくれ」
「いいのー?」
「ああ、頼む」
 ソラが箸を地面から抜くと、オオカミは動けるようになった。
 一体何の能力なんなのだろうな。たかが箸にそんな能力は無いと思うし……
 ソラは式具だと言い張るけど、ちょっと高めだけど普通の箸だよ? ま、今はいいか、どうせソラに聞いても分からないのだから。先にオオカミおじさんだな。

「そろそろ本題に入りたい。聞きたいことがあるんだが、教えてもらえるだろうか?」
「うむ、そもそも我は倒されたのだ。相手がお主ではなかったなら命も無かったかもしれん。我の知っていることなら、教えてやろう。」
 倒されたのは認めるのに、上から目線は変わらないんだ。教えてくれるって言うんだから、その事は触れないでおこうか。また機嫌が悪くなっても面倒だしな。

「聞きたい事というのは異世界についてなんだ。私は別の世界からこの森に入って来てしまったようなのだが、帰り方がわからない。あなたは私の世界への帰り方を知らないか?」
「ほぉ、やはりこの世界の者では無かったか。それなら我より強いというのも納得だ。これまでにも異世界の者と何度か戦ったが、やはり強者ばかりであったわ。負けたのはこれで2度目だがな」
 前に一度負けた事はあったが、その時はまだ若く、その異世界人の従者になったらしい。
 やはり異世界と呼んでいるんだな。

「我は異世界人の従者はしていたが、異世界とのつながりについては、まったく知らん」
 自信満々に答えるオオカミおじさん。
 ここまでハッキリと言われたら逆に気持ちがいいもんなんだな。初めて知ったよ。
 帰り方を知らないって言うんならこれ以上はオオカミおじさんからの情報は諦めるしかないな。

「……そうか、残念だ。ただ、今はまったく情報が無い状態なんだ。なにか手がかりになるようなことを知らないか? どんな事でもいいんだ」
「そうじゃな、手がかりになるかどうかはわからんが、ここより西へ十日ほど行くと不思議な祠があるそうじゃ。その祠は人間の手で管理されており、どこかは知らんが転送されるらしい。異世界なのか異国なのか過去なのか知らんが、戻って来た者はおらんらしいが、転送されるというのは間違いないようだ」

 確かに手がかりという程では無いな。でも、不思議な祠で転送か……戻って来た者がいないというのは気になるが、何かの手がかりにはなるかもしれないな。
 そこへ行ってみるか。
 しかし、このままここを離れても大丈夫なのだろうか。
 突然私の世界と繋がって放り出されたんだから、また突然繋がって帰れたりするんじゃないか?
 その辺の事を、このオオカミおじさんに頼めないだろうか。

「あと、気になるのは私がこの世界に現れた場所なんだが、もしかしたらそこにまた入り口が現れるかもしれない。そこを見張って何か変化があれば教えてほしいんだが」
「そんな事なら容易い。これを持って行け」

 オオカミおじさんの尻尾から小さな尻尾が分裂した。分裂した尻尾はそのまま浮かび上がり、タロウの元へ浮かんだまま向かうと、手首にブレスレットのように巻き付いた。
 五〇のおっさんには似合わないアクセサリーなんだろうが、なんかお洒落だ。あ、今は十八だったか……まだ信じられないな。

「我は山の神になってからは、この地より離れられんのだが眷属をお主に贈ろう。その眷属は我とも繋がりがあるので、連絡を取り合うことができる。お主が現れた場所はさっきの話からも分かっておる。異変を感じたのも確かじゃ。そこは我の縄張り内じゃから、再び異変があればすぐに分かるじゃろう。今回と同じ結界が現れればすぐに我には分かる。その時は、眷属に連絡を取る事を約束しよう。その眷属も我程では無いが、中々の強さも持っておるぞ。名を名付けてやれば、更に強くなりお主の役に立つ事じゃろう」

 一応、負けたことで私の願いは聞いてくれるようだ。さっきのクレーム対応が効いたのかもな。
 眷属ってこの尻尾のブレスレットがか? 強いって言われてもねぇ。

 名前を付けると強くなって役立つとも言ってたか。名付けね、よくある設定だ。デフォだね。
 じゃあ、早速名前を付けて確かめる事にするか。でも、尻尾というかアクセサリーだろ? そんなのに名付けって意味あるのか?

「こいつは雄とか雌とかあるのか?」
「雌だ」
 念のために聞いてみただけなのに……あるんだ、性別が。尻尾なのに? とは思ったがオオカミおじさんは大真面目だ。ここで茶化してまたヘソを曲げられても面倒なので、「じゃあ」と早速名前を考えた。
 チラッとソラを見る。可愛い系だったよな。

「ココアでどうだ?」

 これもキラキラネーム系
 名付けを行なう尻尾の方には目は向いてるけど、意識はソラに向いていた。

「あー可愛いかもー、いいねココアちゃんかーよろしくねー」
 ソラさんも満足してくれたようだ。やはりキラキラネームだと気に入ってくれるようだな。

 名前が決まると手首に巻き付いている尻尾が淡く光り出し、勝手に手首から離れると地面にゆっくりと落ち、オオカミの姿になった。
 オオカミのおじさんの半分程度の大きさだが、それでも3メートルぐらいはありそうだ。二階の窓でも普通に覗けそうな大きなオオカミだ。

「主様、素晴らしい名前をありがとうございます。これからはしっかりとお仕えさせていただきますので、今後ともよろしくお願いいたします」
 オオカミの姿になったオオカミおじさんの眷属は、丁寧な言葉で私にお礼を述べた。
 ココアと名付けられたオオカミは、即座に目を瞑り、なにやら力を込めている。

 !!
 また私の額あたりに光るものを感じる。
 あ、契約か。いいのか? オオカミのおじさんの眷属だろ?
 しかも何もあげてないぞ?

「いいのか? お前の眷属だろ?」とオオカミのおじさんに向かって尋ねる。
「構わん、従者契約なら問題ない。名付けによりココアも更に力を得たようだし良い仕事をするじゃろう。我も一時期は従者をしておったのじゃ。何の問題もない」
 問題は無いと言うが、あるんじゃないの? という私の疑問は誰も聞いてくれそうにないな。

 契約は名付けだけでも成立するらしい。ソラの場合は、式具(箸)を渡した時だったけど、本人が良ければどちらでもいいらしい。名付けの場合は、ほぼ強制らしいけど。


 名前: ココア
 年齢: 150歳
 種族: 白狼族
 加護: 異空間住人の加護
 状態: 普通
 性別: 女
 レベル:30
 魔法: 水・土・風・
 技能: 牙・短刀・薙刀・採集・料理
 耐性: 熱・雷・毒・麻痺
 スキル: 【変身】
 ユニークスキル:【山の神とのつながり】
 称号: なし


 ココアも【変身】を持ってるな。何に変身できるんだろう?

「ココアさんは何に変身できるんだい?」

 ソラは狐だから何にでも変身できそうな気がするが、オオカミだとどうなんだろう?
 狐が何にでも変身できると思うのは偏見かもしれないが。私の中では狐と狸は葉っぱ一枚で何にでも変身できるイメージしか無いのだが。子供の頃からの昔話などの刷り込みなのかもな。

「はい、わたしが変身できるのは先ほどまでのブレスレットと人の姿になれます」
「うちは何でもなれるよー、たまに失敗するけどー」
 はいはい、まずは尻尾を隠そうね。耳もね。
 ココアも人の姿にもなれるのか。それは見てみたいな。こんな大きなオオカミが人の姿になると巨人の女の子になったりして。

「そうなんだ。じゃあ、人に変身した姿を見せてもらってもいいかい?」
「かしこまりました」
 ココアは返事をすると、全身が淡く光り、人の姿に変身した。

 背はソラとあまり変わらないが、白というより銀色に近い髪に黒い目、白い絣の着物を着た色白の可愛らしい中学生ぐらいの感じの女の子だった。
 ソラよりも少し年下の妹のような感じだ、全然デカくなかった。何が巨人の女の子だよ。誰が言ったんだよ。……私だな。
 ソラもココアも150センチも無いように見える。145センチぐらいか? どっちも小さくって可愛らしい。

 ただ、その言葉使いからもソラよりはしっかりしたできる妹・・・・って感じだ。オオカミのはずなのに耳も尻尾も見当たらない所からも、ソラよりも優秀なんだろう事が伺えるな。
 頼りになりそうなだ。

 さて、今から西の祠を目指したいが、三人で向かうとしてこの装備でいいものなのか?
 ソラが走って一日ぐらいの距離だと言ってたし、今からだとどこかで野宿って事になるかもしれない。
 この世界の住人と会うこともあるかもしれないし、魔物対策もしないといけないよな。

「ソラ、西の方に村や町はあるのか?」
「あるよー、いつもご飯をくれる村は西の方だよー」
「その村で服や武器なんかは手に入らないか?」
「どうだろうねー」
「ご主人様、ソラさんのおっしゃっている村では服は手に入るでしょうが、武器や防具は無かったかと思います。さらに西に行けば大きな町があったはずです」
 おお! やっぱりココアはできる妹・・・・だったか。そしてソラさん、あなたは残念だ―。

「それはいい情報だね、ありがとうココアさん。あとはお金だな。物を買うには必要だろうし。それとそこへ行くまでの装備か」
「ご主人様、ココアと呼び捨てにしてくださいまし」
「ん…そうか、分かった。じゃあ、コ、コ、ココア。今、話に出てた村に行きたいんだが、このまま行っても大丈夫だろうか。ソラの話だと魔物が出るそうだし、魔物に出会わないルートなんかもあるんだろうか。それと、そのご主人様って辞めないか?」
「ココココアではございませんが、それは今はいいでしょう。それにご主人様はご主人様です。ご主人様をご主人様と呼んで何か不都合な点でもございますか?」
「そうだよー。ご主人様だよー」

 むむむ、ココアさんって出来すぎではないだろうか。おじさんタジタジで何も言い返せないんだけど。
 ソラにちょっと毛が生えた程度だと侮ってたな。ソラはちゃっかり便乗しちゃってるけどな。
 ご主人様って呼ばれると、なんかむず痒いんだよな。

 呼び捨てにしてもそうだ。そういうのは慣れてないんだよ。若者同士ならそういう事もあるかもしれないが、昭和のおっさんにはちょっとハードルが高い。
 ソラの場合は幼児を相手にしてる感覚だったから呼び捨てでも呼べたけど、ココアの場合は慣れるのに時間が掛かりそうだ。

「お金に関しては分かりかねますが、装備というのは魔物対策でしょうか。それなら必要ないかと思います。ここから西の町までに、わたし達より強い魔物はおりませんから」
 それも良い情報です。ココアさん、やっぱりできる女です。

 目的地は決まったな。まずはその村に行って町へ行く準備をしよう。
 この世界の人間にも会ってみたいしね。帰りたくもあるけど、ここで待ってても帰れる保証は無い。だったら、この世界の人間と交流したら情報を得られるかもしれない。食事の事もあるからな。

 ソラやココアの服装を見る限りでの予想となるが、昭和よりもずっと前の、そう、江戸時代とかそんな時代背景じゃないかと思うんだよな。
 だから見てみたいって思ってしまう。完全に観光気分だな。オオカミおじさんと仲良く話せた事で危機感が薄れてしまってるな。魔物もいるけど問題ないって言ってくれてるし、気も緩んでしまうのは仕方が無いよな。
 ゴールデンウィークも始まったばかりだし、楽観的過ぎるかもしれないが、何とか帰れそうな気もしてるんだよ。

「それならソラの言う村経由で西の町へ向かおうか」

 実際に人に会ってみないと、どういう時代背景なのか分からないしな。
 もし、江戸時代以前の設定だと、この格好はまずいと思うんだ。目立つ奴は変な目で見られたり、村八分にされたりってよく聞くよな。
 まぁ、住むつもりが無いから村八分は当てはまらないけど、閉鎖的な昔の日本で目立つのはよくない事だと思う。
 あまり目立つと目的の祠までスムーズに辿り着けないかっても困るし。

 話は決まったので、オオカミのおじさんに別れを告げると、すぐに村へと向かった。ソラと二人だったら不安だったがしっかり者のココアも加わった事だし何とかなりそうな気がして来た。

 今度はさっきの森林破壊のようにやり過ぎないようにソラに先導してもらって、追い抜くことが無いように気を付けながら走った。
 ココアは尻尾のブレスレット形態に戻って、私の手首に巻き付いている。
 どの状態が本当の姿なんだろうな。まさか、この状態が本来の姿って事はないだろう。いや、異世界で、しかも魔物の生態なんて知る由も無い。一度、ちゃんと聞いてみよう。その前に呼び捨てで名前を呼ぶ事に慣れないとな。
 ソラとココアが魔物かどうかも怪しい。どうも魔物って呼び方だとしっくり来ないのだ。そうだな……妖怪。そうだ、日本の妖怪って呼ぶとしっくり来るな。


 村へ向かう途中、魔物に出会う事は何度かあったが、ソラが簡単に蹴散らしていく。
 ソラを見くびっていた、自分の倍以上ある魔物でもパンチかキック1発で撃沈だ。
 しかし、ここはやっぱり異世界ものの小説にあるような世界のようだという事を、魔物を見る事で再認識した。もしかして、日本の妖怪の世界に来てしまったのかという思いもあったが、魔物を見た事でその思いも断ち切られた。僅かに残っていた神隠し説も完全に粉砕されてしまった。
 ステータスメニューが見れた事で今更なのだが。
 少しでも自分の馴染みのあるように解釈したかったのだが、そうも行かなかったようだ。

 魔物を見た時はその大きさに驚いたが、ソラは気にすることなく軽く一蹴していく。倒した魔物は私が回収し亜空間収納に収納していく。ココアからそう指示されたからだ。
 偶にソラが何か武器のようなものを出しているが、後ろからでは分かり辛い。毎回持っている訳でも無さそうだし、スキルか何かなのだろうか。

 休憩の時に自分のステータスを確認してみると私のレベルも上がっていた。どうやらパーティ扱いで他のメンバーもレベルが上がるという事なんだろう。私は今回は一度も戦ってないのだから。
 いや、初めの時も戦ってはいない。ソラが言うには踏み付けたり弾き飛ばしてたりしてたそうだ。だからレベルが上がったのだろうが、戦ったという認識は無い。
 その内、私も戦闘をしなければならないのだろうか……まったく自信が無いが、何とかなるのだろうか。

 その日の内には村に辿り着けなかった。予想してたより魔物とのエンカウント率が高くて、速度が出せなかったのだ。
 夜になり、野宿をする事になってしまった。

 ちょうどいい洞穴を見つけたので、そこで寝る事にする。雨や寒さは凌げそうだ。

 さて問題は食事だ。
 調理器具が何も無い。食料は缶詰と、あと食材として途中でソラが倒した魔物は亜空間収納してあり、その中にウサギ系と鳥系の魔物もいるが焼くだけでも食べれるものなんだろうか?
 さすがに魔物というだけあってデカいが、解体するにも刃物もない。私は解体などした事は無いが、ソラかココアができるんじゃないだろうか。こいつらだって、この世界で生きてきてるのだから解体ぐらいはできると予想している。

 ところで魔物というやつを初めて見た。と同時に異世界なのだと痛感させられた。
 出会った魔物はラノベの挿絵のイメージのままだった。もしかしたら日本の妖怪的なものだったりするんじゃないかとも思ってたが、元となる動物がいて、そいつが凶悪化したものが魔物のようだった。
 ここまでで出会ったのはソラとココアとオオカミおじさん。人間ではない。
 もしかしたら魔物とは言っているが日本の妖怪みたいなもので、私は異世界落ちではなく神隠し的な何かで、過去の日本に渡ってしまったのでは無いかとも思ってたが、その考えはもう無い。やはりここは異世界でソラが倒してるのは魔物で間違いないだろう。

 例えば今回のウサギに似たようなデカイ魔物だと、やはり元はウサギだ。
 それが何かの原因で魔物化して、巨大化して凶悪になったって感じだ。面構えも凶悪な面をしてたよ。可愛さなんて微塵も残ってなかった。

 おっと、食事だった。彼女達にいつもどうやって食べているのか聞くと、答えは生だった。
 少しは予想はしてたが、ショックだった。彼女らは狐と狼だとはいえ、今の見た目は少女なのだから。しかし、生食は私には無理だし、横で食べてる姿も見たくない。今日は缶詰を出すことにして、全員でそれを食べることにした。ソラには油揚げも。

「やっぱりこの缶詰っていうの、おいしーねー。油揚げも甘くて今まで食べたものの中で一番おいしいよー」
「本当ですね、わたしもこんな美味しいものは初めてです!」
 一人増えたし、私の食欲も上がっているので、大量に仕入れた缶詰が全て無くなってしまった。
 明日には最低でも刃物を手に入れないと 生で食べることになりかねない。生ならまだマシか。そのままの姿のまま、かぶりつく事になりかねない。
 それはどうあっても勘弁願いたい。絶対に何とかしないとな。

 焚き火の火は、ソラが火の魔法を使えたので、枯れ枝を用意して点けてもらった。
 魔法を初めて見たが、不思議な感じだった。
 何も無い所から火が出るのだ。私もステータスを見る限り、適合者ではあるようだから使えるのだとは思うのだが、実際ソラがやってるのを見ても出来そうだとは思えなかった。
 しかし、ここは異世界。しかも私は異世界人。できるものなら絶対やってみたい。いや、やりたい! 何かやれそうな気がして来た! 魔法なんて出来たら素晴らしいじゃないか!

 火はソラが点けてくれたが、お湯を沸かそうにも鍋も無いのである。
 水はココアが魔法で出せるみたいだが、入れ物が無い。コップも無いのだ。
 掌の上に水を出してもらって、それを飲むぐらいしかできなかった。
 今日の所は仕方が無い。何も無いのだから我慢するしかないのだ。明日には村に着くだろうから、それまでの我慢だ。

 就寝になると、【那由多】が役立った。
 【那由多】に頼んで近づく魔物がいれば知らせるように言って見張りも立てずに三人で寝た。
 洞穴だったし、入り口には火を焚いてた。危機感の薄い私に、この近辺の魔物など問題視してない二人だ。見張りを立てなかった事にも納得だろう。
 運が良かったのか、夜中に【那由多】から叩き起こされる事は無かったので役立ったかどうかは疑問だが、安心して眠れたのでヨシとしよう。

 翌日、早めに出発して村に着いたのは昼過ぎ頃であった。
 なんとしても今日中に道具を揃えたかったので、ソラにもペースを上げてもらったのだ。私の危機感は半端なかったからな。絶対に生肉を食べるのは避けたかったから。
 人間、水だけで一週間ぐらいは生きられると言うが、恐らく若返ってるであろう今の身体が凄く腹を減らすのだ。今晩の晩飯抜きも耐えられない程だ。
 なので、先導してくれてるソラには頑張ってもらわないといけない。「村に着いたら腹いっぱい食わしてやる」と言うと張り切って走ってくれた。

 もちろん途中魔物に出くわすが、ソラが簡単に倒していく。
 それを、すかさず私が収納していく。そして皆に経験値が入りレベルが上がっていく。いいループだが、まったく現実感が無い。ゲームの中の世界にいるような気分だ。それも簡単モードの裏技みたいにレベルがよく上がるやつ。

 ソラが倒した魔物は食べられなくとも何かに使えるかもと全て収納してある。今から村に行くにあたって、お金がないから物々交換のネタは多いにこしたことは無いのだ。だから一つ残らず私の亜空間収納に収納してある。


 ようやく辿り着いたそこは、小さな村だった。ざーっとみて民家は100軒程度の村だし、村の名前も無いような小さな村だった。
 まずは目的であるお店を探そう。

 家々の間隔は広いが、それでも小さな村だ。店はすぐに見つかった。店があって非常に安堵した。
 ソラとココアの情報を信じてない訳じゃなかったんだが、こっちも切羽詰ってる。お店を見つけた瞬間、「あった!」と叫んじゃったよ。

 町並みは予想通り、テレビでよく見る江戸時代っぽい感じで通り過ぎる人たちも着物であった。
 ソラとココアの服装からそうではないかとの予想は合っていたようだ。
 村人の髪型は期待していた丁髷チョンマゲとはちょっと違うようだが、この村には武士っぽい人がいないので、なんとも結論は出ない。
 丁髷チョンマゲは武士にのみ許された髪型で、町民や農民が丁髷チョンマゲをすると罰せられたはずだ。
 この村には農民しかいないようだから、結論は先延ばしだな。

 一軒あったお店に早速入ってみる。このお店は雑貨屋のようで、なんでも置いている。ホントなんでも。
 食料品から服から畑道具まで。武器も少しはあるようだ。

「すいませーん」
 そんなに大きな店では無いが、店番がいなかったので大きめの声で呼んでみた。
「はーい」と裏口の扉からぽっちゃりとしたおばさんが入って来た。
 おばさんと言っても本来の私より十は若いだろう。

「こちらで買取などはしていませんか? 若しくは物々交換とか」
「おや、異人さんかい?」
 異人? こんな黒髪で醤油顔のどこを見れば異人ってなるんだ? あ、服か! おばさんの視線で分かった。
 さっきからすれ違う人達も、変な目で見て来るからソラの耳や尻尾を見てるのかと思ってたけど、私の服だな。
 こりゃ失敗したかな。

「いえ……異人ではないんですが」
「へぇ~、そうなのかい。変わった服を着てるから、てっきり異人さんかと思ったよ。でも、ちゃんとしゃべれるんだからこの国の人なんだね」
「ええ…そうです。ところで……」
「あー、そうだったね、どっちもしないことも無いけど、物によるねー」
 お、物々交換もありか。助かったぞ、これで何とかなるかもしれない。

「魔物はどうでしょうか?」
 魔物しか持ってないからそう言うしかない。
「おや、あんた! 魔物をもってんのかい? だったら森兎鬼なんか持ってないかい?」

 魔物の名前はココアから聞いていた。森兎鬼とは見た目は兎に似ているが大きさは1メートルぐらいある魔物だった。今回の道中で一番多くエンカウントした魔物だ。
 そういう私が知りたい事に関して、ソラは相変わらずだが、ココアが教えてくれた。頼れる妹ココアは魔物の名前にも詳しかった。
 初見では【那由多】も回答をくれない。【鑑定】しても、ステータスのみが表示され名前や種族の表示が無かった。
 ココアから聞いたあとに【鑑定】してみると次からは種族名も表示されいた。
 【鑑定】で見る限り、昨日と今日で出会った魔物の名前は全て漢字で、日本か中国を連想させる名前だった。


「はい、持ってますね。この店で色々揃えたいので、できれば買取がいいのですが。何匹までなら行けますか?」
「あるのかい! そりゃぁ助かるよー。最近、なかなか獲れなくてねー。でも見ての通りの小さな店だから、一匹でいいんだよ。あの大きさだろ? 保管が難しくてねー」

 そうなのか。二○匹以上いるんだよなー。折角買い取ってくれるって言うのにどうしたものか。

「では一匹買い取ってください。あと一匹いるのでそれは物々交換できませんか? 買いたいものは服と食料と調味料、あと小刀こがたなのような道具と刀があればそれもお願いしたい」
「二匹ねぇ……まぁ二匹ならなんとかなるか。じゃあ二匹目の方のお釣りはあげられないけど、それでいいんなら、その内容でいいよ」

 お、よかった。ダメ元で言ってみたけど、言ってみるもんだ。
 いくらで買い取ってくれるか分からないが、元はタダだ。お釣りなんかいらないって。

 鍋や小刀や古着など、目に付いたものを片っ端から仕入れていった。
 そう言えば聞いてなかったが、ソラやココアって解体できるんだよな?

「ソラ? あとココアさ……ココア? 君達は解体はできるのか?」
「なにそれー、美味しいのー?」
「ご主人様、わたしも知識としては知っていますが、実際にやった事はありません。あとソラさん、解体とは動物や魔物を分解して部位に分ける事です。食べ物ではありません」
「そうなの~?」

 相変わらずのソラはいいとして、そうかぁ、ココアにも出来ないのかぁ。これは困ったぞ。
 今日はこの村で食べられるとして、明日から町へ向かうんだぞ。その道中の食料をどうするかだが……

「ここって解体もやってるのですか?」
「え? うちかい? そりゃこんな小さな村だからねぇ。お店を出してりゃ嫌でも覚えちまうよ」
「だったら、解体作業を見せてもらいたいのですが構いませんか?」
「それぐらいならお安い御用さ」
 やった、これはラッキーだ。全員で見学させてもらおう。
 でもちょっと待てよ。ただ、解体してもらうのも勿体無いな。

「それならもう一匹出しますので、それを解体して頂けませんか? 肉以外の部分を解体費として差し上げますので」
 肉の保存ができないって言ってたから、肉以外の部分なら交渉材料になるのではと思って言ってみた。

「兄さんうまいねぇ。よーしわかった、解体料は素材で払うんだね。商談成立だね」
「ありがとうございます」

 よし、これで当面の肉と解体の授業料が免除で一挙両得だ。

 解体見学は後にして、先に購入品を精算することになった。
 服と解体用の小刀(こがたな)を3つ、雨具と刀を3人分。
 刀は脇差は置いて無くて大刀だけ。私は武士ではないからね、これで問題なし。

 ソラとココアは薙刀がいいと言ったが、ここには無いので刀で辛抱してもらった。
 ソラには技能に【刀】も付いていたはずなんだが、好みの問題らしい。
 短刀はあったので、それはココアに。私は刀を持ったことも無いが、技能に付いてるから
なんとかなるだろ。時代劇は好きだったし見よう見真似でしかないんだが。
 子供の頃にもチャンバラごっこはやったし、今更考えてもどうにもならない。たぶん、私は何もしなくてもソラが全部やっつけてくれるだろう。

 調味料は塩と味噌だけだった。醤油はまだこの世界には登場して無いのかもしれない。
 一匹分の代金としては二両もらった。なので、二両のお金と仕入れたもの。そして今から解体する肉が手元に残る事になる。
 無一文でも何とかなったな。これで明日からの食事もなんとかなりそうだ。

 お金についてだが、私の記憶では江戸時代の百姓なら一両で一家四人が暮らせる金額が一か月とも一年とも一生とも言われていた気がする。一生は無いにしても一か月と十二か月、大分違うけど私の記憶なんてそんなものだ。
 しかし大金なのは間違いない、大事に使う事にしよう。

 先に服を着替え、風呂敷も買って荷物をまとめて収納し、作業場へ移動する。
 一匹分の素材代で見学だけだと多すぎると言って、解体手順の説明や実体験のサービスまでしてくれた。手取り足取り教えてくれて、実に分かり易かった。

 最後に、購入した刀なんだが、刀ってまぁまぁの金額がするはずだが、ここに飾ってあって大した金額でもない刀など鈍らなんだろう。
 【鑑定】もしてみたが、刀(-5)と出ていた。表示を見て呪われてるのかと疑ったぐらいだ。

 一通り解体を教わって、この村には宿がないことが分かったので村を出ることにした。
 出る前に「おなかすいたー」とソラに言われて思い出した。確かに村で食べさせてやるって言ったな。
 万屋で教えてもらって、これもまた村に一軒だけという飯屋があったので、食事をしてから出発する事になった。
 四人掛けのテーブルが二つだけの小さな食堂だった。出された食事は美味くなかった。味があまり無いのだ。
 調味料は貴重なんだろう。山間の村だから塩も貴重なのかもしれない。
 塩や調味料を使いすぎると一食の金額が上がるから、予算的にあまり使えないのかもしれない。そう考えるとさっきの万屋で塩と味噌が買えたのは幸運だったな。

 定食には、なぜか油揚げが一枚ずつ付いてきていた。
 あ、この村だったね。
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