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第2章 江戸時代のようなの国

第03話 西の町

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 食堂で油揚げが出てきた事で、ハタと思い立った事がある。
 まだ二日だが、一つ疑問に思ってる事がある。いや、疑問だらけではあるんだが、この疑問は早めに解消しないといけないと思う。
 ソラに狐のケモミミが生えている事だ。この世界ではこれが普通なのかと思ってたが、今の所ソラ以外にケモミミには出会ってない。人型になったココアには尻尾は付いてない。変身が上手いのか、それとも逆に下手で尻尾や耳を再現出来ないものなのかは判断に迷う所だが、ケモミミと尻尾があるのはソラだけなのだ。

 ソラの尻尾は論外として、ケモミミはアリでよかったのか? 
 ……耳も尻尾も大差ないか。何か自分の中で基準がおかしくなってきてるな。しかし…どっちもアリでいいのか?
 今までソラが何度か来ている村だという事で特に気にもしなかったが、ソラはこのままの状態で大きな町に連れて行ってもいいものだろうか。
 その点、ココアは上手く隠してるのか、それともオオカミの人型が初めからそういう仕様なのか。結果として耳も尻尾も見当たらない。
 このあたりでも、ソラは残念な。そしてココアはできる妹という構図が完成するな。

 異世界ラノベってケモミミがデフォ設定なんだが、ここは昔の日本のような感じで西洋の雰囲気はゼロだ。異世界物って黒目黒髪が目立つ設定が多いが、この村の人達は全員が黒目黒髪だ。
 私は服装で少し目立ってしまったが、さっき購入した服に着替えたらこの村の人達と何ら変わりが無い。ちょっとザンバラな髪型だなぁという程度だ。

 ココアも少し髪にメッシュが入ってる程度でおかしくは無いと思うが、ソラのケモミミと尻尾は明らかに違和感がある。今まで村で出会った人達に、そういう人はいなかったのだから。
 この世界には他にもケモミミもいたりするんだろうか。獣人なんかもいたりするんだろうか。
 獣人は蔑まれる設定が多かったが、この世界はどうなんだろうか。ソラが嫌な目に合わないだろうか。

 少し考えるつもりが、凄く心配になってきた。何か、ソラのお父さんのなってしまったみたいな心境だ。
 もうさっきの村からは出発してしまったので、次に村があればそこで聞いてみよう。タイムリミットもあるので、戻るよりは先に進んだ方がいいだろう。

 叶う事ならばゴールデンウィーク中に帰りたいと思っているので、少し急ぎ気味での行軍ではあった。
 魔物に出会うと、刀に慣れるため私も戦闘には加わるようにしていた。やはり、心情としてこの達ばかりに任せておく事ができなかったのだ。
 年齢はともかく、見た目は中学生程度の女の子達なのだ。大人の私もやらなければならないという気持ちを掻き立てられた。

 実際に戦闘をしてみると、意外と私も行けてるんじゃないかと思う。
 今の所、ソラとココアのサポートを受けながらだが、怪我を負う事も無く魔物を倒す事ができている。
 うん、意外と私には戦闘の才能があったのかもしれない。

 だが、自信過剰になるつもりは無い。
 自分では格好いいつもりが実際はヘッピリ腰だったという経験は何度もしている。
 スキーしかり、テニスしかり、野球しかり、バレーボールしかり、ボーリングしかり。

 自分では格好良く出来てるつもりでも、ビデオや写真を撮ってもらって見てみると、これが私か? この格好悪いのが私か? という経験は何度もしている。
 刀を振る私も、もしかすると格好悪かったりするのかもしれない。
 今、見てくれているのはソラとココアの二人だけなので聞いてはみるが、ココアは格好いいですと言ってくれるが、お世辞なのは丸分かりだしな。ココアは何をやっても褒めてくれるから信じていいのかどうか難しいんだよ。若くて可愛いに褒められて悪い気はしないけどな。
 ソラに聞いても「かっこいいよー」としか言ってくれないから本当に判断に迷う。

 ま、格好悪くとも、勝てばいいのだ。いや、ゲームじゃないんだから負けなければいいのだ。命あっての物種なのだから。
 何度か戦闘を経験し、なまくらら刀を何本も折り、解体も実践し、魔物の肉も食った。意外と行けてたのが不思議だったが、焼いて塩味だけでも美味かった。

 そして、オオカミのおじさんと別れてから七日目、ようやく大きな町へと辿り着いた。
 途中にも小さな村が点在していたが、雑貨屋に立ち寄って調味料を買ったり森兎鬼を買い取ってもらったり、偶に物々交換をしてもらったり、通り過ぎるように村から出ていた。
 森兎鬼とは、どの村でも中々人気の商品だったので、行く先々でかなり有意義な交換はさせてもらった。


「やっと着いたなぁ。結構大きな町じゃないか。」
「こんなもんだよー、ちょっと早いぐらいかも―」
「そうですね、わたしも早かったと思います。」

 そろそろ大型連休も終わるので、できたらこのまま元の世界に帰る方法が見つかればいいと思ってる。なので少し焦ってはいる。
 この素晴らしい身体は捨てがたいが、ここまで文化レベルが違うとずっと居たいとは思わない。自由に行き来できて、偶の休みに観光として来るのであれば最高の観光地と言えなくもないが。もちろん危険な魔物がいるので、ソラやココアのガイド付きという条件はあるが。

 このたちはこの世界の住人なので、このままお別れとなっても少し寂しくはあるが生きて行く分には問題は無いだろうし、付いてきたいと言えば付いて来てもいいとも思ってる。
 連れて行けるかどうかは分からないがね。


名前: 佐藤 太郎
年齢: 18
種族: 人族
加護: なし
状態: 普通
性別: 男
レベル:45
魔法: 火・水・土・風・氷・雷・闇・光
技能: 刀・剣・槍・弓・料理・採集・解体・回避・遮断
耐性: 熱・風・木・水・雷・毒・麻痺・腐食・
スキル: 【亜空間収納】【鑑定】【複製】【変身】【仲間】【極再生】【痛覚無効】
ユニークスキル:【那由多】
称号: 異空間の住人 命名師
従者: ソラ・ココア



名前: ソラ
年齢: 250歳
種族: 九尾族
加護: 異空間住人の加護
状態: 普通
性別: 女
レベル:64
魔法: 火・水・土・風・雷・闇
技能: 牙・刀・薙刀・採集・調合・探知・回避・遮断
耐性: 熱・雷・毒・麻痺・腐食
スキル: 【鑑定(中)】【変身】【再生】
ユニークスキル:【天災】
称号: 九尾族の姫



名前: ココア
年齢: 150歳
種族: 白狼族
加護: 異空間住人の加護
状態: 普通
性別: 女
レベル:41
魔法: 水・土・風・
技能: 牙・短刀・薙刀・採集・料理・解体・探知・回避・遮断
耐性: 熱・雷・毒・麻痺。腐食
スキル: 【変身】【再生】
ユニークスキル:【山の神とのつながり】
称号: なし


 順調にレベルも上がっていた。食事の用意は私とココアで分担していたので、ココアにも【解体】が付いていた。ソラには料理をさせない方がいいと一度思い知ってからはさせてない。
 創作過ぎるのだ。ただ焼いただけのもので、なぜ燻製風になるのか。なぜ耐性が強化されるのか。ソラは残念な枠という自分の立ち位置をちゃんと理解してるのかもしれない。

 夜の移動でも、私達は全員暗くても見えるので苦にはならなかった。不思議とよく見えたのだ。彼女達は狐と狼だから元々夜でも見えると言ってたが、私も夜目というか、ほぼ真っ暗の中でも不自由なく見通す事ができた。これも身体能力が上がったからか、それとも何かのスキルの恩恵なのか。
 もちろん日本にいた時には無かった能力だ。
 しかし睡眠も取らないといけないので、無理せず夜は寝る事に決めていた。身体能力が上がったからといっても舞い上がらずに慎重に行動した。これも年の功のなせる業か。

 あと、私は火の魔法だけソラに教わり使えるようになっていた。
 ただ、天然というか才能というか、ソラの説明は非常に分かりにくかった。

「ここんとこに力を入れてギュルギュルーってなったらグーンときてバァってやったらドカーンってなるんだよー」

 わかるかー!

 それでもココアのフォローもあり、なんとか火の魔法だけは覚えた。詠唱は必要ないようだ。
 適性があっても術を覚えないと何もできないのが魔法だとココアが教えてくれたよ。

 火の魔法を覚えてからは、料理する時の火起こしも私がやるようになった。料理と言っても、基本は解体して塩焼きか味噌焼きにするだけ。
 鍋もあるので一度味噌汁やスープに挑戦してみたが、お世辞にも美味いとは言えなかったので焼肉で我慢していた。魔物肉の焼肉も我慢するほど不味い訳ではない。逆に魔物肉は美味しいぐらいのだが、毎日同じものを食べるのは飽きてしまって嫌になってくるのだ。三食とも焼肉だと、今の身体だと食べられるのだが、頭の方が受け付けてくれないのだ。

 汁物を作る時、元の世界では製品として売られていた粉末出汁を愛用していた私には、素材から出汁を取って料理をするというのは少しハードルが高くて美味しく作ることはできなかった。出汁の取り方は分かっているのだが、出汁を取れるようなものが魔物素材しか無かったので、美味しい物が作れなかったのだ。かつおや昆布があれば、何とかできるのだが。
 今後の課題だな。元の世界に戻れたら、その辺の事をネット検索で調べてみよう。
 こっちの世界でも誰かが教えてくれればいいんだがな。


 食事担当からはずれたソラは、その間にすることが無くなったので、薬草を取ってきたりして、いつの間にか【調合】できるようになっていた。
 天才肌なんだろうね。感覚というか目分量というか。説明を聞いても何の事だか……

「ゴリゴリーっとしてポタポタ垂らすときにグィーンときてギュルギュルーってしたらできるんだよー」
 こちらはココアでも説明不可でした。なんか魔力を合わせる的な表現が入ってましたけどね。

 木の実などの【鑑定】はできたので、山椒や山菜などはできる限り取るようにしていた。田んぼの周りにアブラナがあったので、そちらも大量に取っておいた。三人で千切るだけ千切って、纏めて収納だから時間も大して掛からなかった。
 油が取れるかもしれないしね。椿も見つけて確保している。
 確か、どちらも種から油が取れたはずだ。必要なければ捨てればいいが、備えは多いに越したことは無い。これでも中身は50歳、無謀な冒険チャレンジは避けたいのだ。

 【亜空間収納】もまだまだ収納できそうだった。もしかしたら限界は無いのかもしれない。異世界物の勇者の定番だな。私は勇者では無さそうだが、異世界召還の勇者達には付いていたはずだ。私は召還されたわけでもないのだが。


 まぁいい、今は目的の町に着いた事だし、色々としたい事、やりたい事がある。
 一つはオオカミおじさんの言ってた祠探しだ。
 オオカミのおじさんの話では人間が管理しているということなので、すぐにわかるんではないだろうか。

 次に刀が欲しい。
 まだ目的を果たしたわけでは無いので、武器を充実させておきたい。
 そのためには、収納に入っている魔物を売らなければならない。

 ここに来るまでの村で、森兎鬼を売って、いくらか現金は持っているが、刀を買うには心許ない。いくらするかは分からないが、ソラやココアも薙刀が欲しいと言ってるし、ここまで付いて来てくれたのだ。それぐらいは買ってあげたい。
 八割がた、彼女らが倒した魔物なのだから。

 まずは宿を確保したい。ずっと野宿だったので、布団でゆっくり眠りたい。風呂にも入りたいな。この世界に来て、未だに風呂に入れてないのだから。

 早速、宿を探した。
 ソラとココアは大きな町が珍しいのか、キョロキョロと落ち着きを無くしていて、宿を探すどころでは無いようだ。
 そんな彼女らが迷子にならないように気をつけながら探していると『旅篭』と書かれた幟旗のぼりばたが立っていた。
 二人を連れて旅篭に入ってみると、広い土間があり、正面には上がりかまちがあり、玄関を入って左側に受付のようなカウンターがあった。
 カウンターには『ご清算』と書いてあるので会計はここでしているのだろう。カウンターには着物を着た女性がいたので、受付はどこですか? と尋ねると、ここで受付もしていると答えてくれた。

「三人ですが泊まれますか?」
「はい、長旅でお疲れでしょう。一部屋ですか? 二部屋ですか?」
 ? あ、そうか。ソラとココアは女の子だったな。やはりここは二部屋だな。

「「一部屋!」」
 え? なぜお前達が言う! ここは二部屋だろ!

「い、いや……二…」
「一部屋ですね。では係の者が案内いたします」
「い、いや、ちょっと……」
「あ、お値段ですね。三人部屋で朝夕の二食が付いて一泊三朱でございます」

 三朱? 小判しか持ってないが、一朱は一両の下の通貨だから十分足りるだろ。
 そう思って一両を渡した。

「一両でございますか! では、何泊されるのでしょうか?」
 おっと、一両は多すぎだったのか。しかし、各村では森兎鬼しか売らなかったから、ちょうど区切りも良かったのか、どの村でも二両だったのだ。だから私は小判しか持ってない。
 手持ちは十両だが、どこかで持ってる魔物も売れるだろうし、ここは大目でもいいだろう。

「かしこまりました。では、五泊分の料金だと少しお釣りがありますが、連泊で割引させて頂いて六泊分の料金として一両で如何でしょうか」
 やはり、一両はそのぐらい価値だったか。各村でポンポン小判が出てくるからそこまででは無いと思ってたが、農村部だと一両で一ヶ月の生活費ぐらいか。いや、生活費として何にお金を使うかだな。農村部は自給自足なんだろうし、電気、ガス、水道の光熱費も無い。使う時が無いのなら一生掛かっても使い切れないかもだな。

「ええ、それでお願いします」
 六日も滞在しないつもりだが、ここで細かい計算をするよりも、拠点となる宿だ、余分に取っておいた方がいいだろ。魔物を売って得た小判だから特に惜しいとは思わないしな。

「ありがとうございます。それではお部屋にご案内します」
 そして、部屋に案内されてから気付いた。

 一部屋じゃん!

 さっきお金の計算で他に気が回らなかったので、つい言いそびれてしまった。
 ま、いいか。野宿の時には皆一緒に寝てたんだし、今更か。私がこの達をどうこうする事も無いだろうし、一部屋でいいか。

 案内してくれた女中さんに魔物を買い取ってくれる場所と、刀と薙刀を売ってる場所を教えてもらった。


 まずは買い取りへ。
 この七日間で結構な数の魔物を倒した。

 森兎鬼×50 妖猫×10 角爪熊×2 虎刀牙×1 鶏爪羽×35 帰蝶鬼×15 鬼面鳥×40 三つ目蜥蜴×6 十足蜘蛛×10 軍団蟻×100 等々。
 中でも苦労したのは四日目に出会った虎刀牙だった。刀は通らないし折れるしデカいし。
 最終的には三人で三方向からの同時攻撃で1時間以上かかって、ようやく倒したほどだった。

 刀が全部折れてしまった後に、オオカミの姿に戻ったココアが虎刀牙の正面から牽制し、私が繰り出したパンチでダメージを与え、止どめにソラが巨大化させた式具で喉元を突き刺して決着した。

 もう式具でいいです。箸でそんなことはできませんから。
 三日目に出会った、三メートル以上あったと思える角爪熊でさえ十分もかからず、私とソラの単独で倒せたのにだ。一体目はソラが倒し、二体目は刀に慣れてきた私が調子に乗って倒したのだが、刀を四本折ってダメにしてしまったので反省していた所だった。よくそんな魔物と戦う気になったのかとも思うが、慣れとは怖いものだ。森兎鬼との戦闘で戦う事に少しずつ慣れて来た所に、鶏爪羽という巨大な鶏のような魔物とエンカウントして戦う事になり、戦闘終了後に軍団蟻が大群に出て来たのだ。
 何とか勝利を収めた後に、角爪熊が現れたので、私も高揚していて勢いで単独戦を挑んでしまった。もう皆疲れてたし仕方が無かったのだ。

 それで四日目に虎刀牙と出会い、残り十本以上あった刀が全滅してしまったという訳だ。
 いや、戦おうと思って虎刀牙と対峙したわけではない。偶然出くわしたのだ。出会い頭と言ってもいい。
 昼休憩を取ろうと、少し森に入り少し開けた場所を見つけた時に、向こうもちょうどその開けた場所に入って来てバッタリ出会ってしまったのだ。

 それからはずっと探索サーチを見ながら移動している。
 初めは走りながら探索サーチを見ながらというのは中々慣れなかったが、二日も丸々やれば、それなりに慣れるもんだ。
 【那由多】にも文句を言ったが、―――警告するレベルの魔物ではありませんでした―――だとさ。
 虎刀牙は十分警告に値する魔物だったと思うのだが。でも、虎刀牙戦で誰も怪我をしなかったという事は、そういう事なのかもしれない。


 教えてもらった買い取り所は大きな門構えの建物で、私のイメージでは大きな神社という感じの場所だった。
 神社の本殿に当たる所に受付があり、そこで沢山魔物を持ってる事を伝えると、横手の建物に出して査定をしてもらった札をもらって戻ってくれば換金してくれるという事だった。
 因みに受付の人は丁髷だった。
 すぐに横手の建物に行き、魔物を全部出して査定してもらった。
 査定の人が虎刀牙の牙と爪はいい武器素材になるぞと言ってくれたので、それだけは売らずに取っておいた。後で武器屋に行く予定なので、素材はあった方がいいだろう。
 それを教えてくれた査定の人はいい人だった。解体までしてくれたのだから。

 ちょっと…いや、かなり驚かれたが、特に何を言われる事も無く査定の札を渡してくれたので、それを持って換金所に行き、お金を頂いた。計、金貨五二三両と三六朱。はっきり言って、あまり価値は分かってない。大まかに大金だと分かるぐらいだ。日本円にして一千万? 一億? という程度。あまり驚きはない。
 ここでしか使えない貨幣なのだから、私にとっては子供銀行券という程度の価値しか見出せないのだ。

 それよりも気になったのが、誰も収納に驚かないのだ。
 どうせ、長居するつもりなど無いのだからと魔物を全部出してみたのだが、出した量には驚かれたが、収納の事は何も言われなかった。私だけが持ってる能力ではなく、ある程度の人が持っている能力なのだろう。
 異世界物の勇者の定番【収納】の能力が”普通”の世界なのかもしれない。

 それに、ソラの事もスルーだ。
 これまでの村でもそうだったが、この町に入ってから誰もソラの耳と尻尾の事について触れないのだ。特に視線も感じない。周りの人達にはソラの耳と尻尾が見えてないのだろうか……いやいや、それは有り得ないな。
 しかし、ソラのような獣の耳と尻尾を持った人にはまだ出会ってないが、あまりそういう事を気にしない土地柄なのだろう。と思う事にした。
 丁髷の人達にはケモミミや尻尾は気にならないのだろう。

 この町には丁髷が多いからな。やはり時代設定は江戸なのかもしれない。
 この町に近づくにつれて道も整備されてきたなぁと思い出した頃から、街道でもチラホラ丁髷を見るようになっていた。だから、この町に入って丁髷だらけなのを見ても、さほど驚きはしなかった。映画村? って感想が出る程度だった。ソラとココアは人の格好よりも数の多さに驚いてたようだが。


 換金してお金も手に入れたので、次は武器屋だ。
 今、手元にある武器は、最後の村で手に入れた刀(-3)が一本だけ。やはりもっと頑丈で折れない刀を手に入れたい。



「すいません、刀と薙刀を買いたいのですが」
「はーい、いらっしゃい」
 奥から出てきたのは20代前半ぐらいの若い丁髷ちょんまげだった。番頭だと名乗った。

「なにか ご希望はありますか?」
「虎刀牙の牙と爪を持っていますので、それを使って刀を1本、薙刀を2本作れませんか?」
「素材持込での武器発注ですね。しかも虎刀牙とは、凄いものをお持ちなんですねぇ。私共も久しぶりに扱う素材で腕が鳴りますね。三日ほど、お時間を頂ければお作りできますがよろしいですか?」
 虎刀牙とはいい素材なんだろう。嬉しそうに答えてくれる番頭さんだった。

「三日ですか……」
 微妙だなぁ。でも、ギリギリリミット内か。
「分かりました。それでお願いします。おいくらぐらいするものなんですか?」
「それは作る武器にもよります。刀一本と薙刀が二本であれば素材持込で三〇〇両見て頂ければ大丈夫かと。形状で何かご要望はありますか?」

 専門的な事を聞かれても私には分からない。お金も十分足りそうだし、規格品でいいんじゃないだろうか。何本も折ったが大して違いはなかったしな。
 ソラとココアは何か希望はあるんだろうか。
 そう思ってソラとココアに目を向けた。
 二人は察して自分の要望を番頭さんに伝えた。

「うちはねー、刃が長めで全体的には短いのがいい。刃と柄が同じ長さになるぐらいー」
「わたしは刃の長さはそのままで、通常より柄が少し長めでお願いします」
「はい、承りました。旦那様の方は如何ですか?」

「私はあまり詳しくないんだ。何か参考になるものはないですか?」
「無くもないですが、旦那様の腰に下げてらっしゃる刀を拝見させて頂いてよろしいですか?」
「えっ、いいですが、大した刀ではありませんよ」
「ええ、私共が見るのは武器の良し悪しではございません。使い手さんの癖を見るのです」
「癖?」
「はい、そうです」

 腰にさしていた刀を鞘ごと渡すと、柄の部分をじっくりと検分し、鞘から抜いて抜き身を調べ、戻して鞘を検分する。
 私の両の手もじっくりと検分され、店に飾ってあった売り物の刀を持ってきた。

「これを一度持って頂けませんか?」

 渡された刀を持つと、妙にしっくりくる。まだ持っただけなのに。きっと鞘に塗っている漆や刀の重さなどが手にしっくり来る原因なんだろう。
 見ただけでよく分かるもんだ。
 その後、裏庭に連れて行かれ、何度か素振りをさせられた。やはり癖を見ているそうだ。
 私に続いてソラとココアも同じ事をした。
 そして先に精算をしましょうと店の中に戻った。先払いなのだそうだ。

「それでは素材を出して頂けますか?」
「ここで?」
 ニッコリ笑顔で肯く番頭さん。
 いいのか? と思いながら、まずは牙を出した。

「ほぉ~、これは立派な牙でございますねぇ。これならご納得頂けるものを作れそうです」
 そう言って番頭さんが収納した。
 やっぱり収納を持ってる人はいるんだな。
 そう納得しながら次々と出した。
 すべて番頭さんに渡し終え、精算した代金を提示された。

「素材は旦那様持ちなので、刀一本と薙刀二本で三〇〇両でございます。あと、旦那様。私の見立てによりますと、少々素材が余りそうです。如何致しましょう、短刀で宜しければ何本か作る事ができますが。それとも素材の買い取りと致しましょうか」

 買い取りもやってくれるのか。素材を渡したらそれで終わりだと思ってたら凄く丁寧に対応してくれるんだな。
 短刀を三本作れたら作ってもらって、それでも余れば買い取りという事で決まった。
 三〇〇両を渡し、短刀については当日精算にしましょうとなり、刀と薙刀のお金を払ったという証拠の割符をもらった。
 三日後にこの割符を持ってくれば刀と薙刀を渡してくれるという事だ。

「しかし、一本一〇〇両とは、刀とは高いものですね」
「虎刀牙の刀ですからね。素材無しですと、五〇〇両は下りませんから」
 イマイチ貨幣価値が分かってないが、三人で六泊一両から考えると相当高いのは分かる。
 あと、防具についても聞いてみたが、「合戦でも無い限り、防具は出回りません」との事だった。
 確かに、時代劇でも防具は着けてなかったな。

「それでは三日後にお待ちしております」
 と、番頭さんに見送られ、武器屋を後にした。

 まだ日は高いから、三人で町をブラブラと散策する事にした。

「そういえば、ソラもココアも薙刀と言ってたが、あんな長いものをどうやって持ち歩くんだ?」
「うちは、小さくするんだよー。式具みたいにー」
 小さく? 確かソラならできそうだ。戦闘の時も何か技名のようなものを叫ぶと巨大な杭のようなものが出て来たのだが、よく見ると、見覚えのある元私の箸だった時には驚いたからな
 そんなソラなら薙刀を小さくする事ぐらいできそうだ。

「わたしは変身の応用で尻尾のブレスレットに変化へんげさせる事ができます」
「へぇ、凄いんだねココア…は。そんな事ができたんだ」
「いえ、大した技ではございません。今はご主人様から頂いたものしかできませんから。将来的にはもっと色んなものを変化へんげできるようにならないと、ご主人様のお役には立てませんから」

 まだ呼び捨てには違和感があるものの、大分慣れてきた。
 ココアも偉そうに言ってる割に、褒められたのが嬉しいのか、少し頬を赤らめてる。これがギャップというやつか? 若者が言う”ギャップ燃え”で合ってるような気がする。

「では、二人がそうして隠すのなら、私も普段は収納して隠しておこう。町を歩いてる人を見る限り、丁髷の侍さん以外は帯刀してないようだしな」
「別に持っていても構わないと思いますが、ご主人様がそうおっしゃるんでしたらそれでもいいかと思います」
「こういった町や村に入った時だけだよ、トラブルの元にならんとも限らないしな」
「トラブルになったら、うちの出番じゃない―? やっつけるよー」
「そうならないように言ってるんだよ」

 できるココア、残念なソラ。この構図はもう確定だな。


「さぁて、三日間はすることがないな、町の見物でもするか!」
「さんせー!」
「賛成です」
 まだ二〇〇両以上あるし、余裕かな。持っていても仕方が無いお金だし、少し残して使い切るぐらいでもいいだろ。
 あとは時間だな。元の世界と時系列が同じであればいいが、こういう神隠しや異世界落ちっていうのは時間の流れが違ったりするからな。浦島太郎なんかがいい例だな。あれも、実は神隠しで、帰れたのはいいが帰ってきたら随分未来の世界だったって裏話があるぐらいだからな。玉手箱の煙はそれをうまくアイテムで誤魔化したお話ってネットで書いてたと思う。
 もし、帰れたらギリギリ何とか大型連休中に間に合うのではないだろうか。
 そんな淡い期待を持ちながら、ソラとココアの二人を連れて、町の散策を楽しむのであった。

 初日は、食べ歩きをした。
 夕食は旅篭で用意してくれると言ってたから食べ過ぎないように二人にも言って、私も注意してたんだが、食べ過ぎてしまった。
 久し振りに手を加えたものを食べたので、非常に美味しく感じたのだ。実際、物凄く美味しいという物でも無かったが、料理されたものに飢えてた私は町の食堂や屋台で食べ過ぎてしまった。
 しかし、出された物は残してはいけないと育って来た私は、夕食も頑張って完食を果たした。
 若い身体になってたんだと実感した瞬間でもあった。

 二日目は買い物を楽しんだ。もちろんオオカミおじさんの言っていた祠の情報も集めている。情報集めの合間に買い物を楽しんだのだ。メインはあくまでも情報集めで、時代劇好きな私が、江戸時代的なものの蒐集に走ったわけではない。
 祠の事はどこに行っても誰もが知っていたので、買い物を楽しんだとしても問題なかった。この町では有名な祠で、行く先々で祠については色んな情報を聞くことができた。
 刀は明日にならないと完成しないし、折角の空いた時間なので買い物を楽しんでいたのだ。

 まず購入したのは期待通りに『箸』を購入した。ずっとソラの持ってる箸を羨ましそうにココアが見てるのだ。
 もうお父さんとしては買ってやらずにはいられなかった。お父さんでも無いし、年齢は向こうの方が遥かに上なのだが、見た目年齢が一四~五歳なのだから、そう思ってしまうのだ。
 自分も若返ってるのだが、まだこの世界に来て鏡を見てないので実感が湧かないというのもあるが。

 ココアに箸を買ってやると、嬉しそうに箸を抱きしめて大事そうにしている。しっかり者のココアだが、こういう所は見た目年齢どおり可愛らしい。そういう癒されてる私の気分を壊したのはソラのお強請りだった。

「ご主人様ー。うちもー!」
「うちもってソラは持ってるじゃないか」
「まだいるのー」
 まだいるって……別に箸など小判一枚で何十膳と買えるからお金の事は気にしなくてもいいのだが、一人で何膳も使う必要はないだろ。いったいいくつ欲しいんだ。
 もう一膳ぐらいはと思って買ってやると、今度はココアが憮然とした表情になる。お前もか!
 仕方が無いので、ココアにももう一膳買ってあげた。
 なんなんだ? この国では箸がそんなに流行ってるのか?

 ソラとココアには同じものを同じだけ買ってあげないと拗ねるという事が分かった。
 二人は本当の姉妹のようだよ。

 それからも別の店を回り、色々と買い物を続ける。
 金箔付きの扇子や観賞用の短刀にかんざしや櫛なども購入した。
 どの店でも木箱入りのものが高価なもののようで、値段も高いが出来も良かった。見ているだけでも職人の技を感じられて買ってよかったと思えるものばかりであった。

 他には、念のため、物々交換用のものも買い求めた。
 この世界に来て、初めは魔物しか無く、運良く雑貨店で魔物が売れたから良かったが、もしあの時魔物も売れなかったらと思うと、少し肝が冷えた。あの雑貨屋で解体用のものや鍋なども買い、解体技術の手解きも受けたが、売れて無かったら今は生肉を食べる経験を済ませていたかもしれない。

 あと、醤油があった。味噌は各村に寄る度に森兎鬼の交換品として、よく出されたので持っているが、醤油は一樽しか交換してもらえなかった。
 個人で作ったもので、出来栄えとしてはイマイチのような感じだったので、ここで五樽を大人買いしておいた。
 ちょっと試食として味見をさせてもらったら凄く美味しい醤油だったのだ。昔ながらの製法ってやつかもしれないが、本当に美味しかったので大人買いしてしまったのだ。一樽で一両、思ったよりも安かったのも大人買いをしてしまった原因だと思う。

 祠の情報はある程度集めたが、どの情報も行き先がハッキリしない。
 過去へ行くのだとか未来へ行くのだとか別の大陸に行くとか別の世界に行くとか。誰も正解を知らないようだ。
 だから金目になりそうなものをと思い、これも木箱に入った金の粒も購入した。
 金はどの世界でも高価なものだと思う。小判など貨幣は純金じゃないから、こういった金の塊は小さくとも価値はあるはずだ。
 そう思って、金の粒(木箱入り)も五箱買っておいた。

 まだ、手元には小判が五〇枚以上残っている。五〇両以上あるという事だ。
 明日はもう出発だし、今更魔物を退治して稼ごうとも思わない。明日も町を散策して情報集めと少々の買い物を楽しもう。

 三日目、いよいよ刀をもらって祠へ向けて出発だな。
 旅篭にはまだ先払いしてる分が残ってるが、それは構わない。祠に行って、何も無ければ帰ってくるのだから。
 それはそれで困るのだが、先払いしてる分なので、あえてそのままにしておいた。
 この旅篭はまぁまぁ食事も美味しかったし、何より風呂が良かった。
 檜風呂で、香りも素晴らしく、どこかから温泉を引いてるそうだから、この世界に来てからの疲れが吹っ飛ぶように癒される風呂だった。
 もし、また来れるようなら、また同じ旅篭に泊まりたいものだ。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
 番頭さんがにこやかに出迎えてくれた。

「出来てますか?」
 手には割符を持ち、番頭さんに尋ねた。

「ええ、仕上がっております。中々の出来栄えだと職人も絶賛しておりました。これも旦那様が持ち込まれた虎刀牙の素材が良質のものであったからだと職人も褒めておりました」
 素材の何が良くて何が悪いかなんて分からないが、いい物が出来たのなら良かったのだと思う。
 お世辞も含まれてるだろうが、気分のいい言葉だな。

 割符と交換で刀と二本の薙刀を頂いた。

「短刀も三本仕上がりましたが、残りの素材と差し引きしますとちょうど差し引きゼロです。お約束通り、素材でのご精算とさせて頂きます」
 ちょうどだったんだ。いや、少しは負けてくれてるのだろう。そうじゃないとしてもいい買い物ができたと思う。こんな魔物素材で作られた刀など日本では誰も持ってないのだから。

 武器を受け取った私達は、笑顔の番頭さんに見送られ武器屋を後にし、更に西へと向けて町を出た。
 目的の祠は、一時間ほど西へ向かって、森へと入る脇道を三〇分ほど行った所にあると調べがついているからだ。

 町を出た所で休憩し、ソラとココアの気持ちを尋ねた。
 大事な事だ。今、話して確認をしておかないといけない話をした。

「ソラ。ココア。大事な話をするから聞いてほしい」
「はい、ご主人様ー」
「はい」

「まずは私の気持ちを話すから、それを聞いて君達の気持ちを聞かせてほしい」
「わかったー」
「はい」

 ソラは相変わらず軽いな。ま、今はその軽さが言いやすくて助かるよ。

「私は元の世界に戻りたいと思っている。その為に祠に行くわけだが、二人はどうする? ソラは母様の所に戻るのだろうし、ココアもあの山の主の元へ帰るのだろう? ここから先は戻って来れない恐れがある。だからここでお別れにしようか。ここから先へは私一人で行こうと思う」
 今日までの報酬として、色々と買ってあげたし。入った事が無いと言ってた町にも私が一緒だから入れて喜んでたし。ここらが潮時ではないだろうか。武器も買ってあげたから、この二人なら無事に帰れるだろう。

「うちも行くー」
「もちろんわたしも付いて行きます」
 二人とも即答だな。

「でも、戻って来れないかもしれないんだぞ? 町で集めた情報だと、祠から消えたものは誰も戻って来ないって二人も聞いてただろ?」
「それでも行くー」
「はい、もちろんわたしも付いて行きます。どこへ行ってもご主人様と一緒なら問題ありません」
 何だ、この二人は。凄く嬉しいんだが、なぜこんなにも私に懐いているのだ? まさか、モテ期というやつか?

「だって、またあの缶詰っての食べたいしー。甘い油揚げも美味しかったもーん」
「確かにあの缶詰は魅力的ですが…いえ、それとは関係なくご主人様に付いて行くというのが従者の使命で……あの缶詰に釣られてというわけでは……ご主人様は非常に魅力的で…強くて…格好良くて…はっ、わたしは従者として何という事を…」ポッ

 缶詰か……私の魅力は缶詰に負けたか……モテ期では無かったんだな…
 でも、それでも嬉しい。こんなおっさんに付いて来てくれるって言ってくれたのが嬉しい。

「消えた先は私の世界では無いかもしれない。ここにももう戻って来れないかもしれない。それでのいいのか?」
「はーい」
「はい、構いません」
「よし、お前達の事は絶対私が守る。絶対に守ってやる」

 何の根拠も無く、そう宣言してしまった。
 この達の言葉が嬉しかったのと、刀を新調した高揚感で強気で言ってしまったんだろう。
 でも、後悔はない。私がこの達を守ってやると決めたのだから。

 運良く元の世界に戻れたとしても、私の所で暮らせばいいだろう。子供二人ぐらいなら養ってやるさ。
 そう心に決め、三人で祠へと向かうのであった。

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