十二英雄伝

ぷるっと企画

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零章 第二部『バーン来襲、アピュラトリス外周制圧戦』

三十七話 「RD事変 其の三十六 『バーンの獣』」

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 ホウサンオーがメイクピークたちと戦っている間、残りのゼルスセイバーズたち二十三機はドラグ・オブ・ザ・バーンに向かっていた。それをさらに二手に分け、退路を確保するために半数を無人機の牽制にあてる。

 そして、ドラグ・オブ・ザ・バーンに向かった彼らが取った戦法こそ、まさにホウサンオーが面倒だと思った【弱者の戦術】であった。彼らは障害物の少ないアピュラトリス外周には赴いたものの、遠距離からの砲撃のみで対応し、けっしてドラグ・オブ・ザ・バーンには接近しなかった。

 その距離、およそ八百メートル。レールガンの対MG有効射程距離がおよそ千メートルであることを考えれば妥当な距離ではあるが、ドラグ・オブ・ザ・バーンに対してのその距離からの砲撃は、おおよそ無力、無意味、無駄である。

 レールガンはリビアルの装甲すら穿つことができる強力な兵器である。ただし、それは最低でも三百から五百メートル以内に接近した場合に限られる。しかもドラグ・オブ・ザ・バーンの防御力はリビアルの比ではない。砲弾はすべて、恐るべき戦気の防御壁によって打ち消されてしまっていた。

 それでも彼らは攻撃をやめない。無駄だと知りつつ砲撃を続ける。彼らの目的はドラグ・オブ・ザ・バーンの注意を引くことであり、なおかつ【意図的な消耗戦】であるからだ。

 いかに強力な個体とて無敵ではなく無限でもない。その膨大な戦気もいつかは尽きるのである。また、魔人機である以上、燃料の補給も必要である。それも相手が何らかの手段を講じて補完してくる可能性もあるが、その隙を与えなければよい。そのための間断なき砲撃なのである。

 こうしてゼルスセイバーズは、ドラグ・オブ・ザ・バーンに付かず離れずの距離で砲撃を続ける。

(弱者…か)
 ガガーランドは彼らの無駄な攻撃を受けながら、自分よりも遥かに弱い存在を見つめていた。

 彼らは自己の弱さを自覚している。少なくともドラグ・オブ・ザ・バーンが自分たちより強いことを理解している。陸軍の実力者が集結したゼルスセイバーズにとって、こうした戦いを強いられることは苦痛であり屈辱であろう。せっかくの晴れ舞台。堂々と渡り合いたいものである。

 それをぐっと我慢するのは、彼らもまた心に期するものがあるから。この戦いの重要性を知っているからにほかならない。彼らに敗北は許されず、退却も許されない。どちらに転んでも未来はないのである。

 よって、彼らの取っている距離は絶妙である。もしドラグ・オブ・ザ・バーンが攻撃態勢に入れば即座に背後の施設群に後退でき、なおかつ移動しようとすればすぐに補足できる間合いを維持している。そのラインが八百メートルという距離なのである。

 ホウサンオーが嫌ったのは、これである。もしメイクピークたちがホウサンオーを絶対強者と認め、最初から勝つことを放棄していれば、ホウサンオーの剣の間合いである五百メートル以内に近寄ることはなかったはずである。

 オブザバーンは非常に優れた機体であるが、これをやられると厳しい。彼らにしてみれば夏場にまとわりつく蚊の群れ程度の存在なのだが、うっとうしいことには違いない。これは要するに【役割が違う】からだ。こうした雑魚を相手にするのは本来、オロクカカのようなバーンが適任である。そのために彼らがいる。

 しかし、今回の特殊な目的ゆえに、蚊VS猛獣という構図が成り立っている。これはこれで見る側にとっては興味深いものであった。

「オロクカカ、排除しなくてよいのか?」
「ガガーランド様のご命令です。あなたもあの機体には手出しをしないように願います」
 その様子を見ていたユニサンがオロクカカに確認を取る。ユニサンがここにいるのもオロクカカと同じ目的。特機であるオブザバーンに余計な消耗を与えないように雑兵の相手をすることである。

 現在、ダマスカス陸軍の大半は、塔の半径五キロ以内、第二防衛ラインから離脱しつつある。ユニサンのドラグニア・バーン、オロクカカのヘビ・ラテ、ロキのガヴァル、加えてオロクカカ操る無人機たちの前では通常の兵器は役に立たない。特に歩兵は無力で、彼らはすでに戦闘を諦めている。

 おそらく、これから行われる戦いで最後。アピュラトリスの外周制圧という、まず一つ目の目的が達成されることになるだろう。

(相手が理解できるほどに力量差は歴然。逆にやりにくいな)
 ユニサンはすでに多くの敵が離脱しているのを見て、ドラグ・オブ・ザ・バーンのほうの戦いを見物することにした。上位バーンの戦いを生で見られるのは、なかなかにレアな体験である。冥土の土産に見物していっても罰は当たらないだろうと考える。

 さて、ユニサンの見立てであるが、当然ながらガガーランドの優位は揺らがない。これは絶対的である。奇跡も起きない。拳を一撃でも放てば、半径二百メートルが跡形もなく吹き飛んでしまう。まるで存在自体が大量破壊兵器、戦術兵器と同規模である。

 ただし、それは相手も知っているため、けっしてその距離には近寄らないだろう。これは大きく距離を取っていることからも容易に想像できる。

 もちろんドラグ・オブ・ザ・バーンの攻撃方法は大地を殴ることだけではない。

「ふんっ!」
 ドラグ・オブ・ザ・バーンの手首が、ドアをノックするような仕草で軽くしなる。軽く放たれはしたが、その速度が速すぎるために恐るべき拳圧が生まれ、それに戦気が交われば【修殺】という覇王技になる。

 修殺は剣衝と同じ基本的な技の一つである。道場で習う場合、十メートル離れた板を拳圧で割れれば合格という基準がある。これが達人となれば百メートル程度は伸ばせる。当然、そこに込められた威力と戦気が上質ならば、加速度的に威力と間合いは大きくなる。

 ガガーランドが放つ一撃は、ただでさえ通常のものと大きく違う。そもそもドラグ・オブ・ザ・バーンが大きいのは、彼の身長や戦気の質も大きく関わっているのである。強化された般若ユニサンでさえ、身長は二百五十センチ程度。一方、通常の状態でガガーランドは三百五十センチはある。

 そこから繰り出される一撃は、まさに暴風。横に発生したハリケーンと同じ。一直線に放たれた修殺は、すべてを破砕する衝撃波となってゼルスセイバーズに向かっていく。ゼルスセイバーズは瞬時に異変を感じると攻撃を止め、全機が一斉に回避運動に入る。

 前方に陣取っていた機体は視認が早かったので全機回避に成功。後方で援護していた機体はやや反応が遅れ、二機が修殺に巻き込まれる。それは掠った程度。わずかに腕が逃げ遅れた程度。されど、ゼルスの腕は簡単に捻じ曲がっただけではなく、その威力は腕だけにとどまらず、機体全身を捻じ曲げていく。

 あまりの威力に耐えきれなくなった機体は、自らを宙に放り投げる。回転する。引きちぎられる。きりもみ状態で落下したゼルスは、すでに生存確認をするのも無意味なほどにズタボロになっていた。それは修殺が通り過ぎた後の残骸を見れば、実に頷ける結果である。

 修殺はゼルス二機を破壊しつつ、後方にあった施設もまとめて薙ぎ倒していた。まるでそこだけドミノ倒しでもやったように、いくつものビルが倒壊の連鎖を繰り広げている。そんなものに巻き込まれたのだから、触れたゼルスが圧砕されるのは当然のことのように思えた。

 されど、それを見たゼルスセイバーズは一瞬だけ静止したものの、すぐに隊列を組み直して再び砲撃を続ける。あれを見た直後に再開するなど常人からすれば狂気の沙汰である。が、彼らとて単に命知らずなわけではない。

(距離を測ったな。なかなかの練度だ)
 ユニサンは、ゼルスセイバーズがドラグ・オブ・ザ・バーンの攻撃範囲を見極めることに努めていることを見抜いた。彼らが距離を取ったのは、こうしてできるだけ多くのデータを取得しようとしているからだ。

 今の修殺の射程距離は、およそ千二百メートル。それを過ぎれば暴風と同じ程度にまで威力は抑えられ次第に拡散していく。木々にとっては災難であるが、鉄筋製の建造物ならば耐えられるだろう。

 速度も相当なものであるが、現在の距離であれば視認してから避けることは可能であると判断したようだ。事実、前衛にいたゼルスたちは回避に成功している。距離と速度さえわかってしまえば、彼らほどの操者と高性能MGであれば対応はできる。

 そして、彼らは再びドラグ・オブ・ザ・バーンを注視する。わずかな動きでもあれば回避運動を取れるように、慎重に慎重に砲撃を続けるのだ。

(これは嫌だな。近づけば逃げられ、戻れば追われる。距離は一定のままだ。戦士だと対応が難しい間合いだ)
 そう、戦士にとってこうした戦いを続けられるのが一番嫌なのである。
特に戦士は肉体を使っての戦いが主な攻撃手段であり、修殺のような遠距離攻撃はあくまで【牽制】手段にすぎないからである。

 修殺などで相手の動きを制限している間に接近し、肉弾戦による攻撃を仕掛ける。これが戦士の基本の攻撃パターンである。ドラグ・オブ・ザ・バーンも「最強の戦士が乗る格闘用MG」として開発されているので、拳以外の武器は搭載されていない。

 いや、そもそも拳が搭載されているという言い方はおかしいのだが、機体そのものが最強の武器であるため、両手足さえあればよいのである。今の攻撃を見ればわかるように、それ以外の攻撃方法は存在しないし、する意味もない。

 そんな機体の特性を即座に見破ったとは思えないが、ゼルスセイバーズは徹底して距離を取った攻撃に終始していた。自分を弱者と割りきることで、自然とそうした対応になるのだろう。そして、これが一番手間取る相手となるのだ。

(どうする? 俺だったら突っ込むしか選択肢がないが…)
 仮にユニサンがガガーランドの立場ならば、相手の砲撃をもらいながらも突進し、一機一機追い詰めて倒すだろう。なんてことはない。それしかできないからだ。

 おそらく相手は必死に逃げ回り、できるだけ時間を稼ぐだろう。倒すには倒せるだろうが自身もかなりのダメージを負い、しかもその間に数多くのデータを取得されることになる。そこでもしメイクピークたちが無事であれば、彼らがデータを使ってその仇を討つ、という筋書きである。

 その覚悟、見事である。ゼルスセイバーズは各人が優れた武人であると同時に、全体のために犠牲になる奉仕の精神も持ち合わせている。それはダマスカスが本来持つ、調和や互恵の特性を宿しているからだ。全体が一つのために、一つが全体のために動く。それがダマスカスの力なのである。

 ただ、こうなるとラーバーン側は厄介である。今はまだゼルスセイバーズだけがこの特性を持っているが、時間をかければダマスカス全体が呼応する可能性がある。そうなれば非常に手ごわい相手になるだろう。せっかく敢行した奇襲のメリットがなくなってしまうのだ。

 できる限り素早く、相手の弱点を突いて圧倒する。

 その電撃作戦こそがラーバーンの強み。けっして失ってはいけない要素なのだ。

(ガガーランド様は文句なしに武の化身。だが、それゆえに逃げ惑う相手とは相性が悪いか)
 ガガーランドが興味あるのは強い相手。自身に対して全力で向かってくる敵である。それこそ真なる武人。戦うことが呼吸をするごとく自然である闘争心の塊である者。

 一方、言ってしまえばこうした「こそこそした臆病な相手」は、最初からガガーランドの眼中にはない。だからこそ戦った経験が少なく、いつもより手間取るのではないか。ユニサンはそう思っているのだ。

「…ふむ」
 そんなユニサンの思案をよそに、ガガーランドがついに動く。その動きにもっとも反応したのは当然ながらゼルスセイバーズ。ドラグ・オブ・ザ・バーンが動いた瞬間に回避運動の姿勢に入る。

 しかしその直後、ドラグ・オブ・ザ・バーンが取った行動は誰もが予想しえなかったものであった。ドラグ・オブ・ザ・バーンは、あぐらをかく姿勢でゆったりと地面に座ると、両の掌を地面に添えたのである。

(土下座…?)
 一瞬、ユニサンはそれが土下座に見えた。両の手を地面に置いたのだから、そう見えても仕方がない。まるでジン・アズマに対して自分がやったような、這いつくばって頭を打ちつける動作に似ていなくもない。

 だが、ガガーランドがそのようなことをする理由はないし、彼の存在を考えれば、そうすることは絶対にありえないだろう。ならば、これは土下座ではない。

 ならば、何か。

 次の瞬間、ドラグ・オブ・ザ・バーンから戦気が消えた。

「っ―――!?」

 これに驚いたのは、なにもユニサンだけではない。映像を見ていた誰もが目を見張ったに違いない。このようなことは通常、絶対にありえないことだからだ。いや、そもそもMG戦闘でこれをやってはいけない。

 武人が発する戦気を増幅して動力にするのが魔人機である。では、その戦気の放出を止めればどうなるか。一応、魔人機には補助動力として通常の駆動システムが存在し、それらはアフラライトなどの特殊燃料によって稼働しているので、完全に止まることはない。単純に機体を動かすだけならば補助システムだけで可能である。

 しかし、それはあくまで動かせるだけにすぎない。高速移動はもちろん、MG特有の激しい戦闘などできようはずもない。それではMGの特性がすべて失われてしまう。それはつまり、ドラグ・オブ・ザ・バーンの圧倒的な防御力が失われてしまうことを意味する。

(なぜこのような…。いや、愚問か)
 通常ならば愚かな行為であるが、ユニサンが知るガガーランドならばやるかもしれない。そう思わせるほど、ガガーランドという男は【熱い】のである。

 ガガーランドは黙して座するのみ。その姿は何かの所作、作法にも似ている不思議な迫力があった。それゆえにゼルスセイバーズも警戒して動かなかったのだが、ドラグ・オブ・ザ・バーンに動きがないことを確認すると、ついにその意味を悟ることになる。

「「我々をなめている―――!!」」

 完全なる挑発。小馬鹿。ボクシングで逃げ回る相手にノーガードで挑発するように、自らの武器である拳と戦気をしまったのである。

 なぜか。
 ゼルスセイバーズが怖がっているから。

 その様子は、怯える子猫を驚かせまいと、大人が地面すれすれにまで背をかがめて接するかのごとく。完全なる格下。いや、完全なる弱者に対する強者の振る舞いなのだ。気遣いであり、労わりであり、慈愛にも似た感情である。

 ここまでの屈辱はない。今まで彼らが得た屈辱など、これに比べれば軽い切り傷程度に等しい!!

 ゼルスセイバーズは再び砲撃を開始。砲弾が容赦なくドラグ・オブ・ザ・バーンに注がれる。砲弾はドラグ・オブ・ザ・バーンに命中。戦気に阻まれていた今までとは違い、砲弾は装甲に直撃していく。甲高い衝突音を立てて砲弾が炸裂。爆発を引き起こす。

 ゼルスセイバーズは、それによってもたらされる結果を注意深く観察していた。塵が消え、望遠モニターでドラグ・オブ・ザ・バーンを確認。最初の所作のまま、まったく動いていない。それはそれで驚きである。だが、もう一つの驚きに比べれば、それもまた驚きに値しないだろうか。

「無傷…?」
 ゼルスセイバーズは、何も変わっていない現状に驚くというよりは困惑する。何かの間違いではないかと何度も望遠モニターを見つめる。だが、やはり何度見ても無傷である。

「ありえない!! そんなことは!!」
 相手は戦気の放出を止めた剥き出しの機体。いわばただの金属の塊である。それに最新鋭のレールガンがダメージを与えられないということなど、絶対にありえないことである。

 ゼルスセイバーズは、さらに砲弾の雨を降らせる。そのすべてが命中するも、ドラグ・オブ・ザ・バーンに変化が生じた気配はなかった。

「馬鹿な…! 本当に化け物か!!」
 ゼルスセイバーズのショックは相当なものだろう。今まで戦気によって防がれていると思っていたのだ。戦気さえなければ。そう思っていたのだ。それが関係なかったという事実は、彼らの戦意を喪失させかねない重大なショックである。

 だが、それはゼルスセイバーズが遠くにいたことと、超高速で起こっている【事象】を視認するだけの眼力を持たないことが最大の要因であることを彼らは知らない。

(ダメージは受けている。それはガガーランド様とて例外ではない。だが…)
 ユニサンの般若の眼は、それらの事象をすべて観察できたため冷静でいられる。知らないから動じるのであって、知ってしまえば困惑するようなことではないからだ。

 まず、砲弾は直撃している。その段階で機体の装甲には衝撃によって傷が生じていた。破壊されないのはドラグ・オブ・ザ・バーンの装甲が異様に厚いことと、材質が特殊であること、そしてほんのわずかだが戦気が出ていることである。

 このわずかばかり出ている戦気は、常人にとってみれば立派なものであるが、ガガーランドにとっては「呼吸に等しい」ものである。人間が発する無意識の生体オーラと同じ原理であり、闘うことが存在理由である彼にとってみれば、生きている間中、ずっと自然に出ているものにすぎない。これは彼が文字どおり、完全に力を抜いている証拠である。

 ただ、それでもレールガンの威力は相当なもの。それだけで完全に防げるものではない。それでもう一つの理由が必要となる。その答えは【自己修復】である。

 オブザバーンの装甲が特殊だといったのは、それが自己修復の性質をそなえているからである。これは特異なものではなく、今では術式加工によって付与できる力の一つである。一昔前までは呪術師が行っていたが、今は機械的に発動させることが可能となっているのは、すでに既知の通りである。

 術式装甲といえば、この装甲にも対銃弾用術式が植えつけられている。もともと素材自体が銃弾に強い性質を付与されているのである。これは格闘用MGならば当然といってもよいもので、ガネリア動乱時の試作機だったジンクイーザにも搭載されていた。だから、これはさして特別な要素ではない。

 であるならば、なぜこれが特殊かといえば、この装甲が【生物装甲】であるからだ。

 メラキ序列三十一位、リ・ジュミン。
 能力は【寄生】。

 タオがオブザバーンの装甲を自己修復型にする際、どうしても解決できない問題があった。通常の術式を組み込んでも、この大型の機体には焼け石に水。ドラグ・オブ・ザ・バーンの装甲を穿つほどの攻撃に対して、ちょっと程度の修復では意味を成さないのである。ならば、つけないのと同じ。むしろ無駄に容量を増やすだけになってしまう。

 しかし、タオは自己修復型にしたかったのである。
 なぜか。カッコイイからである。

 最強の戦士のための最強のMGとなれば、やはりタフでなくてはならない。そのタフな機体のためには自己修復は必須。単にそう考えていたのだ。本当にそれだけである。

 で、リ・ジュミンの話に戻る。彼女の能力である寄生は、さまざまな寄生虫を物質に寄生させることができる能力である。もともと加入前はこの力で寄生虫療法の仕事をやっていたので、用途は主に人間や動物の治療。つまりは医者である。

 たとえば特定の毒素を栄養にする虫を寄生させて解毒したり、手術するには危険な場所にあるガン細胞を食べさせたりする。それ自体は生理的嫌悪をもたらす治療法であるが、たとえば細胞内のミトコンドリアのように、もともと人間は他の生物と共生することで生きている生物であるため、実際は虫とも相当相性が良いのである。

 リ・ジュミンは自身の体内にも数多くの虫を飼っているので、いざというときは彼女自身が医療器具になれる便利な人物である。ただ、治療の際は視覚的に相当すごいことになるのは、すでに指摘した通り。

 加入当初、能力のお披露目として、怪我をしたバーン(タオの実験で怪我をしたガルベス)を治療する際、寄生型蛆虫を口から出したのだが、それを見た女性陣の大半がフリーズ。恐怖におののき、しばらくリ・ジュミンを避ける事態が発生した。そのためしばらく一人で食事を取る姿が深夜の食堂で見られるという哀しい出来事があった。

 さすがに上位バーンのマーガ・タフィー(女性、料理人)などは例外で、蛆虫を料理にして食べようとして大バッシングを受けたくらいであるが、便利なものでも生理的に受けつけない女性は多いようである。

 さて、また話は戻って、この自己修復の難問に到達した際、タオはふと気がついた。

「リさんの能力なら無機物でもいけるんじゃね?」

 リ・ジュミンの能力は、単純に寄生虫を操るだけではない。最初に述べたように「物質に寄生させる」能力である。よって、本来ならば寄生できない虫であっても、寄生型に作り変えることができるのだ。

 寄生させるための媒体条件は「物質であること」らしい。

 人間の肉体も物質である。彼女の用途だけ見れば有機物に特化している能力であるが、もしかしたら無機物でもいけるんじゃないか。いやきっといけるに違いない。タオはそう考えた。というよりは、思いついたら試さないと気が済まないのである。

 そんな軽いノリで、半ば強制的に拉致られてきたリ・ジュミンには同情するが、嫌々ながらも実験に付き合わされた。その結果として生まれたのが件の生物装甲である。

 寄生させる虫は、「ドドテアリ」という最大全長が十分の一ミリ程度の極小生物である。この虫は【埋める能力】に長けており、口から出した粘液で傷口を補強するという性質を持っている。あらかじめ寄生させておけば、人間ならば切り傷くらいはすぐに固まるようになる。外部の傷にしか反応しないため、血が止まりにくい高血圧の薬を服用する人間に使えば、血小板の代わりをしてくれる有益な寄生虫である。

 これをルイセ・コノのもう一つの能力である【機械融合】でナノマシンと融合させ、装甲内に常駐させる。また、それだけでは修復能力が維持できないので、細胞内で「プラント」を用意し、自分で細胞分裂する遺伝子を組み込んである。そう、自己修復を維持しつつ、虫すら保持し続ける永久機関の仕組みがあるのだ。

 ただ、何事も良い面ばかりではない。悪い面がある。その一つが戦気の馬鹿食いである。このドドテアリの食料は戦気なのである。本来のドドテアリは損傷した細胞を食べて代わりに分泌液で補強する虫だが、これを戦気に変えることで問題をクリア。戦気が続く限りは活動と増殖を続け、戦気がなくなると休眠状態になるようになった。

 結果的に搭乗者に負担がかかるようになったが、それは搭乗者自身の能力でカバーするという、いつもの手に頼ることにした。やや反則であるが、もともとタオの機体は搭乗者に負担をかけるものなのである。

 こうしてリ・ジュミンの協力?のもと、オブザバーンは念願の自己修復能力を手に入れたのである。もちろんホウサンオーのナイト・オブ・ザ・バーンにも搭載されており、損傷した機体が回復したのも、この生物装甲によるものである。

(自己修復があまりに速いのだ。だから無傷に見える)
 ユニサンはこうした事情は知らなかったが、単純に傷ついた瞬間に埋められていく装甲を視認しているので、何が起こっているのかを理解していた。ゼルスセイバーズも、もっと近くにいれば見ることができたかもしれない。

(基礎能力が違いすぎる。やはり【別物】だ)
 ユニサンは般若になってみて、ようやく存在が違うという意味がわかった。以前の人間の肉体と般若の肉体とでは、そもそもの造りが違うのである。

 闘うための肉体。相手を倒すための存在。
 そう作り変えられたのだ。それはもはや生物兵器である。

(ガガーランド様は、おそらく鬼人種。人間とは根底から違うのだろう)

 この世界には亜人やモンスターと呼ばれる存在もいる。彼らの多くは自然環境に適応するために進化していった種であるが、その中には人間より優れた能力を有する者たちがいる。鬼人もその一つ。強固な肉体と攻撃的な能力をそなえた亜人である。

 鬼人種にもいろいろな種類がいるが、総じて殺傷能力が高い種族である。子供であっても人間の大人を簡単にくびり殺せるくらいの力があり、また特異な能力を有することもある。電撃や炎を出したり、武人の能力に似た力を有する者もいる。

 ユニサンもガガーランドの素性は知らないが、その容姿からして普通の人間でないことはわかる。また、普通の人間であればドラグ・オブ・ザ・バーンには乗れなかったに違いない。

 ただ、ガガーランドが武人の戦士の因子を持つことから、より人間に近い種類の鬼人種だと思われた。こうした戦気を持つ亜人種は少ないが、彼らは傭兵として人間社会で生計を立てる者もそれなりにいるので、けっして珍しいとはいえない存在だ。

 唯一珍しいのは、彼が通常の鬼人種を遥かに超越した戦闘力を有していることである。それは生身で魔人機を軽々破壊できる力。存在そのものが破壊者であるということだけ。防御力も並外れているし、彼自身の肉体にも再生能力があるほどだ。

 当然、これらの事情はゼルスセイバーズが知る由もないことである。それでもこの距離では砲撃が通じないことはうすうす彼らも理解しつつあるようだ。徐々にだがドラグ・オブ・ザ・バーンに接近しているのがわかった。非常に少しずつ、されど細心の注意を払って近づいている。

 ドラグ・オブ・ザ・バーンは、いまだ地面に掌を押し付けたまま。その微動だにしない様子から、本当は無人なのではないかと思えるほど周囲は静寂に包まれていた。

 それに耐えられなかった者が何人かいた。
 ゼルスセイバーズのアタッカーたちである。

 彼らの武装は一般用に調整された高周波ブレードで、ザンギリやリンドウのように高出力ではないが、それでも通常の剣以上の武器である。その威力もリビアルを切り裂いたことで実証済み。

 ならば、ドラグ・オブ・ザ・バーンとて切り裂けるはず。もしそうでなければ彼らは本当の意味でショックを受けるだろうし、二度と武人として生きてはいけないほどの絶望感を味わうに違いない。

 仲間の忠告を無視するほど彼らは焦っていた。怒りもすでに焦燥に変わるほど、今すぐに確かめずにはいられないのだ。ノーマルゼルス五機は巧みに互いの位置を入れ替えながらドラグ・オブ・ザ・バーンに接近。彼らも日々の鍛錬で高等なフォーメーションを身につけている。

 最初に到達したゼルスの操者にも恐怖はあった。これほど規格外のMGと対峙するなど人生で初のこと。ともすれば、これほど巨大なMGに接近戦を挑む人間はMG史上で初かもしれないほどレアな体験であろうか。

 ゼルスが高速で接近し、やや及び腰の姿勢でドラグ・オブ・ザ・バーンの腕を斬りつける。クウヤならばいざ知らず、さすがに正面から斬る度胸は彼にはなかった。だからせめて、まずは攻撃が通用するかを確認するために目立つ腕を斬ったのだ。

 ブレードが腕に到達。相手に動きはない。まだ警戒を解かない状態での一撃のため渾身とはいえない一撃。されど、その一撃が装甲に当たり、削り、振り抜いた時には火花のような光が走った。これは高周波ブレードが効果を発揮した時に発する振動光である。

 そして、ドラグ・オブ・ザ・バーンの装甲に傷が入った。硬めの木材に斧がわずかに食い込んだような、わずかではあるがしっかりとした痕跡が見えた。

「え?」
 その間抜けな言葉も、きっと彼は意図して出したものではないだろう。同時に、この結果も意図してなかったかもしれない。ブレードは見事に相手の腕に傷をつけたのだ。

 ただし、それは即座に塞がっていく。内側からパテを押し付けたように、少しずつ削れた痕が盛り上がり、平坦に埋まっていく。その部分は虫の分泌液によって、あと数秒もすれば元通りの硬さになるだろう。

 だが、ドラグ・オブ・ザ・バーンに傷をつけたのだ。
 間違いなく彼が。ゼルスが。ブレードが。

(だろうな。当然の結果だ)
 ユニサンは驚くことなく結果を見つめていた。ガガーランドがまとう最低限の戦気は上質であるも、通常の戦闘で扱う戦気の放出からすれば物足りない量である。わずかであっても攻撃が通るのは必然だった。

 そのうえゼルスセイバーズの武装は、ラーバーンの無人機にも通用する最新鋭武器なのだ。乗っている武人もダマスカス陸軍ではトップクラスの連中。普通の騎士団などより、遥かに充実した戦力を有しているといえる。

 おそらくオロクカカも同じ意見だろう。唯一違う両者の反応は、ユニサンが冷静でいる反面、オロクカカは悲痛に似た面持ちでいるであろうこと。

 上位バーンに傷をつける。つけさせてあげる。それが同じバーンであるならばまだしも、たかがダマスカス陸軍程度になど彼の性格上、到底許せるものではないはずだ。今頃は「なぜ!」「どうして!?」という叫びを心の中で反響させていることだろう。

 それはユニサンも同じこと。ガガーランドが、なぜそのような振る舞いをするのかわからないからだ。彼ほどの力があれば、相手を追い詰めて殺すことなど容易なことだろう。さきほど見せた拳衝を連打すれば、多少時間はかかっても簡単に沈む相手に思える。

「やれる! ブレードならば効果があるぞ!」

 この言葉でゼルスセイバーズは息を吹き返す。前衛のゼルスはブレードで斬っては離脱を繰り返すヒットアンドアウェイでドラグ・オブ・ザ・バーンに攻撃を開始。その間、後衛のガンナーたちはレールガンで支援する。

 彼らは薄氷の上にいる気持ちを崩さない。少しでもドラグ・オブ・ザ・バーンの挙動に異変があれば、すぐにでも離脱できるように大振りはしていない。

「相手の腕に注意しろ! 何か狙ってくるかもしれん!」
 ゼルスセイバーズはドラグ・オブ・ザ・バーンの腕を注視する。少しでも戦気が集まった瞬間、プライドも捨てて脱兎のごとく逃げる覚悟はできている。それならば回避は可能。少なくとも全滅はないだろう。そう考えている。

 近接MG戦闘において攻撃の動作に移るには、まず戦気を放出しなければならない。通常は全身の戦気を一定に保ちながら、攻撃の瞬間に戦気を腕に集める。もちろん一定のまま攻撃してもいい。その場合は攻撃力は落ちる(最初と変わらない)が、防御が落ちる危険性もない。

 今のゼルスセイバーズがその状態である。攻撃が通じるギリギリの戦気を放出しつつ、万一のために防御に回す余裕をもって攻撃している。このあたりはさすがの腕前である。いつ動き出すかわからない猛獣の前で、神経をすり減らして戦っているにもかかわらず、彼らの集中は途切れない。相当に厳しい鍛錬を積んでいる証拠だ。

 ガガーランドは動かない。次々と斬られても、同じく次々と修復するのだから余裕を崩さないのも当たり前である。はっきり言えば、さして効いていないのだ。相手もそれは承知の上だろう。それでも相手が続けるのは、これが無駄ではないからだ。続ければ相手の戦気は少なからず消耗する。塵も積もれば山になるのは事実である。

(何を狙っているのかわからん。特に何も視えぬ)
 ユニサンの般若の眼をもってしてもドラグ・オブ・ザ・バーンに変わった点はない。ただ奇妙な格好をして座っているだけだ。ある意味では、それは仏像が悟りを開いたかのように、達観し、無駄である行為をただ見つめる強者の図なのかもしれないが。

「さて、もういいか」

 ここでようやくガガーランドが言葉を発し、ドラグ・オブ・ザ・バーンがゆっくりと立ち上がる。

 その瞬間、数多くの人間がドラグ・オブ・ザ・バーンの腕に注目したに違いない。もし戦気が宿っていれば、この状況は一気に変わることを知っているからだ。しかし、その腕は何もまとっていなかった。最低限の戦気をとどめただけの状態。素の状態である。だが、ガガーランドはすでに終わったと言っている。

 視線がドラグ・オブ・ザ・バーンに集まる。
 何か変化はないかと見定めようとする。

 だから彼らは気がつかない。

 次の瞬間、多くの木の葉が風に揺られて飛んだ。

 この表現は比喩のようでありながら、実際にそれに近い光景が見られた。ドラグ・オブ・ザ・バーンから距離を取ろうとしたゼルスセイバーズが、突如として宙に放り出されたからだ。まさに木の葉のように軽々とMGが空に舞っていく。

 風が舞ったのは、ドラグ・オブ・ザ・バーンを中心に千メートルの範囲。おそらく視界に見える外周エリア一帯を覆ったであろう超広範囲の戦気の風が、地面から放射されたのだ。

 そして、戦気の風は急速に形を変えて【魚網】を生み出していく。網状になった戦気は急速に収束し、ゼルスセイバーズたちを絡め取っていく。散らばっていたゼルスたちは網の中で一箇所に集められ、強引な力で団子のように固まることを余儀なくされた。まさに【一網打尽】である。

 これに特に技名はないが、戦気術の一つに【網錦あみにしき】という技がある。戦気を網状に変えて応用する。それだけの技である。網がない時に使うと便利、獲物を捕獲する際に罠にも使えるというもの。わざわざ戦気で代用するのは大変なので、普通のワイヤー網を使うほうが楽であるし確実である。

 また、覇王技にそれを応用させた【黄燐おうりん・網錦】という技がある。戦気を鋭利な網状にして敵を拘束しつつ攻撃する技である。ただ、どちらにしてもここまで広範囲な技ではない。せいぜい数十メートル程度の広さで使うのが一般的である。

 しかし、問題はそこではない。

(まさか…信じられん!)
 ユニサンの般若の顔が驚愕に歪む。般若の眼をもってしても視るのがやっとだったのだ。この時になっても彼らは何が起こったのか理解していないに違いない。それが理解できたのは傍から見ていたユニサンたちだけだろう。

 ゼルスセイバーズが宙に舞ったのは【下から攻撃を受けたから】である。突如真下から突風が吹いたように戦気が舞い上がり、彼らを押し上げたのだ。

 ただし、ユニサンが驚いたのは、発動の瞬間まで戦気が見えなかったから。

 通常、戦気は隠せない。抑えて誤魔化すことはできても、透明化して隠すことはできない性質を持っている。だからこそ武人は相手との力量差を戦気で簡単に知ることができるのだ。しかし、ガガーランドの戦気はまったく見えず、感じられなかった。彼の特殊な能力でないとすれば、答えは一つしかない。

(より細かい粒子で静かに放出した…。あのガガーランド様が?)
 戦気をギリギリまで細かい粒子に変換し、相手に気づかれないほど静かに放出する。それならば原理的には可能である。が、かなりの厳しい条件が必要となる。

 まずドラグ・オブ・ザ・バーンに戦気の乱れがあってはならない。不自然な揺らぎがあれば相手は警戒して近寄らないだろう。完全に戦気を操る高度な戦気術のスキルが必要だ。加えて素早く技を発動させる練度が必要となる。

 それ以上に難しいのが、一定箇所に戦気をゆっくりと溜めること。戦気というのは強力なエネルギーである。川の流れと同じで、攻撃にもちいる際は激流に近いものだ。それを静かに操るのは非常に難しい。

 静かに素早く、まったく心を乱さずに戦気を完全に操る。発動したら、相手が気づく暇も与えないほど一気に放出する。まさに戦気術の理想のような神業である。問題は、それをガガーランドがやったこと。ホウサンオーならばまだしも、あの荒々しいガガーランドがやったこと、やれたことが驚きであった。

(俺には無理だな)
 まず攻撃されている段階で、どうしても「受けの反射」が生まれてしまう。相手の殺気や敵意に反応してしまうのだ。たとえば防御創のように、誰かに攻撃されれば身体は反射で防御の態勢をとってしまう。そこで揺らぎが生まれてしまうだろう。

 いくらダメージをさして受けないとはいえ、攻撃されながらこの作業を行うことは至難である。大人が精密な作業を子供の群れに邪魔されるのに似ている。そんな中でも、ガガーランドはいっさいの静寂を貫いた。その心の奥深さは簡単には説明できない。

 最高の力を、最高の技術で、最高の心で行う。
 それは至高の頂。
 人間がたどり着くことができる最高の場所の一つ。

 ドラグ・オブ・ザ・バーンは、網に絡め取られたゼルスにゆっくりと歩み寄る。罠にかかった獲物を物色するような動きに、生け捕りにされた彼らの恐怖はいかほどのものであったか。

「やはり釣りは好きではないな」

 ただそれだけを言い残し、拳を振り上げる。再び爆炎のごとく迸った戦気が拳に集まり、百メートル大の球体になっていく。そして、それを躊躇なく網に絡まった【魚】に対して振り下ろす。

 覇王技、裂火掌れっかしょう。掌に集めた火気を圧縮して打ち出す技である。ハーレムも得意な技の一つで、相手の腹に叩き込むと面白いように吹っ飛ぶ技だ。特に難しい技ではないので、修得している武人は多い。

 それがここまで巨大でなければ。

 もはやバラバラという言葉は的確ではない。塵すら残さないほど跡形もない。自身が生み出した網すら簡単に滅するほどの超高圧の炎によってすべては消失した。

 ホウサンオーに釣りを押し付けた手前、自分も少し挑戦してみた。
 が、やはり自分は釣りには向かない。
 面倒だし、小魚を相手にするのは趣味ではない。

 それが彼の出した結論。

(できないのではない。やらないのだ。…これが最上位バーンか)
 ユニサンは、憧れの眼差しとともに激しい畏怖を感じていた。

 あのような振る舞いをしたのも相手を困惑させるため。罠を仕掛けるため。さらにあえて立ち上がったのも、相手の注意を自身、横の視線に釘付けにするため。そうして下への注意を疎かにさせ、すべての獲物を難なく捉えることに成功したのだ。

 こうした順序を取ったのは、静かに放出した戦気であり、広範囲に展開したがゆえに強度的にはけっして強くない技だったからだ。もし事前に敵に気づかれていればブレードを使って網を防がれた可能性もある。そうなれば「釣りは失敗」である。結果は変わらないが、余興は失敗していたに違いない。

 ガガーランドは荒々しい戦いを好む。乱暴に戦気を放出し、蹂躙する戦い方を好む。好むだけであってけっしてホウサンオーのような戦い方ができないわけではない。あえてしないのだ。それでは【つまらない】から。

 知性ある猛獣。
 知略を有するバーンの獣。

 これほど恐ろしい存在はいないだろう。

 それがバーン序列三位、ガガーランド。

 バーン最強の戦士である。

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