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「ここは異世界だよ」編

三話めぇ~ 「スキルの代償」

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「すごい、すごいよ! 毛が増えたよ!」

 毛が増えて喜ぶ人は非常に限定的だ。
 薄毛の人なら感動かもしれないが俺は嬉しくない。

 しかもスキル名が「ヒツジ」かよ。
 羊毛アップとかにしてくれよ。

 というか、このスキルに何の意味があるんだ?
 どう考えてもいらないスキルだろう。

「考えてもみなよ、お金持ちだよ」

 こいつ、俺を売るつもりだ。
 せめて寒いときに役立つね、くらい言ってほしい。

「ヒツジさんってさ、毛を刈られるじゃん。私たちの生活においては必需品だもんね。売れるよ!」
「俺たちは許可していないがな」

 すでに「俺たち」と言ってしまったが、俺としてはそんな許可を出したくないね。
 考えてもみろよ。自分の毛を売るんだぜ?

 そりゃ昔はそういった商売もあったらしいけど時代が違うよな。
 はっきり言うと背毛だぜ? 背毛?
 お前ら俺の背中の毛をわざわざ買うか?

「じゃあ、奪い取るから」

 人間めぇえええええ!

「もう一回やって、もう一回!」

 こいつの魂胆はわかっている。
 もう一度確かめて、問題なければ売るつもりだ。
 その証拠に目の中に金(かね)の文字が見える。

「私の場合は金(きん)って読むんだよ」
「なあ、続けて『たま』って言ってみろよ。へへっ」

「えーーーーいっ!」

 バコッ、キーン!

「いやぁああああああ!! 玉がぁあああ!」


「ちょっと待てよ。こういうスキルってさ、MPとか使うんじゃないのか?」

 ゲームによくあるMP(マジックポイント)やらBP(バトルポイント)やら、そういうのが減るのがセオリーだ。

 もしこの羊毛アップにリスクがあるなら、できるだけ使いたくない。
 だって今のところ利益ないしな。暑いだけだ。

「じゃあ、何が変わるか確認してみようよ」
「しょうがない。あと一回だけだぞ」

 俺も確認したいからな。ここはもう一度やってみよう。
 思えば男の髪の毛が増えて喜ぶやつはあまりいないよな。

 「あれ、課長、増えました?」なんて言ってみろ。
 明日から気まずい職場になるじゃねえか。
 俺は嫌だね。そんな荒ぶる職場はさ。

「スキル『ヒツジ』!」

 モコッ!

 毛は増えたな。たしかに。
 「暑い」から「うわぁ、あっつーい」て感じになった。

「じゃあ、ステータス出してみて」

 はいはい、わかりましたよ。
 フェイスオープン! と心の中で言ってみる。


 名前:シゲキ
 HP:3
 MP:2
 年齢:生後二分くらい
 レベル:0
 職業:ヒツジ
 装備:素敵な生身
 スキル:「ヒツジ」


 ステータスを開くとなんか増えてる。
 おいおい、さっきまでなかったHPとかの項目が増えているじゃねえか!
 これじゃ減ったのかどうかわからないぜ。

 ん? 項目が増えたことにもっとツッコまないのかって?
 まあ、いいんじゃないか。
 ヒツジになったことに比べればたいしたことないぜ。

 悪いが俺は驚かないね。
 こんな程度じゃさ。へへっ。

「シゲキ君、もう一回やってみてよ」
「お前な、本当に他人事だとやる気満々だな。これが最後だぞ」

「スキル『ヒツジ』!」

 俺がスキルを唱えるが、今度は何も起きない。
 どうしてだ?
 まさかなんか底をついたか?

「じゃあ、出してみて」
「あ、ああ。俺も気になるしな」


 名前:シゲキ
 HP:3
 MP:2
 年齢:生まれたて
 レベル:0
 職業:ヒツジ
 装備:素敵な生身
 スキル:「ヒツジ」


 ん? なんだ? 何が変わったんだ?
 よくわからんぞ。

「やっぱりね」
「何がやっぱりなんだ?」

「シゲキ君、ヒツジ使うと若返るんだね」

 年齢がぁあああああああああ!!! 
 年齢が減ってるぅうううううう!!

 しかもこいつ、やっぱりねとか言ったぞ。
 さっき薄々気がついていながらあえてやらせやがった!

 もし年齢がマイナスになっていたらどうしてくれるんだ!
 受精卵だぞ! 卵になるんだぞ!
 いやそれどころじゃ済まない!

 泳げおたまじゃくし君になったらどうするんだ!

 …すまん。はっちゃけたな。
 シモが多いな。気をつけよう。

「さっき生後二分だったし、マイナスにはならないみたいだね。よかったね」

 よかったね!!?
 とんでもない女だ。俺を実験材料にしやがった。
 第三話にしてこいつの本性が丸見えじゃねえか。

「たぶん十分ちょっと減るのかな? じゃあ、一時間で五回くらいできるかなぁ?」

 恐ろしい。すでに生産するつもりだ。
 そうなったら俺は常時生後何分じゃないかよ。いいのかそれで?

 とりあえずスキルを使うと年齢が減るらしい。恐ろしいシステムだ。
 ぷるんには悪いがあまり使いたくないな。

 いや、悪くないな。
 こいつに対して何の恩義もないんだ。
 自分の身は自分で守ろう。

「ぷるん、お前のスキルは何だっけ?」
「私のは『ヒツジ系武具装備可能』だね。これは使用スキルじゃなくて常時発動型だね」

 ああ、ゲームでよくある「両手剣装備可」とかああいうやつか。
 普通の装備に加えてヒツジ装備が可能ってことなんだな。

「ねえ、ヒツジ装備ってことはヒツジから作るのかな?」

 …その目、物欲しそうな顔はやめろ。
 目の前に素材があるような目つきはやめてくれ。

「しょうがない。身体よりマシだ。毛なら刈ってもいいぞ」
「…なんか臭いね。私はいいや」

 臭い―――!!!!???

 思春期の少年に言う言葉じゃねえな。
 言っちゃならない言葉ランキングトップ五には入るぞ。

 このやろ、このやろ!

「押しつけないでよ、臭いから」
「ムキーーー! 臭くない! 俺、臭くない!」


「おい、これからどうするよ」

 ヒツジになったことは受け入れよう。
 カエルになった王子様みたいに何か魔法にかけられたのかもしれない。
 おっ、そうだ。その手があったか。

「おい、俺にチューしてみろよ。戻るかもしれない」
「え? 獣と?」

 獣とか言うなよなぁあああああ!
 人間だって半分は獣じゃねえか!!
 なんか違う感じで攻められたほうがまだよかった。

「とりあえず町を目指そうよ」
「RPGの基本だな」

 現在は旅の扉に飛ばされてどこかわからずに心細い状態だ。
 何ここ。町どこ? 早くセーブしたい。って感じだ。

 ここが本当に異世界かはわからないが生活の基盤が必要だ。
 町を目指すのは賛成だな。

 俺とぷるんは適当に道に沿って歩きだす。
 道があるってことは人がいるってことだもんな。

「る~る~るる~ヒツジ~ヒツジだよ~。可愛いヒツジだよ~♪」
「シゲキ君、それ何の歌?」

 これは俺が作った哀しきヒツジの歌だ。
 気分はドナドナだな。

 よく現実世界で人生リセットしたいとか言うやつがいるが、次の生活がヒツジだとわかればたぶん嫌だと思うんだよな。
 リセットしたくなかった俺がヒツジになるのはどう考えても理不尽だ。

 だが、めげていても仕方ない。せめて可愛くあろう。
 どうだ? 歌うヒツジは可愛いだろう?


「あはは、キモッ」


 お前ぇえええええええ!!!

 いつか見てろよぉおおおおお!!!

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