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「ここは異世界だよ」編

五話めぇ~ 「ヒツジってすごいね」

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「お前、俺を囮にして逃げたな」
「違うよ。後ろに前進したんだよ。シゲキ君が逃げ遅れたんじゃないの」

「『行け!』とか言ったよな。俺を押したよな」
「そんなこと言ったかな? 押してないよね?」

 こいつ、完全にしらを切るつもりだ。
 とんでもない女だ。

「それにしても無事でよかったよ」
「無事じゃねえよ! 食われたよ!」

 ジャイアントクマーに襲われてラム肉にされて食われた。
 間違いない事実だ。

 俺の記憶があるのは最初の一撃までだが、ぷるんが言うには戻ったら食べカスが残っていたらしい。
 しばらく見ていると、少しずつラム肉が増えていって元の状態に戻ったという。

 俺が気がついたときには熊はいなくてぷるんがいた。
 その時の第一声と同じことをぷるんが言う。

「ヒツジってすごいね」

「そんなわけあるか。俺、死んだろう? お前が見捨てて死んだんだぞ!」
「そこを強調されてもな」

「重要だろう! あとで乳吸わせ…」
「えーーーーい!!」

 ビリビリビリー!

「いった――――――い!」

 皮剥ぎ制裁。
 思えばこの皮もすぐに戻るので、再生能力とかあるんだろうか。

「ねえ、ステータス出してみなよ」
「いいけどさ…ちょっとトラウマなんだよな」

 年齢が減っていたしな。
 見るのは怖いけど確認しないともっと怖い。



 名前:シゲキ二匹目
 HP:3
 MP:2
 年齢:生後十五分
 レベル:0
 職業:ヒツジ
 装備:素敵な生身
 スキル:「ヒツジ」「ヒツジ2」



 増えてるよ!!
 なんかスキルが増えてるよ!

 だが、それよりスキル名が気になるぞ。
 ヒツジ2って適当すぎるだろう!

「おいおい、なんだこの『ヒツジ2』は」

 また増毛じゃないだろうな。
 二度続けてはさすがに怒るぞ。

「これってさ、不死能力じゃないの?」

 反論したいがすでに復活したのは事実だ。
 可能性はある。

「でもよ、そんな能力チートじゃねえか」
「異世界に来たら特殊な能力を持つのが普通なんだよ。よかったね、ラム肉」

 呼び捨て!?
 いや、そこじゃない。ラム肉と呼ぶな!

 気がつくと名前も二匹目になってる。
 再生するとこうなるのか?
 それとも俺という存在は一度死んで生まれ変わったってことなのか?

「どっちでもいいけどね」
「お前のせいだぞ! そこは認識しろ!?」
「もう終わったんだからいいじゃん」

 とりあえずヒツジ2は不死性っぽいということになった。
 俺としては人生終わってくれたほうが幸せだった気もするから微妙なスキルだ。

「あの、ありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げる茶色の髪の女の子がいる。
 背はぷるんより少し小さい。

 まだ八歳くらいかな?
 そういえばフラグを回収したんだった。

「フラグじゃないよ。リーパちゃんだよ」
「お前のせいでそのへんの事情を知らないんだよ!」

 ぷるんは逃げて隠れていた間に名前を聞いていたらしい。
 それだけならばよいが、談笑していたと聞いたときはマジ怒ったね。

 ああ、ヒツジが怒ったよ。
 噛むぞ、こら。

「さっきから文句ばっかりだね。楽しくいこうよ」

 こいつは楽しいかもしれないが、俺は酷い目に遭った。
 ちなみに死ぬ時は痛みとかなかった。

 衝撃で一瞬で意識を失って終わりだ。
 ある意味ではあのクマーのほうが優しいやつだったぞ。

「ラム肉もありがとうございました」
「それはあげたつもりはない!! だが、持っていけ!」

 リーパがお礼を言う。
 あげたつもりはないが、べつにどうしようもないので気にしないことにしよう。
 俺は幼女には甘いのだ。

「ねえ、お肉持ってよ」

 だがこいつを甘やかすつもりはない!

「どうして俺が自分の肉を持たなきゃならんのだ!! お前が持て!」

 肉が肉を背負っているんだぞ。おかしいだろう!
 こいつはちゃっかりと自分の分も確保していた。俺の肉なのに。

「だって、手が汚れるし」

 しかも汚いものを見る目だ。
 とりあえず近くの葉っぱでくるんであるものを、なぜか俺の背中に乗せようと画策しているらしい。

「お礼にうちに寄っていってくださいね」

 リーパの家は牧場を経営しているらしい。
 家はすぐ近くだ。

「何を飼っているの?」

 ぷるんが尋ねる。

「ヒツジです」

 今一番聞きたくなかった言葉だ。
 ここいら一帯は牧羊地で、いくつかの牧場が共同で管理しているようだ。

「よかったね。友達がいるって」

 そしてさりげなく俺にラム肉をくくりつける。
 こいつ、一度お仕置きしないと駄目だな。
 完全になめくさってやがる。

「この辺ってジャイアントクマーってよく出るの?」

 ぷるんが聞くとリーパは首を横に振る。

「普段は出ないです。最近は環境汚染の問題でこのあたりにも来るようになって…」

 それだーーーーーー!!
 クマが言っていたのはそれだーーーー!!!

 つーことはなにか? 俺は他人の都合で犠牲になったのか?
 やりきれないよな。クマ正しいな。俺を食ったこと以外は。

 まったく、どこの世界も同じじゃないか。
 わざわざ異世界に来てまで聞きたい話じゃないぞ。

「なあ、あの熊ってどれくらいのレベルなんだ?」

 ちょっと尋常じゃない強さだったな。
 一発で三十五ダメージってのはきつい。
 おかげで即死できたわけだが…複雑だ。

「んー、『さまようよろい』よりちょっと強い」

 微妙な強さだ。
 少なくとも最初の大陸をクリアできるレベルがないと倒せないな。
 氷の魔法が欲しいところだ。

「でもたまに蜂に負けるよ」

 蜂怖い。俺も蜂だけは苦手だ。

「ねえ、この世界って魔法あるの!?」

 ぷるんが嬉しそうにリーパに尋ねる。
 思いきり「この世界」とか言っちゃっているけどな。
 そういやこいつ、魔法とか好きだったな。

「ゲームではあったよ」

 ゲームって言っちゃ駄目だから!!
 なっ! ゲームとか言うなよ!?

「魔法?」
「こう、手からビームとか目から光線とか出るやつ!」

 両方ともビームじゃねえか!!
 光線もビームも同じだよ! 手か目かの違いだよ!!

 しかもそれは魔法じゃない気がする。
 緑の人が放つ系のやつだろう。あれは魔法違う。

「ありますよ」

 あるのかよ!!!

「足の裏からなら」

 そっち!!?


 で、そのリーパの家に着いた。

 俺はよく知らないけど、テレビや修学旅行で見た一般的な牧場って感じだな。
 家の隣にはヒツジたちがいるであろう大きな小屋がある。

「どうぞ、入ってください」
「お邪魔しまーす」
「邪魔するぜ」

 すると中からおばあさんが出てきた。
 リーパに聞いたところによると、おばあさんとリーパの二人だけでこの牧場を経営しているらしい。
 まあ、そのあたりは家庭の事情だからつっこめないよな。

「お母さんはいないの?」

 ぷるん、空気読めよぉぉおおお!

「お父さんはどこ?」

 言っちゃらめぇえええ!!

「お母さんの死因は? お父さんは苦しんだの?」

 お前一度反省しろよ!!!!

「お父さんは丸太流し祭の時に下敷きになって死にました」

 言わなくていいから! って、そんな死に方かよ!
 笑えないから! 祭りで死んだら笑えないから!!

 しかもはっちゃけて「いぇーい、丸太いっきまーす!!」とか言った十秒後に死ぬとか嫌だから!!

 お父さんはどうして死んだの?
 丸太祭りで調子に乗って死んだのよ。
 やりきれないよ!!!

「あはは、バカだね」

 お前は口を閉じろ!!!


「あらあら、元気のいいお客さんね。あら、その子は?」

 おばあちゃんは俺を見る。じろじろ見る。
 そりゃまあ、ヒツジだからな。わかっている。

 そのあたりはもう受け入れた。
 だから説明しないとな。

「あっ、おばあちゃんこの人は…」
「ああ、わかっているわよ。ちょっと待ってね」

 おばあちゃんは何かの道具を持って俺のところにやってきた。




「ヒツジにはちゃんとタグをつけないと駄目よ」



 ガチョン。ブスッ!!





「ぎぃやぁあああああああああ!!!」





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