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「牧場を拡張しよう」編

二十五話めぇ~ 「キレるヒツジだね」

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「シゲキ君、シゲキ君」

 声がする。誰かが俺を呼んでいる。
 なんだか懐かしい声だ。とてもよく知っている声だ。
 ああ、ここはどこだ。何か長い夢を見ていたような気がするが内容がまったく思い出せない。

「シゲキ君、起きてよ」
「うう…」

 声の主が窓を開けたのか朝日が俺の目に突き刺さる。
 仕方なく目を開けると、そこには幼馴染みのぷるんがいた。
 相変わらず胸がでかいな、こいつ。本当に中二か?

「なんだ、ぷるんか。あれ? お前、朝起こしに来る属性あったっけ?」

 そう、こいつは幼馴染みなのに「ほら、起きて! 起きないと胸を押しつけちゃうぞー♪」などということは絶対にしないやつだった。

 幼馴染みなのにこれをしないなんて、もう幼馴染みじゃない!!
 俺は何度も要請したが、ことごとく拒否されただけでなく、「じゃあ、明日起こすよ」と言われて楽しみに待っていたが、窓に馬糞を投げられて異臭で起きるという大惨事が待っていた。

 それ以来、俺は誰かに朝起こされることが怖くなった。
 ましてやぷるんに起こされるなんて悪夢以外の何物でもないぞ。完全にトラウマだ。
 だが、今日は普通に起こしに来たな。どういう風の吹き回しだ?

「シゲキ君、ほら行こう」
「行くってどこに? 学校か?」

 中学校は楽しいよな。友達なんてエロ本やゲームの話題しかしない馬鹿ばかりだ。
 あいつらと一緒だと毎日が楽しいって本当に思えるぜ。

 しかし、ぷるんが言った言葉は俺を【現実】に引き戻す。

「あはは、ヒツジなのに学校に通うんだね」
「ヒツジ…?」

 その言葉を聞いた瞬間から、俺の身体が熱く火照る。
 ヒツジ…なぜか今はとても聞きたくない言葉だ。

 俺はこの言葉に人生を狂わされたような気がする。
 いや、記憶はないが、そんな気がするんだ。



 って、ヒツジ!!!



 うう、ヒツジ…ヒツジ!!





 HITUJIーーーー!!!!







「思い出したぞ! 俺はヒツジだ!」

 そうだ。俺はヒツジ。アイアムHITUJIだ!
 FU~~~~!

「そうそう、あとでリーパちゃんとこれからのことを話し合うからね。勝手にそこにある草食べていいから、ちゃんと来てね」

 そう言い残してぷるんは出ていく。

 そうだった。俺たちは牧場を買ったのだ。
 これからはここが拠点となるんだよな。

 よし、起きるか。
 俺は牧草を口に入れて一言。


 KUSA、ンメェェェエーーーー!!




 チャチャーーーン♪


 ヒツジ、ヒツジ!
 ヒツジコロシアァーーーーム!!

 この腐った街 ウシの乳飲んだヒツジの群れのなかー
 どいつもこいつもハンパなヒツジー
 ハイハイハイハイ! メェメェメェ!
 まともなヒツジなんて一匹もいねぇー
 腐ったミルクで腐敗した街でぇー 

 牙ーー! 牙ーーーー!
 あいつは牙ーーーシゲキぃーーーー♪
 ヒツジに言葉なんて似合わないぜ!
 言いたいことがあるなら蹄で語れー♪

 ここは永遠のヒツジコロシアムぅぅうーーー!
 蹄を握り締めて駆け抜けてー
 NO ジャスティス NO モラルー♪
 俺たちはヒツジー 荒ぶるヒツジー♪

 約束を果たすためにやってきたー
 WE CAN DO IT!
 WE CAN DO HITUJI
 俺たちはいつだってヒツジー
 
 メェェエエエーーーーーー!!



「なぜか懐かしい歌だ…」

 俺の心の中で荒ぶる歌が流れたが、なぜこんな歌を思いついたのかわからなかった。
 さあ、行こう。過去を振り返っても何も変わらない。

 俺たちは前に進むんだ。




「それじゃ、今後の予定を話し合おうね」

 俺、ぷるん、リーパの三人は牧場の居住スペースのリビングで作戦会議だ。

「はぁ、ようやく拠点を手に入れたな。これで安心できるぜ」

 今までは他人の家だったが今は自分の家だ。
 まだまったく慣れていないけど、そう思うだけで安心感が違うな。

「え? シゲキ君の家は家畜小屋でしょ?」

 やめろよぉおおおおお!
 人がせっかくくつろいでいるのに、そういうこと言うなよ!!
 まったり気分台無しじゃねえか!

「シゲキさん、厩舎は快適じゃないですか?」
「うっ、それは…」

 リーパの言葉に対して俺は若干動揺する。
 そう言われてみればだ、たしかに厩舎のほうが落ち着く気がする。

「ヒツジだもん。落ち着くに決まっているよ」

 やばい。ぷるんの言葉にも言い返せない!!
 干し草の香りと柔らかさが俺を優しく包む!!
 めっちゃ快適に寝てたよ、俺!!

 そりゃそうだよな。
 そもそもヒツジが快適に過ごせるように用意されている場所なんだよ。

 やべえぇえええええ!
 俺完全にヒツジ生活満喫してたよ!! ちくしょーーー!

「拠点はやっぱり重要だからね。買ってよかったね」

 そうだな。野宿はロマンに溢れるがモンスターがうろついている世界だ。
 安全確保のために常に火の管理もしないといけないし、やっぱりこうして安全に眠れる場所は重要だ。
 一番の問題は、敵は俺を狙ってくることだ。

 冷静に考えてみろ。
 野生のモンスターは生きることだけに集中している。

 人間のように社会を形成しない代わりにお互いを無駄に殺し合うこともない。
 となればだ、必要なのは【食料】だけってことになる。

 俺=食料

 この構図なんだよ!!
 俺完全にラム肉だからさ。狙うんだよ、あいつら。

 ぷるんがめっちゃ寝ているときにさらわれたら俺の人生もう食肉フィーバーだぜ!
 それがなくなるだけですごい安心感だ。

 それプラス宿屋代を気にしないでいいのは楽だよな。
 うおー、これからは気持ちよく寝れるぜー、ごろごろしよっと。

「固定資産税はあるからね」
「急に寝苦しくなったよ!」

 やめてくれ! 異世界に来てまで税金で苦しみたくないよ!
 もう金の話はやめよう! 夢のある話をしようぜ!

「だからシゲキ君、働いて♪」

 いやぁぁあああああああああ!
 いくら可愛く言ったところで内容は変わらない。

 俺の中では働く=負け犬だ。まあ、ヒツジなので負けヒツジだ。
 というか、家畜は働かなくていいはずだぞ。
 動物にまで労働を強制するなど許されんはずだ!

 そうだ、リーパならわかってくれるはずだ!
 ヒツジはまったりと草食って寝ていればいいんだよな!?

「働かないヒツジは加工場送りにされますよ♪」

 こわっ!!
 幼女の笑顔がこんなに怖いと思ったことはない!
 しかも俺は無限再生だから永遠と食肉加工されてしまうのだ。

 ちなみに現在、この牧場には俺しかヒツジはいない。
 新しく契約した時に古い牧場の家畜は一旦全部処理されてしまうのだ。

 それはそれで恐ろしいシステムだよな。
 さすが牧場。何の容赦もない。

「あっ、そうだった。加工場とも契約しないといけないんだった」

 ぷるんが思い出したかのように言う。
 え? 加工場とも契約するのか?
 だって、ここにいたヒツジたちを処理したときに使ったんじゃないのか?

「あれは、おばあちゃんが契約した加工場なんです」

 リーパいわく、あれが最後の取引だったそうだ。
 そうだった。おばあちゃんは死んだんだよな。
 契約も全部新規にやらないといけないのかー、面倒だな。

「だからやることいっぱいなんだよ。じゃあ、まとめてみようか」


○やることリスト

・お金を集める(残金九十万)
・家畜を手に入れる
・加工場や問屋と契約して生産体制を整える
・武具を調達・改造する
・馬車を手に入れる
・魔王を倒す


「って感じだね」

 と、ぷるんはさらりと言うが…

「やっぱり魔王は倒すのか?」
「だって、牧場経営しながら魔王を倒すゲームだもん」

 ゲームって言っちゃってる!!
 ここが本当にゲームの世界なのかいまだ怪しいぞ!
 俺がヒツジであること以上に疑問だ。

「じゃあ、家畜として一生過ごす?」

 うぉおおおおおおおお!
 その二択しかないのかよぉーーー!

 魔王を倒すか家畜として生きるかなんて、もう非道系RPGの典型じゃねえか!
 家畜に神はいない!状態だぞ。

「結婚できるかもしれないよ!」
「いやだ! 俺はヒツジとなんか結婚したくない!」
「なんだ、もったいない。子供に能力引継ぎあるかと思ったのに」

 恐ろしい発言だ。
 この御方は俺を量産して荒稼ぎしようと画策しておられる。
 こいつの幸せのために俺の人生を売り渡してたまるか!!

「それと、次の町に行くために乗り物が必要かな。けっこう距離があるんだよね」

 アイアムタウンは白ヒツジ王国の最南端に存在する町だ。
 正直いって、最果ての町に近いレベルで孤立しているド田舎町なのだ。

 まあ、このあたりは牧場しかないしな。
 それはそれで役割があるんだろうさ。

 って、ここは白ヒツジ王国だったんだな。
 そういえばそんな設定だった気もするが、モヒカンとか普通にいるぞ。
 てっきりモヒカン王国かと勘違いするほどにたくさんいる。

「モヒカン族のみなさんは流浪の民なのでどこにもいますよ」

 すげー優遇されてる!!
 俺たちどこに行ってもモヒカンと遭遇する可能性があるってことだろう!?

 正直、モヒカン苦手なんだよな。
 あいつら粗暴というかなんというか…

 そうだ。ぷるんがたくさんいるような感じなんだ。
 そりゃ疲れて当然だよな。

「ところでここから南には何があるんだ?」
「んー、ゲームの時は違う国があった気がするけど…」
「南には、アイスラッガーがありますよ」

 ん? アイスラッガー?
 なんか格好よい名前だが、どこかで聞き覚えが…

「モヒカン族の聖地です。ここらにいるモヒカンは、そこからの不法移民が大半です」

 ちょっーーーー!! セブンか!!!
 たしかにウルトラマンセブンってモヒカンっぽいけど、名前がモロじゃねえか!!

 って、不法移民かよ!!
 まあ、見た感じ柵とかないしな、入り放題なんだろうな。
 アイアムタウンなど、もはやモヒカンに占拠されているしな。

「南はパスだね。たぶん行けるとしてもシゲキ君くらいだろうし」
「どういう意味だ?」
「聖地アイスラッガーって、歩くごとに髪の毛がなくなるんだよね。だからシゲキ君のリアップがないと…」

 ひぃいいいいぃいいいいいい!!!
 それは恐ろしい場所だ!! 一瞬で毛がなくなるのか!!
 まるで毒沼のような場所だ。たしかに俺しか行けないな。

「つーか、モヒカンが行ったらモヒじゃなくなるじゃねえか」

 そうだよ。せっかくのモヒカンがなくなっちまう。
 ある意味、ハゲの聖地のような気がするな。

「だからアイスラッガーなんだよ。セブンってハゲ…」
「ストォッォオオオーーーープゥウウウウウウ!!!!!」

 そこから先は言ってはいかん。
 あまり深入りしてはいかん問題だ。

 そりゃ取り外しできる段階でカツラと一緒なんだよな。
 あれ、武器だしな。
 とりあえず本題と外れているから、この話は終わろう。

 行くにしても北。
 サンドシャークを倒した先にある町になりそうだ。


「ってことで、やることたくさんだね。まずはお金かな?」

 一応、リストの最初にあるものが最優先事項のようだ。
 拠点ができたのだから、まずは最低限使えるようにしよう、というのが本題だ。

「もう九十万円しかないんだよね。食費は…なんとかなるけど」
「おい、俺を見るな!!」

 完全に俺を食材に計算したな!?
 肉ばかり食っていたら健康に悪いんだぞ!

 いや、そもそも人間は肉を食うべきではない!
 家畜の恨みを忘れるなよ! めぇぇええー!

「食べられないのは鳴き声だけなんだよね」
「それは豚だろう! お前はツノ食うのか!? あ!?」
「あっ、それ売れないかな?」

 ちがーーーーーう!!
 そういう新しい発想のために言ったんじゃない!!

「ヒツジのツノって色々な効果があったりするんです。シゲキさんのも何かあるかも」
「リーパちゃん、すごいアイデアだよ。煎じてみようか」

 会話が合ってないぞ!!
 煎じるのはぷるんのアイデアであって、リーパはそんなこと言ってない!!!

 勝手に俺のツノ(男の誇り)を削ろうとするなよ!
 そこの部分ハゲるから、やめろよな!


「おっ、シゲキ君、だんだんキレが出てきたね」
「やりたくてやってんじゃねぇよ!!」


 シゲキは激しく怒った。
 ぷるんたちは苦笑いしながら受け止めた。
 シゲキは気まずい気持ちになった。


 シゲキはキレ芸を修得した。


 うぉおおーーーーーーーいいい!!
 また変なもの覚えたよぉおおおおお!!!


「ふざけるな! おい、責任者! いや作者、出てこい!!」


「あはは、キレ芸だね。ぱちぱち」



 拍手するな!!!




〇後書き


「シゲキ君、この章からは作者ネタは少なめにしようと思うんだ」
「それが普通なんだよ。ようやくかよ」

 ダレるのはもちろん、物語が進まなくなる。
 それが一番の問題だからな。
 このままだと南国アイスホッケー部とかそっち系に流れる恐れもあった。
 ここで歯止めを入れておくのもよいだろう。

「一応、この章での主人公はシゲキ君だからがんばってね」

 俺は最初から主人公じゃねえのかよぉおおおおお!!

「今まではペットだったんだ。格上げだからがんばってね」

 ちくしょう!! ヒツジを甘く見るなよ!!
 牧場は俺のホームだ!
 やってやるからな!!!

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