白雪姫は処女雪を鮮血に染める

かみゅG

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013.森での生活(2×3+1+1ー1)

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 ユズが帰ってきたのは、朝になってからだった。
 本当なら昨日の夜に着く予定だったけど、風が強いから早めに野宿したらしい。
 そのせいで、昨日の夜に着かなかった。
 着くのが朝になってしまった。
『……』
 帰ってきたユズを出迎えたのは、建物の中にいるという温かさと、冷たい空気。
 気の毒だとは思う。
 けど、それに気を遣う余裕は、私には無かった。
 気を遣う権利も無いのかも知れない。
「出て行け! 仲間を傷つけるような奴に、ここにいて欲しくない!」
 トマトが宣言する。
 食堂の中に、その声はよく響いた。
 大きな声に、チェリーがびくっとなるが、彼女はトマトに同意するように頷いている。

「出て行けとまでは言わないけど、ピーマンに謝って欲しいかな。怪我をさせたんだから、謝るのは当たり前だよね」
「そうだよ。ピーマンは気持ちよくしてあげようとしただけなんだよ。それなのに怪我をさせるなんて、ひどいよ」
 ポテトとベリーも、トマトの意見に賛成のようだ。
 罰は低くしているようだけど、私の罪を責めていることは同じだ。
 私は黙って、それを聞いていた。
「みんな落ち着いて、僕もそんなにひどい怪我じゃないしさ」
 当人であるピーマンが、まるで私を庇うような発言をする。
 けれど、私はちっともそれをありがたいとは思わなかった。
 だって私は、自分の身を守っただけだ。
 何も悪いことをしたつもりはない。
 私は黙って、私を吊るし上げる声を聞いていた。

「何があったの?」
「あのね……」
 事情の分からないユズが、モモに説明を求めている。
 視界の端にその様子が映っていたけど、私はそれに聞き耳を立てることはない。
 どうせ、ユズも私を責めるのだ。
 自分と仲の良い相手が傷付けられたのだから、当然なのだろう。
 傷をつけたのは、私だ。
 だから、ユズには私を責める権利があるのだと思う。
 私には理解できなかったけど、それがここのルールらしい。
 なら、ここにいる以上は、それに従わなければならない。
「ふーん……そう」
 ユズの冷たい声が耳に届く。
 モモから説明を聞き終えたらしい。
 ユズはいつものように、ピーマンの隣にある自分の席の方へ歩いていく。
 そこから私を罵るのだろう。
 そう思ったのだけど、ユズは席には座らなかった。

「ユズ、おかえり。ごめんね、騒がしくて」
 近づいてきたユズに、ピーマンが優しい声をかける。
 ユズはそれを聞きながら、けれど席には座らない。
「ううん、気にしないで。それより、ちょっと立ってくれる?」
「え? うん、いいけど……」
 いつものように、ユズの言葉に従うピーマン。
 彼にとって、彼女の言葉に従うのは当たり前のことなのだろう。
 疑問に感じる余地もないくらいの、ルールなのだと思う。
 反射的とも言える行動で、食堂の椅子から立ち上がる。
 ばちんっ!
 落とした皿が割れるよりも大きい、なにかが破裂するような音が響いた。
 騒がしい食堂の中にあっても、その音はよく響いた。
 誰もがそれを見ていた。
 けど、誰もがそれに驚いた。

 力いっぱい、腕を横に振りぬいたユズ。
 床に倒れるピーマン。
 音の後に残ったのは、その状況だった。
「バカじゃないの!!!」
 ユズの怒号が食堂に響いた。
 先ほどのトマトの声よりも大きく響いた。
「同意も無いのに、白雪姫の寝室に夜這いにいった? そのせいで怪我をした? 股間のモノを、ちょん切られなかっただけでも、感謝しなさい!!!!!」
 吐き捨てるように叫んだユズは、キッと他の人間に向き直る。
「仲間を傷つけるような奴にいて欲しくない? 謝るのが当たり前? だったら、あなた達が出ていきなさい!!!!! もちろん、白雪姫に謝ってからよ!!!!!」
 涙が出そうになった。
 別にユズに庇って欲しかったわけじゃない。
 それなのに、涙が出そうになった。

 私は自分が間違ったことをしたつもりはない。
 けど、ほんの少しだけ不安だった。
 トマト、チェリー、ポテト、ベリー。
 当人であるピーマンだけじゃなく、みんなが私を責めた。
 だから、ほんの少しだけ不安になった。
 なのに、ピーマンと仲良しであるユズが、私のために怒ってくれた。
 理不尽なことだと怒ってくれた。
 私は間違ったことをしていないんだと、認められたと感じたのだ。
『……』
 先ほどと同じように、食堂の中に冷たい空気が流れる。
 けど、その冷たさの意味は、先ほどとは違う。
 背筋の凍るようなユズの怒号に、誰もが混乱と気まずさと動揺を隠しきれていなかった。
 そんな中、口を開いたのは、それまで自分の意見を言っていなかったモモだった。

「ねぇ、ピーマン。どうして、白雪姫のところへ行ったの?」
「え、それは……」
 ユズに頬を叩かれて床に転がっていたピーマンは、立ち上がることもせずに、ユズとモモを交互に見る。
 ユズに叩かれたショックから、まだ立ち直っていないのだろう。
 なんで叩かれたか分からず、動揺しているのかも知れない。
 そんな状態で、モモの質問に答えていいのか迷っているんだと思う。
 冷たい目で見降ろすユズと、感情の見えないモモを頭上に見上げながら、ピーマンが口を開く。
「ユズの代わりに相手をしてもらおうと思って……」
 また殴られるのではないかとユズの様子を窺っていたピーマンは、モモの表情には気が付いていなかったのだと思う。
「うん、それはわかってる。でも、どうして白雪姫なの?」
 だから、モモの次の質問にも普通に答えていた。
「だって、相手をしてもらうなら、可愛い子の方がいいじゃないか」
 普通に答えていた。

 素直な言葉。
 正直な言葉。
 だからこそ、残酷な言葉。
 だけどモモは、その言葉に納得したように、深く頷く。
 何度も何度も頷く。
 そして頷いた後、くしゃっと表情が崩れた。
「モモ!」
 モモが食堂を飛び出すのと、ユズが馬乗りになってピーマンを殴り始めるのは、同時だった。
 バタンッ!
 建物の扉が乱暴に開かれる音が聞こえてきた。
 私は、追いかけることを一瞬躊躇ってしまったことを、後悔した。
 でも、これ以上、後悔はしたくない。
 私はモモを追いかけて、建物の外へ飛び出した。

 外には雪がちらつき始めていた。
 昨晩の風が雪雲を運んできたのだろうか。
 まるで舞うように、雪がちらついている。
 すでに地面は、うっすらと白みがかっている。
 私は周囲を見回す。
 けれど、どこにもモモの姿が見えない。
 私の心に焦りが生まれ始める。
「モモ、どこ?」
 森は広い。
 森に慣れていない私じゃ、きっとモモには追い付けない。
 私はどの方向を捜そうかと迷う。
 舞い散る雪が、まるで期限を告げる砂時計のように、私を急かしてくる。
「こっちよ」
 私が当てずっぽうに走り始めようとしたところで、後ろから声がかけられる。
 私はその声に従うことにした。

「はぁはぁはぁはぁ……」
 懸命に走る。
 呼吸が苦しくなり、肺の中に上手く空気が入らなくなっても、足を動かし続ける。
 そんな私を、ユズがそっと引き留めてくる。
「はぁはぁはぁはぁ……」
 私は睨むようにユズを見るけど、彼女はそれを意に介した様子もない。
「もう少しペースを落としても大丈夫。雪に残った足跡が行き先を教えてくれるから、見失うことはないわ」
「はぁはぁはぁはぁ……でもっ!」
「落ち着いて」
 ユズは、モモがそうしてくれるように、私を抱きしめてくれる。
 モモほど柔らかくは無かったけど、走って体温が上がっているせいか、とても温かい。
「モモのために必死になってくれて、ありがとう。でも、大丈夫だから、少し落ち着いて」
 頭を撫でられる。
 包み込むような包容力はないけど、自信に満ちたユズの様子に、私は少しだけ落ち着きを取り戻した。

 そこから進んだ場所で、私とユズは、小さな洞窟の中でうずくまるように座り込む人影を見つけた。
「やっぱり、ここにいた」
 根拠があったんだと思う。
 私みたいに、闇雲に捜そうとするんじゃなくて、根拠があったのだろう。
 それは、雪に残った足跡なのかも知れないし、それ以外のものなのかも知れない。
 それが何なのかを、聞くことはできなかった。
 けれど、私は羨ましいと思った。
 私が持っていない、絆が羨ましかった。
「私ね……」
 ユズの声には気づいていると思う。
 その証拠にモモは語りかけるように、話し始める。
 でも、座り込んだままだ。
 立ち上がって、こちらを向いてはくれない。
「七人だからだと思っていたの。七人だから、一人だけ余っちゃったんだと、そう思っていたの」
 それが何のことなのか、私には分かった。
 前にモモが寝物語で聞かせてくれたから分かった。
 でも、それを聞いていないユズにも分かったんだと思う。
 だから、黙って聞いているんだと思う。

「でも、違ったんだね。私が可愛くないから、魅力的じゃないから、男の子は相手にしてくれなかったんだね。だって、昔から一緒にいる私のところじゃなくて、白雪姫のところへ行ったんだから」
 それは嫉妬ではないんだと思う。
 悔しさでもないんだと思う。
 ただ、悟ってしまったから、悲しかったんだと思う。
 その証拠に恨み言は出てこない。
 私のところへ来たピーマンを恨む言葉も、ピーマンを惹きつけてしまった私を恨む言葉も、何も出てこなかった。
 それが私には寂しかった。
 私を怒って欲しかった。
 私を罵って欲しかった。
 八つ当たりでもいいから、激しい感情をぶつけて欲しかった。
 そうしたら、私はモモを受け止めてあげることができた。
 そして、モモがどれだけ魅力的なのか、話してあげることができた。
 だけど、私に劣等感を覚えているモモに、私が声をかけるのは、逆効果だ。
 私はただ立ち尽くすことしかできなかった。

 だけど、ユズはそうじゃなかった。
「そんなのピーマンがバカなだけよ」
 そう言うと、こちらを見ようとしないモモのところへ、ずかずかと近寄っていく。
 そして、ふくよかなモモの胸を、むんずと鷲掴みにする。
「ひゃんっ!」
 可愛らしい声が、モモの口から漏れる。
「ほら、モモはこんなに可愛いんだから」
「ユ、ユズ、止めてっ!」
 そのまま両手で、ユズはモモの胸を揉みしだき続ける。
「ときどき夜に上げている声を聞かせたら、きっと男達は放っておかないわ」
「し、知って……はあぁんっ!」
 モモが鳴き声を上げても、ユズの手が止まることはない。
 結局、モモがぐったりと動かなくなるまで、ユズの手は動き続けていた。
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