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第二章 南海の海魔王編

第三十話 魔導剣士ロイ、石頭令嬢に手を焼く

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 中庭を進んでいくと、「カーン! カーン!」という、木の打ち合う音が響いてくる。ただし、妙に不規則だ。

 更に進むと、金髪ポニーテールの少女が、木に吊るした棒を木刀で打つという、ベタな基礎訓練をしていた。懐かしいな、俺もよくやったもんだ。

「失礼します。冒険者チーム『スティング・ホーネット』のロイと申しますが、ハイプライド卿のご令嬢でございましょうか」

「いかにも。クッコロ・ハイプライドだ」

 打ち込みをやめ、こちらに向き直る。

「お初にお目にかかります、クッコロ嬢」

「そう固くならないでくれ。気軽にクッコロさんでいい」

 首にかけた手ぬぐいで汗を拭きつつ、爽やかに言う。とりあえず、気難しい人物というわけではないようだ。

「では、クッコロさん。結論からいきましょう。我々は、クッコロさんの騎士への道を、諦めさせるために遣わされました。差し支えなければ、どうしてそこまで騎士にこだわるのか、教えていただければと思います」

「君らもか。今まで、いろんな騎士や冒険者が、諦めさせようと説得してきたが、私の意思は変わらないぞ」

 台に置いてあった水差しからコップに水を注ぎ、ぐいっとあおる彼女。

「そうでありましょうね。そこまで固い決意をなさった理由を、お聞かせ願えればと思いまして」

「ほう。君は搦手からめてから行くのが好きなタイプか。いいだろう。父上は、立派な騎士団長で、私はその一人娘だ。それ以上の理由が要るかい?」

 お父上を、強く尊敬されているのだな。

「なるほど。私の一家は……もうこの世にいませんが、商家で、育ての親は国一番の魔女、ベラドンナです。そのような者が、私も家族や師匠を尊敬していますが、冒険者などしています。そういった、違う道を行くというのは、ご一考されませんか?」

「君は、ベラドンナ様の弟子なのか。興味深いな。だが、それでも先程の話に加え、騎士たらんとする理由がある。騎士は、強きに立ち向かい、弱きを守る者だ。私は、そうありたい」

 ふむ。志は立派だが……。

「失礼ながら、腕前のほうは、お父上様より伺っています。お疲れのところ恐縮ですが、打ち込みをもう一度、見せていただけますか?」

「よかろう」

 再び、打ち込みを始める彼女。

 ……やはり、空振りが多い。不規則な音の理由は、これだ。

「そこまでで結構です。空振りが多いですね。それは本来、すべて打ち返せるようでなくてはいけません」

「……自分の欠点ぐらい、分かっている。だが、努力あるのみだ。努力は裏切らない」

 さあ、困ったな。努力信者か。

「残念ですが、報われぬ努力というのはあるものです。努力がすべてを解決するというのは、それこそ神話です」

「会ったばかりの、私の努力を否定するか」

 明らかに不機嫌だ。

「はい。失礼を承知で。クコ!」

「は、はい!? 何でしょう!?」

「クッコロさんと、手合わせしてくれないか?」

 すると、耳を垂れてぐるぐる目になる。

「な、な、なんでそこで私なんですかー! ロイさんがやればいいじゃないですかー!」

「それじゃ、意味がないんだ。クッコロさん。彼女はクコといいます。職業は薬師ハーバリスト。荒事の素養は皆無です。彼女に勝てたら、説得を諦めましょう」

「ええー!?」

 突然負わされた大役に、一層目をぐるぐるさせるクコ。

「君は、私をバカにしているのか? いくらなんでも、彼女に負けるわけがないだろう」

 手近にあった、二本目の木刀を、クコに投げて寄越す。わたわたと、キャッチする彼女。

「そうであれば良いのですが。では、木刀同士の寸止めで」

 互いに構える。クコは完全に怖気づいてへっぴり腰だが、クッコロさんのフォームも、力み過ぎで、またひどい。どこまで無才なら、努力を重ねてこうなるのかという感じだ。

「はじめ!」

「はああ!」

 開始宣言早々、突撃するクッコロさん。しかし、その動きは、喧嘩でかむしゃらに突進する子供のそれだ。

「ひい!」

 身を捻って、それをかわすクコ。

 突っ込んでは躱すという泥試合が続く。

「クコ! 逃げてるだけじゃ、終わらないぞ!」

「そんなこと言われても! ……ええーい! どうにでもなれー!!」

 木刀を振り下ろすと、クッコロさんの頭を直撃!

「ぐっ!?」

「そこまで! 申し訳ありません。クコには、寸止めは難しかったようです」

「あわわ……すみませんー! 命活癒術草ヒーリング・ハーブ!」

 非力なクコの入れた、木刀一発のダメージに、回復魔法は大げさだと思うが、まあ、アフターケアは大事だ。

「おわかりいただけたでしょうか。失礼ながら、これがあなたの努力の結晶です」

「バカな……」

 クッコロさんは、茫然自失だ。

「どうでしょう。諦める気になりましたか?」

「いや! より努力と研鑽を、積まねばならぬと自覚した! ははは!」

 そう言って、あっという間に立ち直り、再度打ち込みに熱中してしまう。

 やれやれ、とんだ石頭だ。彼女を諦めさせるなんて、できるのかね? やはりこの依頼、とんだ曲者だった。

 まあ、引き受けた以上やるしかないが。どうなることやら。
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