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第六章 光り輝く犬が降る。

第五話 クラスメイト全員の注目を受けた

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連休明けから、微かな違和感を一冴は抱くようになった。

クラスメイトや寮生から、ちらちらと見られているような気がする。ただし、気のせいではないかと思える程度のものでしかない。なので、最初はさほど気にかからなかった。

違和感の正体が明らかになったのは、五月九日金曜日のことである。

三時間目の授業は美術だった。

いつものメンバーと教室を移動する。

美術室へ這入り、テーブルに着いた。

桃が近寄ってきたのはそのときだ。

「ねぇー、上原さんってレズなの?」

教室中が凍りついた。

強張る空気の中、放射線状のひびが入るように視線が集まる。

「――は?」

「いや、だって、鈴宮先輩に告白したんでしょ?」

背筋が冷たくなる。

「え――何で?」

「いや、動画が回ってきたんだけど。」

桃はスマートフォンを取り出した。そして、短文投稿サイト「呟器つぶやき」を開く。そこに載せられているリンクをクリックした。「女子高生の愛の告白」というタイトルの動画が現れる。

動画が再生された。白山女学院の中庭――二人の生徒と、それに向き合う一人の生徒が写っている。顔にはモザイクがかかっていた。

スマートフォンから、一冴の声が大音量で流れる。

ピー先輩、好きです!」

わあ――と一冴は声を上げ、スマートフォンをひったくった。

慌てて動画を停止しようとする。その間も音声は流れていた。

「私が好きなのは、男の子でも、■■ピーーちゃんでもありません――貴女です。その髪も、栗色の髪も、上品なたたずまいも――」

動画を停止した時には、心臓が破裂しかけていた。

そんな一冴の手元に、桃は腕を伸ばす。

「あ、私のスマホ! 返してよ!」

スマートフォンを返し、恐る恐る一冴は尋ねる。

「こっ、こっ、これは――?」

「だから――呟器つぶやきで廻って来たんだって。多分、見た人クラスに多いよ?」

ぜんまい仕掛けの人形のように、ぎこちない動作で教室を見回す。

クラスメイトたちは一斉に顔を逸らした。そのうち何割かが動画を見たことは明らかだ。いや――クラスどころではない。もはや、全世界に向けて一冴の告白は公開された。

やがて授業が始まる。

当然ながら、何も頭に入らなかった。

――せっかく、カメラのないところに移動したのに。

授業が終わり、いつものメンバーと共に教室へ戻る。しかし、脚には力が入らなかった。恥ずかしさのあまり顔も上げられない。

スマートフォンを梨恵は取り出す。

「それにしても――本当に酷いな! あんなのを動画に撮って晒すなんて! うち、УоцТцЬеウオーッツヴィエ に動画を報告しとくわ!」

紅子もまたスマートフォンを取り出す。

「そ、そ、そ、そうだな! ど、ど、ど、どのような人を、どのような人を、す、す、好きになろうとも、あのような行為は許されないはずだ! 私からも報告しておこう! ついでに、鈴宮署のサイバー犯罪相談窓口にもな!」

一冴いちごが蘭に告白したことについて、紅子は動揺しているようだ。

菊花もまたスマートフォンを取り出す。

「わ、私も報告しとく。」

そんな気づかいをされればされるほど、いたたまれない思いに駆られる。同時に、静かな怒りも湧き上がってきていた。

こんなことをする人間は一人しかいない。

一人しか。

教室棟へ這入った時だ。

廊下の向かい側から、麦彦と山吹が近づいてきた。

凛とした山吹の顔には米粒が一つついている。

麦彦が声をかけた。

「よお――菊花、元気にやっとるかの?」

「あ――お祖父さま。」

「お前が作った回鍋肉ホイコーロー弁当、美味かったぞい。」

それだけ言うと、二人は背後へ去った。

菊花は何かを察した顔となり、教室へ向けて駆け始める。

残された三人は顔を見合わせ、菊花の後を追った。

一年桜組の教室へ這入る。

ロッカーの前に菊花はいた。ちょうどバッグを開けたところだ。弁当箱を取り出し、包みと蓋を開ける。中には、飯粒一つ残っていない。

菊花はひざを突き、天井を仰いで叫んだ。

「祟りじゃーっ!」
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