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2章 幼少期編 II

62.研究院 11

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今の私は夢見心地でふわふわしております。
お花畑のいい香りがして気持ちが良いのです。

もう暫くお待ちを……

オタクだと思われる”媒体の人”が、このマンガ絵に注目しているようなのですよ。
私も注目しております。

漫画のない異世界にマンガ絵を発見した。
これはたぶん凄いこと。
もう見なかったことにはできません。


──…筆記具の情報は”書記の人”のためのものだったのね……オタクの”媒体の人”は先読みが出来る人なのかしら。昨日の失礼な”媒体の人”と同じかどうかは……わからないなぁ。


「……アルベール兄さま。水性のフエルトペン〈極細タイプ〉が完成したら、最初の1本は”書記の人”に差し上げてください。今日のペンの情報は”書記の人”のおかげなのです」

アルベール兄さまは怪訝な顔をしたけど、媒体に関しては日頃からとやかく言われる事はないのでスルーしておく。

そんなことより、”書記の人”にはフエルトペンを使って書記の仕事をサカサカ片づけてもらって、マンガを描いてもらえる時間を作らなくては。

後回しにされてしまった鉛筆と消しゴムも必要ね。紙もインクがにじまない上質紙を作ってもらわなくては。さぁ、忙しくなりますよ。ランド職人長が。

「お気遣いありがたく頂戴いたします、王女殿下。インクがペンの軸に内蔵されていれば、歩きながらの記録がだいぶ楽になります」

”書記の人”がうやうやしく頭を下げた。

──…いいえ。
私は今、モーレツにマンガが読みたいのです。その下準備を考えているだけですよ。

──…おっと、オタクの”媒体の人”からの承認が来た。
なんか準備しているようです。そんな感じがするのです……大丈夫、いくらでも待ちます。コピー機の情報とか大歓迎ですよ。なくても浮世絵でやっちゃいますけどね。

うふふふ……まずは4コマから始めましょう。お城の面白ネタが山ほどあるのです。それはもうお絵かき帳にたっぷりと。クスクスクス……

「”書記の人”……マンガ…絵描きになるつもりはありませんか?」

「子供の頃には憧れましたが、画家になるほどの腕は私にはありません」

むむっ、何の憂いもなく首を振られてしまった。

でも逃がしません。
そのマンガ絵、シュシューアがいただきます!

「アルベール兄さま、離宮に来る時は”書記の人”を連れてきてください」

アルベール兄さまの膝から下りて、立ってから改まってお願いする。

「”書記の人”……アルベール商会の料理人が異世界の料理を作ってくれますよ。一緒に昼食はいかがですか? それで、食後にちょ~っとだけ、わたくしのために絵を描いてくださると嬉しいのですが……もちろん原稿料の支払いは致します。アルベール兄さまが良きように計算してくださいますので、ね?「おい」…おほほほ」

時々でいいのです。お願いします……と思いを込めて手を合わせる。

「王女殿下のお誘いは大変うれしく思います。しかし書記官の仕事を疎かにする事は出来ません。アルベール殿下の事務予算からお給金をいただいている身でございますので、どうぞご理解ください」

なんと、断られた!
可愛らしい幼女のお願いポーズが効かない。

「アルベール兄さま。”書記の人”が離宮に来ても損しないようにするには……え~と、ペンの販売はアルベールがしてくださいませ。離宮に出入りする”書記の人”が人前でペンを使えば、一気に話題が広まるのです…『歩きながら書けるペンだ』『どんな使い心地だろう』『そうだ、”書記の人”に聞いてみよう』…大儲け間違いなしです!」

ぶふぉっ!
ぶはーっ!

──…何ですか、兄ーズ。

「ねぇ、それ、インク壺? 自作?」

空気を読んでいないフィカス・ベンジャミン……製図を持ってないからパルバッハ院生が、書記の人の手元を覗き込んだ。

「口にガモを仕込んだのか、よくできてる」

メンデル院生も、ファイル一体型インク壺を見て取る。

「移動中でも書き留めておかないと……うっかり忘れてしまっては大変なので。苦肉の策ですよ」

書記官たちの間で地道に改良してきたものらしい。

「フエルトペンがあれば楽に書けるようなりますよ」

まだ諦めていません。ペンを餌に釣り上げますよ。

「そうですね、インクがこぼれないというのは魅力的です」

うんうん、カモンカモン。

「”書記の人”、さっき食堂で描いたのを出してください。『ブゥルペン』と『シャウペン』です。メンデル院生に設計してもらって、パルバッハ院生に作ってもらいましょう……はっ、ボールペンのインクは? ”書記の人”、インクの情報はきましたか?」

まだ笑っている兄ーズをスルーして、”書記の人”の席まで移動する。

「え~、はい。これです」

ファイルに挟んであった記録紙を、慌てて取り出す”書記の人”。

下から見上げる書記の人の顔は、やっぱり醤油だ。豆板醤でもいい。

「なに、これ」

メンデル院生が興味を持って身をかがめる。

「筆記棒? 金属で作ると、重いよ」

パルバッハ院生も相棒の隣に来た。

ふふん、気になるでしょう?
全部お任せます。好きにいじり倒してくださいな。

絵図と説明書きを渡したら、さっさとテーブルに移動して二人の世界に入り込んでしまった。


ボソボソボソボソ……


──…あぁ、いつもあんな感じなのね。声をかけなかったら多分ずっと。

ナントカと天才は紙一重とか……まぁ、アルベール商会がケアするなら大丈夫かな。
明日、ランド職人長が来るのって食料の補充だったりして。ぷくく。





………続く
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