Ωの僕がお偉いさん

白いモフモフ

文字の大きさ
15 / 708

父様、母様

しおりを挟む
 中に入るとこの間の大臣を含め5人の大臣達が揃っていた。僕がなぜ来たのかは一目瞭然だろう。

「王様、長い間お世話になりました。」

こんなぎりぎりの時期まで頑張って守ってくれたのだ、恩を返すことはΩの僕には無理だからせめて迷惑にならないように去ろうと跪いた。

「王子として与えられていた品々をお返し致します。」

確かめてくださいと大臣に渡す。
 受け取らず、いやいや此方の大臣へというやりとりが面倒になったので一番先頭にいた大臣に押しつけるように渡して一歩下がった。

「どうぞ、ご覧ください。正装、略装、第一王子の指輪、紋章、揃っているか本物か大臣達全員でご確認ください。王様、確認後大臣達に間違いがないかをお確かめください。」

「どうしても行ってしまうのか…」

「はい。父様や母様が今日まで私を庇ってくださったお陰でここまでこれたのです。第一王子の身分を失った後はお会いする事は叶わないでしょう。城から出た後は関係は一切無いと言われています。……母様には元気でいるとお伝え下さい。」

「どうやって暮らすのだ。宛はあるのか?」

「……父様、今生のお別れです。私を憐れんでくださるならどこでどう生きたか、死んだか捜索させないでください。おそらく……私がここで幸せに生きたとだけ覚えていてください。」

父と子の涙の別れを抱きつき、泣きながらしている様に見えてるかな?父様、演技上手いねとチラッと見れば父も、お前もやるな…と見返してくる。

 流石に大臣達の中には涙を拭う人もいる。…急にバタンッ!と大きな音がしたので振り返るといつもの
淑女らしさを捨てて向かってくる母が見えた。

「母様、どうしてここへ…?」

「どうして?私の子供が連れ去られるのにじっとしている母がおりますか?やはり私も共に参ります!王様、私を離縁してくださいませ!この子は私が…この子が自分の番を見つけて落ち着くまで守りますから!!どうか私をこの子と一緒に!!」

演技でもなく、必死に言い募ってくれる母に心が打たれ本当に涙が出る。

「母様、駄目です。これより後は弟が第一王子となります。あの子はしっかりしているけどまだ幼い。母親の愛情が無く育つ子は哀れです。それに、兄らしいこともしてやれず、厳しい周りからも庇ってやれないのです。せめて母親を取り上げる兄にしないでください。」

「では…では…お前は?お前はどうなるのですか!」

泣き崩れてしまった母にそっと囁いた。

「母様、秘密の手紙覚えてるよね?」

ピクッと肩を揺らした母に堂々と手紙を渡した。

「母様、泣かせてしまうとわかってたから、会わずに行くつもりでした。ここに手紙を書きました。後で見てください。」

顔を伏せて立つこともできない母を父に任せて大臣達へ向き治った。

「お返しする物に足りない物、違っている物はございませんか?後から窃盗や偽造の疑いで追われる事は避けたいのですが。」

「はい。揃っております。…王子、最後にこれだけはおわかりいただきたい。……国の為です。貴方様を嫌っていた訳ではございません。」

「ええ。でも…今後一切関わりを持たないのでしょう?成人に満たない子供の行く末は解りきっているのに。」

「……はい。」

「わかりました。この城を出た時より私は王子では無くなります。私は私の為だけに生きます。この国の事を考えて我慢する事も止めます。……それを止めませんね?」

「はい。」

「では…これで」失礼と言いかけた所で母から「まだよ!」と止められた。
 母の合図で母の侍従が入ってきて大きなバッグを僕に差し出した。

「母のドレスが数点と趣味で集めたレースやリボン紐、母が嫁入りの時に持って来た真珠です。私個人の財産ですから国は関係ありません。お前に渡しても何ら問題無い物です。売ればそれなりになるはずです。お前は賢いからわかるでしょうが、売る時は小さくして少しづつ売りなさい。生活が苦しかったら海を渡ってお婆様を訪ねなさい。お前は私の子供の頃と瓜二つ、直ぐにわかってくださるわ。」




しおりを挟む
感想 199

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...