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4話 嶺二:孤高のアルファ
しおりを挟むネオン街の一角に、ホストクラブ「BLUE DIAMOND」があった。
数年前にできたばかりの店だが、この一帯では人気店として有名である。
嶺二は髪をオールバックにして、黒の高級スーツを身にまとい「BLUE DIAMOND」の入口に立った。
開店前だが、堂々と中に入る。
重厚な扉をあけると、壁一面にプレイヤーの写真が出迎えた。
トップの目立つ位置には、ナンバーワンである嶺二の写真が飾ってある。
自分の写真がナンバーワンの位置にあることで、仕事前に気を引き締めることができた。
嶺二は、もう28歳だ。
この界隈ではそう若くない。
長く続けるつもりはないが、生きていくには金がいる。
……借金を返し終えても、まだホストやってるなんてな。
この歳までホストをやってるなんて、この業界に足を踏みいれた時には、想像もしていなかった。
借金は、嶺二ではなく、親が作ったものだ。
子供の頃、男を作って出て行った母親も、借金だけ残して消えた父親にも、恨みしか残ってない。
両親共に、あれきり会ってないし、家族とも思ってない。
ずっと一人で生きてきた嶺二には、新しい家族も必要なかった。
だからこの先、何を目的に生きていくのか、決めかねている。
「レイさん、おはようございます」
「おう」
開店前の掃除をしていた、数人のホストが頭を下げる。
嶺二は頷きながら、奥へ進むと、目の前が一気に広がった。
フロアは、濃いブルーを基調とした、落ち着いた雰囲気の内装だ。
オーナーが、インテリアにも気を遣っていて、格式高く見せている。
通路からフロアへは、階段が少し。
フロアの一角には、バーカウンター、ビリヤード台やダーツを楽しめる場も設けてある。
こちらも、内勤のホストが開店前の準備に忙しそうだ。
挨拶だけ交わすと、さらに奥のロッカールームへ向かう。
その間、若手や新人に留まらず、上位のプレイヤーも、嶺二に対して憧れの視線を向けてくる。
嶺二がナンバーワンであると同時に、アルファだからだ。
人口の9割をベータが占めると言われる中で、アルファとオメガは希少な存在だ。
二次性を隠している人も多いので、アルファというだけで目立つのは仕方ない。
嶺二が控室に入ると、ロッカールームいたホスト達が、一斉に頭を下げた。
「レイさん! おはようございます!」
「おう」
嶺二は鷹揚に頷くと、空いたソファーにどっかりと座った。
休憩所も兼ねているため、高級な長ソファーが二つ、他にテーブルとパイプ椅子が並べてある。
嶺二は片手にスマホを持ち、客にメールを打ちながら、煙草を吸った。
「レイさん、ここ禁煙ですよ」
「知るか」
「オーナーに叱られるの、オレらじゃないっすか~」
付き合いの長い後輩ホストが、軽い口調で話しかけてくる。
軽く睨むと、両手を上げて肩をすくめた。
「レイさん、こわいっす」
「黙ってろ」
低い声で唸ると、後輩ホストはササっといなくなった。
若手のホスト達が、嶺二の方をちらちら見ながら、楽しそうに喋っている。
嶺二はそれを黙って聞き過ごした。
「レイさんって、マジこわいっすね」
「バーカ、カッコいいだろうが」
「そうだぞ。あの冷たい目で睨まれたいって客が多いもんなぁ」
「レイさん、アルファだから、それだけで人気ですもんね」
「アルファってだけで、羨ましいっす」
声を潜めているつもりだが、丸聞こえだ。
生まれ持った二次性を、羨んだり、妬む者も多い。
なぜか分からないが、アルファはどうしても、人目を惹く。
ベータの中に居れば、まるで輝いているようにすら見えるという。
アルファはその特性から「生まれながらの王者」と賞賛されることもあった。
たんなる誇張だと思っているが、実際に嶺二を目にした周りの反応は、いつも同じだ。
嶺二を見つめる目には、憧れと羨み、それから、妬みや恐れが混じってくる。
ホストとして働く時に、アルファ性を公表したのは、先輩ホストであるキリヤの提案だった。
「お前は人に媚びるのが嫌いだろ? クールキャラでいくんなら、アルファだって言っといた方が効果的だって」
キリヤの目はたしかで、その助言は的確だった。
新人だった頃は、愛想が無い、目つきが悪いと他のホストや客に詰られてきた。
しかし、アルファ性を公表した途端に「孤高のアルファ」と呼ばれはじめ、何も言われなくなった。
無理に愛想笑いなどしなくても良くなり、客に媚びる必要もない。
そうして、ホストの「レイ」が生まれたのだ。
「レイさんがすげぇのは、アルファだからって、傲慢にならないところだぜ」
後輩ホストが、胸を反らせて自慢する。
「自慢もしねぇし、客にだって媚びたりしねぇもんな。それに、腕っぷしも最強だぜ」
力こぶを作って、楽しそうに語る。
本人の近くで噂話をするのは、どうにかならないのか。
文句を言う内容でもないが、多少の居心地の悪さは感じる。
嶺二は聞こえないふりをして、新聞を流し読みした。
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