未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい

黒野マル

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26話  ライブ、そして呼び出し

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「よし、行くぞ!」
「ああ!」


すぐ前の参加者たちのステージが終わり、蓮たちの順番が回ってくる。

大久保が勢いよく拍手を打ち、蓮を含めた4人は待機室を出て舞台に上がった。

装備の撤収やアンプの接続などの準備をするため、講堂は未だに暗くなっている。

蓮は隣で緊張している藤宮を見て、肩を叩いてあげた。


「大丈夫だよ。心配するなって」
「ああ……ふぅ、そうだよな……うん」


……よっぽど緊張しているな。そりゃ、好きな人の前で演奏するんだし人も多いから、当たり前か。


「リハーサルは完璧だったから、普段通りにやればいいさ」
「ああ……ありがとう、日比谷」


藤宮を軽く励ました後、蓮は指定された場所に立ってふうと深呼吸をする。

間もなくして幕が上がり―――4人の姿が、みんなの前で表れた。


「み、みなさん、楽しんでますか!?!?」
「「「わぁあああ!!」」」


やはり緊張しているっぽい藤宮の声にも関わらず、場の空気が一気に盛り上がる。

蓮はすごいなと感心しつつも、観客席を一度全部眺めた後―――さっき莉愛がいたやや後ろの席に、視線を向けた。


「……………」
「……………」


いる。確かにいた。薄暗い中でもはっきり目に映る綺麗な百金髪に、青い目。

そして、その視線は自分だけに集中しているような気がして……遠くから見える莉愛の顔は、不機嫌そのものだった。

……なんでそんな顔するんだよ。

出てもいいって言ったのは、君なのに。


「それでは、聞いてください―――」


有名な歌手の代表曲。

告白を象徴するような曲の名前を聞いて、講堂にある人たちはまたしても歓声を上げる。

蓮は、藤宮の音に合わせてギターを弾き始めた。

今度、蓮に任された役目はサブギターと、サビが出る前の部分だけ歌うサブボーカルだ。

既に何十回も聞いてきたメロディーに身を任せて、指を動かす。

それと同時に、スタンドマイクに顔を近づけて、蓮は歌い始めた。


「きゃああああああああっ!!」


主に女の子たちの黄色い声が上がる。蓮は本能的に、ある一点に視線が引き寄せられた。

曲の内容は、何の変哲もないラブソングだ。長年想いを積み重ねてきた人に告白して、最後に成就するお話。

だから、序盤の内容はほとんど告白だった。どれほど好きなのか、どれほど愛しているのか。

君のことがどれだけ、大事なのか。


『…………っ』


それを毎日のように莉愛に聞かせていたからか、声に段々と感情がこもっていくような気がする。

蓮はほとんど無我夢中になって任されたパートを歌い切り、サビのところで藤宮がバトンを受け継ぐ。

目の前の光景は少し、非現実的だった。

幸せそうにきゃあきゃあ叫んでいる女の子たちと、呆れているっぽい由奈と、あと……莉愛。

相変わらず、いやさっきより不機嫌そうに顔をしかめている莉愛が、そこにいた。


『だから、なんでそんな反応するんだよ……』


そんな反応したら、こっちだって困るのに。

別れて1年が経ったから、そろそろ吹っ切れてもいいだろ。なのに、なんで……。

……なんで、昔のように俺を独占しようとしてるんだ。

そんな風に思いに更けていたその瞬間、事件が起きた。


「っ……!?」


さっきまでずっと緊張していた藤宮の音程が、少しずつズレ始めたのだ。

声が明らかに震えていて、本人も慌てていることが感じられる。

ベースを弾いている大久保も、ドラムを叩いている森沢も、しまったと言わんばかりの顔をする。

メインギターが狂えば、ドラムもベースも合わせづらくなる。

今はまだ誤魔化せているけど……でも、このまま行ったらマズい!

その計算がとっさにできた蓮は、再びマイクに口を近づけて。


「……………ぁ」


あくまでも藤宮の声を消さないように注意しながら、一緒にサビを歌い始めた。

藤宮は一瞬驚いたような表情を称えたが、蓮と視線を合わせて素早く頷く。

やがて、本来の計画にはなかった二人のコーラスが、講堂を満たした。


「きゃああああああっ!!!!!」
「うわ、日比谷すごっ……」
「…………………」


莉愛の隣に座っている女子組は、好きなアイドルでも見たように熱烈な応援をしている。

由奈は思ってた以上に蓮の歌が上手いことに感心していて、莉愛は……。

さっきよりさらに、モヤっとした感情に飲み込まれていた。


『…………………ダメ』


ダメ、ダメ。そんなに格好良く歌わないでよ。

ミスしてよ、お願いだから。そんなに輝かないで。楽しそうな顔で歌わないで。

ただでさえ人気もあるのに、どうするつもり?

それに、私も……私だって。


「やっぱいいよね、日比谷」
「……………………うん」


あなたのことがもっと、気になっちゃうじゃない。

こんな姿見せられたら、諦めたくなくなっちゃうじゃん。夢のことが本当だって、信じたくなっちゃうじゃん。

夢の中での私は、文化祭の後になにか起こるとか言っていたけど……よく、分からない。

ただ、ステージに立っている蓮があまりにもキラキラして見えて。

その姿を応援している、他の女の子たちの姿を見てると、さらに気が重くなる。


「ありがとうございました!!!!!!」


様々な思いが混じった4分が終わり、リードボーカルだった藤宮が勢いよく挨拶をする。

蓮はペコっと頭を下げた後、藤宮に近づいてハイタッチをした。

大久保や森沢ともハイタッチをして、ステージの照明が消える。


「ありがとう、本当にありがとう、日比谷……!マジで助かった!」
「ははっ、上手く行ってよかったな!告白する時は緊張するなよ?」
「ああ、くそ……あんな不細工な姿見せて告白できるかよ」
「いや、大丈夫だって!!ミスしたのもほんのわずかだし、専門家でもなかったら絶対に聞き取れなかったって!」
「うん。大丈夫だと思うよ?日比谷君がタイミングよくフォロー入れたし。たぶん、姫宮さんも気づいてないんじゃないかな」
「そ、そうかな……ならいいけど」


自責する藤宮に対し、大久保と森沢が彼を元気づける。

実際、ミスしたのは4分の間で10秒も経たないわずかな時間だったし、よほど聞き込んでいないと分からなかっただろう。

上手くいくといいなと思いつつ、蓮は待機室に戻ってギターをしまい、スマホを確認した。

そして、蓮は。


『放課後、音楽準備室に来て』


1分前に到着した莉愛からのメッセージを見て、目を丸くするしかなかった。
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