未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい

黒野マル

文字の大きさ
62 / 76

62話  恋人じゃないけど、恋人以上

しおりを挟む
愛想をつかされないように、頑張る。

……とは言ったものの、莉愛は一言でスッと変わるほど器用な人間ではなかった。


「きゃああああああっ!!日比谷君!!」
「ウソ、見たあのシュート!?すごっ、すごいじゃん!!」
「…………」


体育の時間。先生に自由時間と言われて行われた、隣のクラスとのサッカー対決で。

蓮はフォワードとして活躍しながら、試合が終わる寸前で見事にゴールを決めていた。

そのせいで、周りの女の子たちがとにかくざわついて……莉愛も咄嗟に黄色い歓声を上げたものの、やっぱりちょっとモヤモヤしてしまうのだった。


「へぇ~~やるじゃん、日比谷」
「……むぅ」
「ぷふっ、ぷふふふっ」


そして、そんな親友の気持ちをある程度察している由奈は、仕方ないとばかりにクスクス笑っていた。

そして、蓮は莉愛の気持ちなど知らずに気持ちよく笑っているだけ。

結局、蓮の最後のゴールが決め手となって試合は終わり、莉愛たちが属しているクラスが無事に勝利を収めた。


「むむむむむぅ………」
「莉愛さん~?七瀬莉愛さん~?聞こえてますか~?」
「むむむむむむ!!!」
「うわっ、ダメだこりゃ……嫉妬の塊になっちゃったわ……」


あまりにも酷い状態に、由奈は若干引いたような声を上げる。授業が終わって教室に戻ると、女の子たちは一斉に蓮の席に近寄った。


「日比谷、お疲れ~~これ、スポドリ!」
「えっ、俺に?へぇ~~ありがとうな」
「なにその反応~~ちょっと傷つくんですけど~?」


もちろん、蓮の他にも活躍した男子はいっぱいいる。

だけど、やっぱり最後にゴールを決めたからか、女子たちの視線は割と蓮に注がれていた。

蓮は少し戸惑いながらも、一緒にプレイした男子たちと一緒に上手く話しを盛り上げていく。

そして、教室の片隅で、莉愛は――――


「…………💢」
「うわっ、やばっ……」


地獄で引き抜いたかのような強烈な視線で、ずっと蓮だけを見つめていた。由奈は隣で冷や汗をかいている。

もちろん、当事者である蓮もとっくに莉愛の視線に気づいていた。


『やばっ……!?こ、これって完全に付き合っている頃の反応じゃんか!!』


グラウンドでは忙しなく走ってたから知らなかったものの、クラスに入るとなるとやっぱり視線に気づいてしまうわけで。

女子たちと話をしながらちらっと流し目を送るけど、莉愛の地獄のような表情を見て蓮はまた視線を戻した。

蓮の背筋に冷や汗が一滴垂れ流される。このままじゃ、本当に死ぬ……!

嫉妬で殺されかけた経験が何度もあるから、蓮は変に緊張するしかなかった。間もなく授業が始まったけど、蓮の背中に注がれる視線は変わらなくて。


『あ、これ絶対にヤバいやつだ……家に帰って甘やかさなきゃ』


今日は莉愛が大好きなパスタでも作ろうかなって思いながら、蓮はずっとハラハラとした時間を過ごした。

そして、帰りのホームルームが終わった後―――莉愛は急に立ち上がって、蓮の前に来る。


「帰るよ」
「は、はいっ」


有無を言わせない声色に、蓮は機械のようにパッと立ち上がる。

クラスにいる女子たちの中では嘆息の声が上がっていた。何人かはやっぱり残念そうな表情を浮かべるけど、仕方ないかと諦める方がやっぱり多かった。

なにせ、この二人はもう愛のレベルが違うのだ。

直接的に絡む場面はほとんど見せてくれなかったけど、互いを見つめる視線がもう頭一つ抜けている感じだったから。


「由奈、ごめんね。今日は日比谷と帰る」
「あ~~はいはい。日比谷、ちゃんと帰って反省するんだよ?」
「俺の何が悪かったんだよ!?」


痛烈なツッコミの後に、蓮は囚人になったみたいに大人しく莉愛について行く。

そして、家に着いたとたん、莉愛は靴も脱がずにそのまま蓮を抱きしめて。


「あ、ちょ―――んん!?ん、ちゅっ……!」


体を密着させながら、遠慮なしのディープキスを蓮にかました。

唐突なスキンシップに驚くものの、ある程度こうなると思っていた蓮はすぐに莉愛を抱きしめる。

蓮は汗臭いと思われたらどうしようってちょっと悩むものの、莉愛の勢いを全力で受け止めた。

それから約5分ぐらいキスをして、モヤモヤが少し晴れた莉愛はようやく唇を離す。


「……むむむ」
「だから、俺の何が悪かったんだよ!?莉愛さん!?」
「……他の女子たちの前で格好いいことするの禁止。いや、男もダメ。格好いいところは私にだけ見せるように」
「なんて理不尽な……!ああ、そっか~~中学時代の七瀬莉愛さんですか~」
「ほら、大事な場面で茶化さない!ふぅ……もう」


ため息を一度ついて、莉愛はプンプンしながらも蓮に抱き着く。

昔のように甘えてくる莉愛が愛おしくて、蓮はまた莉愛をぎゅっと抱き返しながら言った。


「……汗臭くないの?」
「汗臭いのがいい」
「莉愛さん、そういう趣味だったんですか?」
「また茶化す……本当なのに」
「ぷふっ、分かった分かった。で、いつまでこうしてればいいんだ?そろそろ家に上がりたいんだけど」


未だに玄関で立ちっぱなしになっているんだから、蓮の言い分は当たり前のことだ。

だけど、莉愛は少しも体を離す気配がなく、蓮の懐に顔をうずめたまま言う。


「……蓮」
「うん?」
「今日、すっごく格好良かったよ。本当に」
「………て、照れるな……ははっ」
「……他の子たちに言われた時には、上手く冗談で流してたのに?」
「そりゃ、まあ……君から格好いいって言われたんだし」


君が特別な人だから。他の人々の感想とは、違うから。

暗にその意味が伝わってきて、莉愛の顔に段々と熱が上がっていく。本当に、この男は悪質極まりないと莉愛は思った。

だから、こうやって我儘になるのも仕方がない。そういう風に自分を納得させて、莉愛は言う。


「デート行きたい」
「えっ、デート?」
「うん、行ったことないじゃん」
「……こ、恋人でもないのに?」
「ふ~うん、そんなこと言うんだ」


明らかに拗ねた口調と共に、莉愛は顔を上げる。

自分の失言に気づいた蓮はすぐに何かを言い出そうとするものの、莉愛の言葉の方がもっと早かった。


「どうせ、好きでもない人は絶対に抱かないくせに」
「………………」
「あなたの真面目さは、誰よりも私がよく知っているから……どうせ、私の責任取るつもりなんでしょ?だから、デート行こうよ。恋人じゃないけど、恋人以上じゃん」
「………莉愛、いつの間にこんな口達者になったんだ?」
「誰かさんのせいですぅ~ふふっ」


ようやくしこりが全部溶けたのか、莉愛はクスクスと笑いながらまた蓮の懐に頬ずりをする。

……デートに行くって答えなきゃ、絶対に離してくれなそうだな。

そう思った蓮は、当たり前のように決まっていた言葉を口にする。


「行こっか、デート」
「うん、行こう!」


花咲くような笑みを浮かべながら、莉愛は連に抱き着いたまま靴を脱ぎ始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...