119 / 173
最終章 人族編
トラウマ
しおりを挟む「いいかお子様ども!!今日は俺が教師だ!ちゃんと言うことを聞く様に!!」
縁側でリツさんが二人を正座させ、何やら講義が始まっている。
「リツ、いいからはやくしろよ!」
「リツ兄、早く」
「言ってみたかっただけっす!少しぐらいいいでしょうが!!!俺の得意なの事務魔法しかないんスから!」
ワイワイやっているので、邪魔しない様にお茶とパンケーキを出すと子供達の目線がパンケーキに釘付けになってしまった。失敗した。五段パンケーキのビジュアルに抗える子はいなかった。
「コラ!自分から通信魔法陣教えて欲しいって言ったんでしょうが!!おわっ!天女さん!美味しそう!よし、生徒達!食べてからにしよう!!!」
子供達は教えて欲しいことがあると自分から色々な大人の元に行く様になった。
二人で手を繋ぎ、私の知らない軍部の人にまで「〇〇兄、教えてください!」と言うらしい。可愛さに絆されて皆何でも教えている様だ。
私を守ることに特化したことばかりで、偽物の離れにいたあの時、あれができればこれが出来ればと後悔しているものばかりと聞いている。
子供達なりに、トラウマに向き合おうとしている。
私はというと、実はまだ怖さがあって他種族の集まる国際パーティーは欠席させてもらっている。
それに、一日一回必ずリヒト様の執務室に通う様になってしまった。
昼間に一度顔を見ないと途端に不安になってくる。
外国へ出るお仕事は陛下が代わってくださっているそうで、リヒト様が私から離れない様配慮してくださっている。
「リツさん、子供達をよろしくお願いします」
「あ!昼デートっすね?了解しました!ごゆっくり!!おい!クロム!それ俺のだろ!食うなよ!!」
ワイワイ楽しそうな三人を残し、ミリーナさんに目線で合図をすると、心得た様にすぐに着替えとヘアセットに取り掛かってくれた。
「毎日……ごめんなさい……」
「何をおっしゃっているのですか!先代の王妃様など一日五回もお着替えをなさりましたよ!?それにわたくしの楽しみなのです、何度でも!いつまでも!やりましょう!!」
リヒト様に会うためにおしゃれをして、仕事中の彼に会いに行く。夜には帰ってくるのに、朝まで毎日一緒にいるのに。
彼の顔を見て、存在を確かめて、今私がいる場所を再確認する。
朝送り出したばかりなのにソワソワしたり涙ぐんだりし始めた私を見て、ルルリエさんが提案してくれ始まったこの昼のデートは、王宮で一緒にランチをたべたり、お茶をしたりと短いデートの様で楽しい。
昼間に一度彼の存在を確認できれば安心してまた離れに戻れる。
リヒト様も幹部のみんなも、ルルリエさんがトラウマとして報告したため快く応じてくれている。
母屋を超えて、王宮へ。
ミリーナさんが後ろについてくれている。
宮女達も軍人さんも、官吏達も、私を見ると足を止めて頭を下げ、通り過ぎるまで動かない。
前は一礼程度だったのに。王族と同じ扱いをされる様になった。
中には涙ぐむ人までいる。
「つむぎ、今日は早いな。迎えに行こうと出た所だった」
溶けそうな笑顔のリヒト様が正面の大階段を降りてきて、私を抱き上げて下さった。
「ミリーナ、下がっていい、帰りは離れまで送っていく」
「承知致しました」
ミリーナさんがニコニコ顔で一礼し、下がっていく。
「はぁ、番可愛い。毎日やばい。可愛い天女が毎日俺を訪ねて来る」
リヒト様が嬉しそうにしてくれるので、甘えさせてもらっている。
お仕事を邪魔するわがままな妃なはずなのに、付き合って下さる。
「早く…………会いたくなって……ちゃんといるか、確かめたくて……ごめんね」
「執務室にお前の席を作ったから好きに来い。俺のそばにいるという仕事を与える!!」
リヒト様もみんなも、私のトラウマを一番に考えてくれる。
一度昼間にすれ違い、会えずに過呼吸をおこしてからはこのお昼のデートを最優先にしてくれている。
首に手を回して抱きしめる。
大丈夫、ちゃんといる。
「今日は庭園に昼飯を用意させてる、明日はスカーレットの所に買い物にいくか。店ごと買ってやる」
「一緒なら、どこでもいい。ありがとう」
ノリノリのリヒト様に心が救われる。
子供達は前を向いてトラウマに向き合ってるのに私は対処療法に留まっている。
「ルルリエさんがね、元の体重にもどったら、夜、母屋に行っていいって」
「何だと!?よし!今日お前は倍量食え。俺のも食わせる!!!」
途端に真剣にぶつぶついい出した彼が愛しい。
「ふふふ、あと少しだよ。今日たくさん食べたあと測ったらいけるかも」
「!!!!!」
王族庭園のガゼボのソファーで膝に抱かれて給餌をうける。
私がリラックスできる様に使用人は下げてくれている。
「あと一皿?……いや万全を期して三皿は食わせるか…………」
「もうお腹いっぱいだよ?」
「もう!?!?」
人間女子の一人前は食べたのに……
「子供ら抱いて体重計のれ!!!!」
2,748
あなたにおすすめの小説
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる