【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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最終章 人族編

芥子の花のホテル

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 三日で終わらすと言っていたクロム君も三対一には苦労したのか、一週間ほどかかっての勝利だった。何故か本気で勝ちに行こうとしていたらしく、夕方帰ってからも紙に書いたチェス盤のマス目をじっと見ている事が多かった。
(マス目だけで駒は無いのに脳内対戦?こわ)

 今はケイとエレノアを連れて毎日軍服姿で領地を飛び回っている。

「橋の腐敗から、獣害、汚職までバンバン解決してくる。小公爵人気がやべぇ」
リヒト様が半分呆れて言う。

 小さな美少年ヒーローが困り事をどんどん解決していくと、領地の新聞が毎日騒がしい。

 すぐにクロム君が次期公爵だとバレて人気は鰻登りだ。本人は私の為だけに動いている様でキョトンとしていて可愛い。

 朝ごはんを食べてすぐに出ていくクロム君に特大のバスケットに詰めたお弁当を渡す。

「危ないことはしないでね?お夕飯の時間にはちゃんと帰ってくる事!」

 ケイの上でにっこり笑うクロム君の額にキスをして見送ると、後ろからダルそうにレスターが出てくる。

「母上~ジジイ共のところへ行って参ります~~~」

「ふふふ、レスターもあと少しなんでしょう?凄いねぇ。今日のお弁当はデザートにリンゴクッキー入ってるよ。オヤツに先生達と食べてね?」

「ジジイ共にはもったいないです」

「ふふ、レスターにね、言ってなかった事があるの」

 行きたく無さそうなレスターを抱き上げて、耳元で囁く。

「あなたがお腹にいるって分かった時にね、私、神様にお願いした事があるの」

 レスターは私の顔を見てキョトンとする。
ふふふ、可愛い。

「何だと思う?」

「?竜人は、エルダゾルク神に卵が無事に産まれます様にと祈ります」

「ふふ、私はね、リヒト様にそっくりな子がいいですってお願いしたの」

 レスターが目を見開いてビックリ顔で私を見る。本当の事だ。リヒト様そっくりの子がいいと願った。

「信じられなかったら、リヒト様にきいてごらん?彼の前で言ってるもの」

「母上を……信じられないなど……あり得ません」

 溜まった涙をこぼさない様に目に力を入れて答える我が子が愛おしい。

「生まれて来てくれてありがとう、レスター」

 レスターの頬にキスをして、頬擦りをするとくすぐったそうに目を細めて笑う。
笑った拍子に溢れた涙を慌てて袂で拭う仕草が可愛い。

「母上!行って参ります!」

「うん、馬車にきをつけてね?知らない大人についていかない事」

 レスターは一瞬複雑そうな顔で私を見てから笑って「承知しました」と答えてドアから出て行った。

「はぁ、お前はガキに甘いなぁ」

「え?そう?普通だよ」

「……………………卵じゃねぇぞ、あいつらは」

「え?どういう意味?そんな事わかってるよ?」

「……………………」

 うちに双子の卵があるので、リヒト様は私達にわからない様に村全体を警備で囲っていたらしい。
仲直りしてからは隠す必要が無くなり、村に軍人が沢山いる。
今やこの村は軍人特需が訪れて、村長さんに感謝されてしまった。

 リオネルさん達も私が王弟妃で、レスターが王族である事はもう分かっている。
けれど何も言わずに見守ってくれている。
リヒト様は顔がわれすぎているのと、地位が高すぎてパニックになってしまうので表には出ないでもらってる。

 週に一度のアルバイト。
レスターが先生達と楽しそう?なのを横目にパンを売る。
それだけなのに、リヒト様はめちゃくちゃ嫌そう。リオネルさんの匂いがつくのが嫌らしい。

「お前をあいつの視界に入れるのも嫌だ。もったいねぇ!!!減る!!!あいつだけじゃねぇんだよ!村の男共全員が浮つきやがって!!!殺してやる!!」

 またなんかおかしな事言ってるな。
無理やり辞めさせる事も簡単なはずなのにそれはしない。私の希望を汲んでくれる。

 知らないうちにキッチンにオーブンが入っていたり、クローゼットが増設されてプレゼントの山になっていたり、獣人の愛情表現はわかりやすい。

「オーブン、ありがとう。子供達にクッキーとケーキが焼けて、嬉しい」

「ん」

「私からも、何か贈りたい。沢山働けたわけじゃないからアルバイト代は少ないけれど……」

 びっくり顔のリヒト様が可愛い。
獣人は男の人からしかプレゼントは贈らない。
女の人は受け取るのが愛情表現。

「だったら…………」

 リヒト様は私を抱き上げて翼を出す。
そのまま外に出て飛び立つとあっという間に村は小さくなっていく。

 可愛らしいオレンジ色の芥子けしの花畑が見えてきて、花畑を見下ろす様な高台に建てられたオシャレなホテルに入っていく。

 ホテルマン達とメイド達が左右に分かれて頭を下げている。何これ?

「隣接する俺の領地のホテルだ。好きだろ、こーいう景色」

「好きだけど……何で急に?」

 最上階のスイートルームらしき部屋にはいり、広いテラスバルコニーのソファーに下される。

 芥子の花が風に揺れているのが見える。
心地よい風が通り、奥の方に小川も見える。

「紬、俺に何か贈ってくれるというなら…………もう一度、これを受け取ってほしい」

 軍服を着た彼が、私の前に騎士の様に跪く。
小さな箱を開けて私に渡す。

「これ………………」
彼の鱗を加工した婚約指輪とエルダゾルク神に頂いた金の結婚指輪。

「リヒト様が、つけてくれる?」

 眩しそうに私を見て笑い、二つの指輪を左手の薬指にゆっくりはめてくれた。

「嬉しい」

「~~~っはあ~~~~~~マジ良かった、断られるかと……」

「何故?」

「お前の好きと俺の好きじゃあ熱量が違いすぎるんだよ!!」

「そんな事、ないよ。エスコートするリヒト様を見ただけで記憶を失うぐらいには私はリヒト様が好きで、誰にも触ってほしくないと思ってる」

「っ————」

 リヒト様が赤面するなんて珍しい。楽しい。

「愛してる、そばにいてほしいの。他の子を見ないで」

「~~~~~~~~~!?」

「ふふふ」

「俺…………マジで王じゃなくて良かった……何を捨ててもお前の願いを叶えたくなる」

 クスクス笑う私を抱き上げてベッドに向かう。
彼からのキスが降ってくる前に、私からそっとキスを贈る。

 いつも魔法の様に脱がされてしまう着物を今日は自分から一枚一枚脱いでいく。
キスをされながらピシッと石みたいに固まった彼が愛しい。

「愛して?」

「おっ前!!どこでこんな事覚えた!!!」 

「あ、早くしないと子供達帰って来ちゃうな~~~。お花畑にも連れて行ってほしいのに。デート、して?」

リヒト様、口がパクパクしちゃってる。

 下着姿になって手を伸ばすと、
金の瞳孔が縦に伸びた獣みたいな目で見下ろしてくる。
片手で顔を覆っているけどフーーっフーーっと興奮した熱い息が指の隙間から漏れている。

「抱いて?」

「優しくできない!!」

「いいよ、リヒト様なら」

「ヤバすぎ……暴走しそう………………」

「リヒト様、好き、だいすき」

「落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺!!」

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