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第三章 それぞれの魔獣戦

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店に入って来たルードリッヒさんは、何やら考えている様子の僕に、「どうしたんだ?」と尋ねてくれた。だから僕は、考えていた事を話してみた。

するとルードリッヒさんは
「だったらのぞむが直接それを取りに行けばいいじゃないか。」
とニコニコ笑ってそう言った。
「僕が?直接?ですか!?」
と突拍子もない彼の言葉に慌ててしまう。だがルードリッヒさんは、
「そうだ。のぞむが直接(魔石や素材を)取りに行けば、ギルドから買うより安く手に入るだろう?自分で取りに行く時にかかる手間賃だけで済むんだぞ?」
と簡単な事の様に言ってくれたんだ。
でも僕は、そもそも魔力もなければ、魔法だって使えない。そればかりか、魔力が無い僕にとって、扱える武器がないんだ。そんな僕が魔獣と戦えるわけが無い。

バトロワの中でなら、僕は最強と呼ばれた男だけど、あれは所詮ゲームの中の世界。当然、ゲーム内の僕のアバターが死んでも、現実の僕が死ぬ事は無い。
でもここは……。この世界はゲームの中ではなく、"異世界”という現実・・だ。魔物に襲われれば痛みもあるだろうし、下手をすると死んでしまうかもしれない。
もし、二度とこの世界から元の世界に帰る事が出来なかったとしたら……。僕はこの世界でこれからも生きて行かなくちゃならないんだ。
だのに……。
「僕が直接だなんて、無理、ですよ。」
と首を横に振る僕に、
「大丈夫だ。俺が一緒に行ってやるから。」
と事も無げに言うルードリッヒさんに対して少しイラッとしてしまった。
「だから………、無理だ「と言って、やる前から諦めるのか?のぞむ。」え?!」
僕の言葉に被せる様に、少し語気を強くしたルードリッヒさんの目が鋭さを増している。
「何も出来ない。自分じゃ無理。やってみる前に決めつけて、やる努力をしない。」
「……………………。」
「お前は街の人達に恩返しをしたいと言っていたよな?その気持ちは嘘なのか?」
「嘘なんかじゃ!」
「だったらお前自身がやらなきゃ意味が無いだろ?のぞむ!」
「僕、自身がやって…こその……。」
「そうだ。のぞむ自身がやってこそ、それがまことの恩返しといえると俺は思うぞ。」

"僕自身がやってこその恩返し”
僕はこの言葉を何度も何度も頭の中で反復した。

この世界に来て、城から追い出された僕を温かく迎え食べ物と住む所を提供してくれたハイネさんや服をくれたヨハネスさん。ふらっと店に入っただけだった僕を受け入れ雇ってくれたケイドル爺さん。他にも大勢の街の人達が僕に優しくしてくれた。嬉しかった。有難かった。
だからこそ恩返しがしたいと思ったのに、他力本願でどうする?仮に、ギルドに依頼して魔石を取って来て貰ったとしても、それで冒険者に報奨金を払うのなら、朝三暮四ではないだろうか。それに、依頼したところで欲しい魔石が必ず手に入るとは限らないし、僕の依頼を受けてくれる冒険者がいない可能性だってある。
だったら……

「ま、のぞむがよく考えて…「ルードリッヒさん!僕を連れて行ってください!」お?決めたのか?」
勢いよく言った僕の言葉に笑顔で答えてくれたルードリッヒさん。
「はい!僕がやってこそ意味がある。そうですよね?」
「そうだ。のぞむが頑張って、成し遂げる事で、初めて恩返しになると思うぞ。」
「はい!僕、頑張ります!だからルードリッヒさん。僕を仲間に入れて下さい。」
僕は目の前にいるルードリッヒさんに深々と頭を下げた。
そんな僕の頭を、ルードリッヒさんの大きな掌が優しく撫でてくれたんだ。
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