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82. 美人は3日。美男子は?

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 深い海のような群青色の瞳が獰猛な色気を宿していて、ちょっとだけ生唾を飲んで推されてしまい、思わず流されそうになるところだったが・・・


「ちょっと待って! ステイッ!」


 ぬいぐるみのように抱っこされたまま押し倒されてなるものかッ! と。

 彼の肩を掴むと、ぬぐぐッと踏ん張る望・・・


「なんでさー!?」


 押し返されても、平気な顔で彼女の頬にキスをするルーカス健一

 単純に力の差である。


「確かに健一以外の人と恋愛も結婚もセックスもしたくないッ!」

「じゃ~いいじゃん!!」


 ムッと口を尖らすルーカス健一に、思わず額を押さえる望。


 ――ああ、自覚がないって怖い。


「ヘイッ! レッド隊! 鏡持ってきてッ! 特急よッ!」


 それまでは赤いスーツケースと共に素知らぬ顔で壁際に整列していた赤い埴輪達が、望の鶴の一声でせっせと移動し始めて、わっせわっせとベット脇にゴージャスな彫刻の施された優雅な猫足の姿見を運んできて『でんッ!』と、設置して再び壁際にワラワラ戻っていく。


「健一。あのね、自分の顔見てよ」

「え? お、おう・・・」


 この10年で見慣れた自分の顔を眺めて、彼は思わず首を傾げた。


 ――ん? 俺の顔だよな。


「5日かかってや~~~っとこの舶来イケメン男性モデルみたいな顔に馴染んで赤面しなくなったのよ!」

「お、おう。ありがとう」


 膝に乗せた望の方を向き直るルーカス健一・・・やたら近い。


「キスされても、舐められても何とか耐えたわよ。健一だからって!」

「うん。まぁ。俺ね、俺」


 ちょっと嬉しそう。


「だからってッ! たった5日で中身はどうあれ、顔だけ『ハジメマシテ』の超絶イケメンとセックスできるかあぁあああ!」

「えぇ~~~でも俺なのに・・・」

「何いってんの! 顔も大事な要素よ! 美人は3日で飽きるってのあれ、嘘だからねッ! 5日経ってもまだアンタの美形っぷりに慣れてないからッ!」

「・・・ええ~そんなぁ」

「じゃあ、反対の立場だったらどうよ? 私の顔が涼子ちゃんになってたら」

「無理」


 完敗である。



×××



 「いや、だからさぁ~、イケメン過ぎて、まだそれに慣れて無いってだけじゃない。時間かけたらもっと慣れて来るはずだし」

「・・・」


 ベッドの隅っこでいじけるルーカス健一に一生懸命話しかけるのは望だ。

 いつの間にか励ます役と励まされる役が入れ替わっているのを指摘してくれる突っ込み役は不在である。


「俺の顔が良過ぎるって・・・超複雑だ・・・うぅ・・・」

「見慣れるまで待ってって言ってるだけじゃん! しないって言ってるんじゃないってば~! ソレより」

「・・・ソレより?」

「何で急にその考えになったの? 欲求不満?」

「いや、欲求不満はモチロ・・・イヤ、ゴホン。セックスして気持ちよくなったら、もっとしたいって思って望が生きることに執着するかもって・・・」

「もっとしたいって?」

「うん」

「・・・」


 ルーカス健一の鳩尾に望のアッパーが決まった・・・(2回目)


「エロ漫画の見すぎッ!!」

「スミマセン・・・ゲフィ・・・」



×××



 「身体が透けてるだけで、馬力とかはいつもと変わらんのにな~」


 無事に元の姿勢に戻り、望を膝に乗せ直すと、ぎゅっと手を回し存在感を確かめるように彼女の肩にアゴを乗せると、『はぁあ~』と特大のため息を付くルーカス健一


「昔っから肩にあご載せるの好きよね健一って」

「うん。お前の髪の毛いい匂いがするから」


 鼻を髪の毛に埋めてワンコの様にクンクン嗅ぎ始めるルーカス健一に苦笑いになる望。


「シャンプーだってば」

「違う。シャンプーとお前自身の匂いが混ざっていい匂いなんだよ。甘くて美味そうなニオイなんだってば。昔っから変わらない匂いだから間違えっこない」

「確かに小さい頃は美容院のシャンプーじゃ無かったわね・・・そう言えば健一の今の身体からも懐かしい匂いがするわね」

「えー、俺臭うか?」

「うんお菓子みたいな、パンみたいな? お日様みたいな・・・あったかい匂いがする」

「ひょっとして発酵してんのか?」


 そう言えば今日は風呂に入るどころか未だにシャワーも浴びていない事を思い出し、つい自分の脇の辺りを嗅ぎ始めるルーカス健一

 ぶっちゃけイケメンが台無しである・・・。


「ううん、美味しそうな匂い。目を閉じたら、あ。健一だ~って思う匂いなの。んで落ち着くのよね~なんなんだろ?」

「ソレ、俺と一緒じゃん・・・」

「「・・・」」






 結局似た者同士のようである。



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