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83. 瞼を閉じて〜健一/ローザ夫人視点あり〜

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 お互いに匂いだけは昔から変わらないね、と笑いながら膝に乗った望をギュッと抱き締めるルーカス健一と、その腕に自分の腕を絡ませて彼の胸に頭を預けて目を閉じる望。

 昔から身体が小さかった望は、同い年なのに身体が大きかった彼の膝に座るのが大好きだったな~と、ふと昔を思い出した。

 ――でも、多分あれって独占欲だったんじゃないかな? 誰にもこの膝は渡さないって思ってた気がする。


「どうした? 眠いのか」


 目を閉じたままクスクス笑う望の顔を心配そうに覗き込むルーカス健一に目を閉じたままの彼女は気が付かない。


「ううん。何でもない」


 ――ああ。この匂い、健一の匂いだ。ず~っとこうしていられたら幸せだなぁ・・・あったかい・・・


 望はまたウトウトし始める。


 ――あぁ。神様ありがとう彼の元に私を連れて来てくれて・・・彼と一緒に幸せになるから・・・このまま一緒にいさせて下さい。


 いつの間にか望は眠ってしまった・・・





「望! 身体が元に戻ったッ!」


 遠くで健一が何かを言っている気がしたが、眠くて眠くて目が開かなくて。


「健一。大好き」


 そう呟いて、彼女は本当に眠ってしまった・・・



×××



 望を膝の上に乗せたまま、


「お互いに相手の匂いで安心してるじゃん。結局俺達似てるんだな」


 そう言って、彼女に回した腕に力を入れた。

 絶対に消えさせるもんか。

 諦めてたのにやっと会えた俺の唯一だ。

 望本人にだって俺から奪わせるもんか!


 そう思ってギュッと抱きついたら、俺の腕に彼女が自分の腕を絡ませて胸に頭を押し当ててスリスリと動かし始めた。


 ――ああ、眠いんだな。コレをやり出すと寝ちゃうからな・・・でも今は眠って欲しくないんだよな。いつ彼女が消えてしまうか分からないから・・・


 そう思って顔を覗き込んだら既に望は目を閉じて、クスクス笑っていた。


「どうした? 眠いのか?」


 小声で何かを呟いたから口元に耳を持って行こうとしたら、急に彼女の身体が一瞬金色の光に包まれた。


「ッ!」


 彼女の半分くらい薄く透けてた身体が光が消えた途端に一瞬で元に戻っていた!!


「望! 身体が元に戻ったッ!」


 そう言って起こそうとしたけど、スヤスヤと寝息を立ていたので諦めた。


 ――こうなると絶対に起きないんだよぁ・・・


 小さい頃から寝付きがやたらと良い彼女は、眠ってしまうとちょっとやそっとじゃ起きなくなる。
 車に乗ったら5分で寝付くのなんかは、もう特技としか言いようがない。


 ――仕方がないから一晩中起きて見張っとくか。


 そう思って、顔を眺めていたら


「健一。大好き」


 と。

 彼女が寝言にしてはやたら大きい声で呟いた。


「俺もだよ、望」


 抱き締めたままのほうが俺としては安心なんだけど、それじゃあ彼女がゆっくり眠れない。

 今日は1日朝から大騒ぎで望だって疲れてる筈だ。

 そっとベッドに寝かせて布団を掛けてから彼女の薄桃色の唇にキスをした。


「良かった・・・」


 窓からは月明かりが部屋に入って来て真夜中になっていてることを教えてくれていた。

 胸の辺りにあった氷の塊が溶けて温かくなって広がったような――そんな感覚が湧いて、気が付いたら頬を1筋生温かい涙が流れ落ちて行った。



「護衛任務だと思えばいいか」


 ベッドの横に椅子を持ってきて彼女の側に座って、艶やかな髪を撫でるとくすぐったいのか、身じろぎをする。


「もう大丈夫そうだな・・・」


 俺はやっと身体の力が抜けたのを感じた。



×××



 ローザはメイドのミミから、どうやら魔女様が持ち直した様だという知らせを受けて、ノゾミ様の私室へと急いで向かった。

 獣人は非常に聴覚や体感が優れているのでドア1枚くらい隔てていても中の様子くらいなら察知できる。

 護衛兼メイドや侍従として優秀が故に貴族家には人気が高いが、その中でもあの2人は優秀だ。

 彼女達が報告して来た時点でもう心配はないだろうが、今は見たこともないほど取り乱していた息子の事が少し心配だった。



×××



 ドアに向かって小さなノックをすると、中から息子ルーの返事が聞こえた。


「ルーカス?」

「母上?」

「ノゾミ様は?」


 ドア越しに小声で息子と、しかもルーと女性の安否の事で会話をする機会がくるなんて、考えた事も無かったわ・・・


『もう大丈夫です身体は元に戻りました。ただ疲れたのか、今は寝ています』

「貴方、食事は?」

『あぁ、そういえば忘れてましたね』

「後で誰かに持たせるわね」

『ありがとうございます』



 ――良かった。もう大丈夫そうね・・・ルーが取り乱して叫んでいるとミミから報告が来た時は慌てたけど。


 ――やっぱり旦那様の息子だわ。似て無い様で、こういう時の行動は呆れるくらいよく似てるわね・・・


 息子は今日は魔女様から離れないだろうなと考えると自然と頬が緩む。


「お式はいつがいいかしらね~」





 息子の夜食をコックに頼む為に、彼女は愉しげな様子で厨房へと歩いて行った・・・


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