鬼の名語り

小目出鯛太郎

文字の大きさ
26 / 46

のぞき

しおりを挟む

「んもぅさぁ~。あいつらのことなんてほっといてやれよぉ。俺がちょいとのぞきにいったらさぁ。家の戸は閉まって、鍵もかかってて、俺が屋根にはりついたらさぁ、鋼がさぁ、舐めろだの、穴にいれてやるだの、ねじってゆっくりだのなんだかんだ言って。あの若い木もさぁ、でかい声で喘ぎはしないんだけどよぉ、あ、とかああとか言っちゃって。よそへ行ってからもう一回夕方に覗いて見たらさぁ、縁側で若い木を陽にあてて、可愛がってたよ。木の方もさぁ、もう精魂尽き果てたぁみたいな感じでぐったりしててさぁ。そのくせ明日朝起きたらすぐにとか言ってすがりついてたよ。独り身にはさぁ、やぁだねぇ目の毒だねぇ。朝から夕方まで一日中やってたんじゃね?お愉しみだったんだよ。あの調子じゃぁ夜も寝ないんじゃね?鋼はさぁ、ああ見えてむっつりだし。鋳潰棒、芯張棒は立ちっぱなしで夜も眠らずって言うじゃんよぉ。芯じゃなくて、心だっけか…」

 ひのしは畳にうつ伏せてごろりと転がって、両足をぶらぶらさせている。

「あぁぁぁ。俺もさぁ、ああいうの見ちゃうとさぁ、かわゆいつがいが欲しいわぁ。『あぃ、旦那様あぃ旦那様』ってよぉ、目ぇうるうるさせてよぉ。まぁ俺はおっぱいゆさゆさしてるほうが良いが」


「鈷よ…。お主のそのよく回る舌は暇そうだな。広い御堂を隅から隅まで舐めまわして掃除して来ても良いのだぞ」

「いやぁん、頭領目つきも言葉も冷たいわぁん」

 巻物が投げつけられる前に、ひのしは、ひょいと身を起こした。
「いやぁ縮緬ちりめんの着物は良いねぇ。しぼがあるから転がってもしわも折り目も目立たないし。頭領もさぁ、あいつに白地に銀模様の着物でも贈ってさぁ、ちょっとは機嫌とってやればぁ?」

 金剛に睨まれて、鈷はするりと部屋を抜け出た。


 他所の里から戻ってみれば、堅物の鋼が若い番を得て蜂蜜に漬けたようにでれでれとしていると聞けば、独り身の鈷としてはそれは是非とも覗きに行かねばという気になった。

 花園では鋳潰し刀などと陰口をたたく花もいたが、鈷は知っている。
 それは鋼を得られなかった花々の恨み節なのだ。


 鋳潰す際に裁ち鋏か鎌が共に鋳込まれたのではないかと思うほど、鋼は花の仕立てや仕置きが上手かった。


 ずばりと切り、時に刺し、縛り上げる。
 
 
 一人ではいられぬ身体にしてしまう。一人では寂しいと口にする花にしてしまう。


 おぉう恐ろしい。一人で立っていたものを一人では立てぬ身に変えてしまう。俺はそういうのは御免だけれど。
 しかし鈷は気になった。一体どんな臈長けた花か木が鋼のものになったのかと。

 
 覗いて見れば取り立てて目立った所のない、何か一つの言葉で言い表そうとするならば、寂しそう…そう寂し気で傍で支えてやらねばという感じがした。
 鋼、お前、花園で自分の理想を作ろうとしていたのかと思ってしまったが。

 番を置いて縁側で微笑む男の顔があまりにも幸せそうで。


 では残りの寂しがりの欲しがりの花は俺がたっぷりと可愛がってやらねばな、とおかしな決意を胸に、請われてもいない花園にひのしは向かうのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

お義父さん、好き。

うみ
恋愛
お義父さんの子を孕みたい……。義理の父を好きになって、愛してしまった。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...