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【68】それってヒモ……にもならないか

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「さて、アルファード卿よ。魔王討伐の功績もそうだが、国の危機を救ってくれたそなたには感謝してもしきれん。王として褒美を与えねばならんな」

 「なにか希望はあるか?」と聞かれてアルファードはそのもっふりした髭のあごに手をあてた。「そんなものいりません」と答えるほど聖人君子ではない。
 なにより、恩恵は使ってしまったし、この世界での自分のこれからの人生もある。

「一生困らない生活の保障ですかね? 年金とか」

 なんとも地味な要求に老王はしわに埋もれた目を、軽くひらいて「くくく……」と逆におかしそうに笑う。

「それでは爵位を与えよう。そなたの功績なら、侯爵といきたいところだが、それでは家門の歴史ばかりが古い奴らがうるさいのではな。子爵あたりから初めて、伯爵、侯爵とな、徐々にあげていくことにしよう」

 「さてどこか見繕わねばならんな領地も」とつぶやくアルガーノンに「領地なんていりませんよ」とアルファードは顔をしかめる。

「年金を下さればいいんです。領地運営や高貴な方々とのお付き合いなんて正直めんどう……まあ、色々と大変だと推察できますので」

 領地経営だの高貴な方々との面倒ごとをさっ引いて、現金が一番なのだ。アルガーノンは「それならば」と。

「夫に先立たれて子供もいない爵位持ちの若い未亡人でも見繕うか? 領地経営ならば夫人にまかせておけばよい」

 「そなたと結婚できるというならば、妙齢の夫人が列をなしそうであるがな」とアルガーノンはつぶやくが、横から伸びた大きな手ががっとアルファードの手を掴んで握りしめる。

「お爺さま、ご心配なく。フリィの面倒は一生、この私がみます。不自由などさせません!」

 その言葉にアルファードは「ずっとお前の家の居候っていうのもなあ」とつぶやけば「ずっといてくれればいい!」とこののんびりした男にしては珍しく、被せ気味にくいつく。

「昨日、あなたは私と“ずっと一緒にいる”と約束してくれたではないか」

 たしかにしたが、それは物理的な距離という意味ではなく、いつまでも変わることない友情というか、そういう意味でいったのだが。
 義理堅いこの男のことだ。一度決めたからには、アルファードの面倒を本当に一生見てくれるのだろうが。
 しかし、なんだかそれは。

「いい大人の男が働きもせずに、いくらお前が大金持ちの公爵様とはいえ、おんぶに抱っこなんて、それではヒモみたいではないか?」

 あれ? と自分で口にしてアルファードは、なんか違うと思う。ヒモっていうのは恋愛関係や性的関係が前提で、自分にはそんなものこれっぽっちもないんだから、これはやっぱり居候か? 
 毎朝、風呂は覗かれているがあれはチンチラの姿だし。

「ヒモだろうが、居候だろうがかまわない。あなたはあなたで、私のそばにいてくれればいし、あなたに関することは私が全部世話をする!」

 これまたいつものぼんやりした態度はどうした? というきっぱり具合でいわれて、アルファードが「ふむ」と考えこむと、レジナルドがなぜか苦笑を堪えながら。

「お爺さま、アルファード卿には領地無しの爵位と年金だけを与えて、あとはダンにお任せすればよろしいかと」
「そのようだな」

 アルガーノン王もうなずく。とりあえず面倒くさい領地はなしで、年金生活は出来るようなので、いいかとアルファードも「それがよろしいようで」とうなずく。
 自分の手を握りしめたまま、離さない大男はともかく。

「さて、聖女ヒマリよ。そなたの希望を聞こう」

 アルガーノン王に呼びかけられて、ヒマリが「わたしは……」と言葉に詰まる。隣に立つレジナルドが「君の正直な気持ちを話せばいいんだよ」と優しく語りかける。しかし、それは前のように手を取るような距離感ではなかったが。

「わたしは……聖女としてこの世界に呼ばれて、その役目を果たせませんでした。魔王を倒すお手伝いが出来ず……レジナルド様……を……」

 今まで彼女はレジナルドを呼び捨てにしていた。おそらくはレジナルドがそう呼ぶようにといったのだろう。“様”と呼ばれてレジナルドの、そのとき彼女の震える肩に掛けようとした手が離れる。

「ヒマリ、それは君のせいではない。僕の力不足だ。あのとき僕は焦ってしまった。ダンに頼ることなく、僕一人だけで魔王を倒そうと」

 そしてレジナルドはダンダレイスを見て告げる。

「僕は魔王を倒して王にならなければならないと“野望”を持ってしまった。それが僕の敗因であり、あげくに魔王の思念の欠片などにこの身体をいいように使われた」

 そして、正しい勇者王子らしくない。いや、もうすでに彼はそうではない、本当の彼らしい苦い微笑みを見せた。

「ヒマリ、君はそんな僕をアルファード卿とともに蘇らせてくれた。陛下はそんな君にたいして、なにか希望はあるか? とお尋ねなんだ」

 「本当に思っていることを話していいのだよ」とうながされて、ヒマリは顔をあげて口を開く。

「わ、わたしは……元の世界に帰りたいです!」





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