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長い物語の終わりはハッピーエンドで

第11話 聖女の眷族【1】

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 RuRuRuRuRuuuuuuuuuu

  蒼天の空に響き渡る、フルートのような美しい鳴き声。旋回する二つの白い姿は、先に一回り大きな飛竜が降り立った。すぐに、少し小さな飛竜も。
 ギングの背からひらりと降りた、ヴィルタークは、クーンへと駆け寄り、大きな手を差し出した。

 別に一人でも、もうおりられるんだけどなあ……と思いつつ、史朗はその手に手を重ねて、クーンの背から滑り降りる。

 Hoooooooooon!

 ギングがその長首を伸ばして、天高くホルンのような鳴き声を響かせるが、ぷぃっ!とクーンは顔を背けた。
 ああ、女王様はまだまだ、お冠だなぁ……と史朗は思った。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 史朗の魔法のことは秘密として、クーンのこともどうするか?という話になった。
 聖竜騎士以外の者を主と、飛竜が認めた例はない。
 まして、クーンは通常オンハネスから出てくることのない雌竜の上に、ギングと同じ、白い身体に金色の瞳の王者の竜なのだ。
 とはいえ、史朗が人前で使わなければいい魔法と違って、クーンは手の平に隠れるサイズでもない。飛竜なのだ。飛ばせないで、侯爵家の竜舎に閉じこめておくのも、かわいそうであるし。

 それに対して、ヴィルタークの答えは大胆だった。

「別に隠す必要はない。史朗はクーンの主なのだからな」
「え?でも……僕、聖竜騎士じゃないし、魔法も使えないのに……」

 いま、使えるのは風魔法だけど、それは内緒の話だ。
 異世界からきた、なんの力もない人間が、この国では王者の竜の主など、誰も信じないだろう。
 だが、ヴィルタークは大丈夫だと言う。

「竜が認めれば、それがすべてだ。そもそも、飛竜は己の主の命しかきかないんだ。他の人間がどうこう出来るものではない」
「だけど、僕は満足にクーンに乗れてないんだけど」

 初めての出会いのときに、首にしがみつくばかりで、逆に足というか、翼を引っぱっただけのことを思い出して、ふう……と史朗はため息をつく。
 大体、前世の賢者も含めて、馬にだって乗ったこともないのに。

「大丈夫だ。それも竜が教えてくれる」
「え?」

 初めてヴィルタークの笑顔に、不吉なものを感じた史朗だったが……。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「ぎゃあああ!落ちる!落ちる!」
「シロウ、クーンの声を聞くんだ、絶対落とさないと言っているだろう?」

 いきなりクーンの背中にぽんと乗せられたら、飛び立たれて、その首に思わずしがみついた。横で併走しているギングの背に乗ったヴィルタークの声に、クーンの心の声が重なる。
 大丈夫、わたしを信じて……と。
 信じる、うん、信じると、史朗は恐る恐る手を離す。と、意外にも飛ぶ竜の背中は安定していた。揺れることもなくて、滑るように空を飛んでいる。
 これなら大丈夫かな?

「さて、次はクーン、宙返りしてみようか?」
「うわああああああっ!ヴィルのスパルタぁあああっ!」
「スパルタ?どこの種族の名前だ?」

 結局、一日どころか半日で、クーンを史朗は乗りこなせるようになっていた。
 ヴィルタークの愛?の指導で。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇





 そんなこんなでクーンと出会って四日で、史朗はヴィルタークと共に、王宮、横にある聖竜騎士団の施設の広場に降り立っていた。
 聖竜騎士団員に対する正式な御披露目だ。赤に青に緑に黄色と色とりどりの飛竜が居並び、その前に紺色の竜騎士の制服をまとった団員が立っている。

 一度ここに来たことがある。竜舎にいる竜も、広場で自分の主といる竜にも、ギングのような白竜はいなかった。こうやってずらりと並んでいると、本当に白い竜はギングとクーンしかいないんだとわかる。

「女王の竜と、その主であるシロウに礼を」

 ヴィルタークの声に、一斉に彼らが膝を折って、騎士の礼を取る。主に従うようにすべての竜達も頭を垂れた。
 それを受けて、史朗もまたヴィルタークに教えられたとおりに、胸に手を当て、マントの片方の端を掴んで持ち上げ広げて、片膝を折って礼を返す。
 その史朗に従うように、クーンもまた頭を垂れる。
 礼が終われば、無礼講となって、聖竜騎士達が史朗とクーンの周りに集まる。

「雌の竜とは生きて見られるとは思いませんでした。よいものを見せていただきました」
「今の見事な鳴き声を聞いたか?」
「白に黄金の瞳。団長の言われたとおり、まさしく女王の竜だ」

 その声はみなクーンを讃えるもので、史朗がきょとんとしていると、その自分にも。

「竜が主を求めて、この王都まで来るなど聞いたことはありませんでしたぞ」
「さすが女王の竜に選ばれた方だけある。先ほども見事な乗りこなしで、まこと気品あふれ、優美でらした」
「え……あの……」

 その実は昨日は、初めクーンの首にしがみついて、ぴーぴー泣いてました。なんて言えない。ヴィルのスパルタのおかげです、とか。
 それにしてもヴィルタークがいるとはいえ、なんでこんなに聖竜騎士が好意的なんだ?と、すぐ後ろにいる彼を振り返れば。

「聖竜騎士ならば知っている。竜が主を選ぶということをな」

 それは昨日も言われたことで、史朗はこくりとうなずいた。そして、自分をかこむ中に、見知った四角い顔を見つける。

「フィーアエックさん」
「見違えましたな。シロ殿」
「あ、えっと前髪切っただけです」
「いやいや、その髪飾りも、飛竜用マントもお似合いで」
「ありがとうございます」

 今日の史朗は飛竜に乗るということで、両脇の毛を三つ編みにして、後ろでしっかりととめていた。髪飾りは史朗には見えない。クラーラに任せっきりだから、どんなのかも。
 それは虹色の光沢を放つ貝殻を使ってつくられた、翼を広げた白い鳥で、鳥と竜とはいえ、クーンを彷彿とさせるものだった。艶やかな黒髪にもよく映える。
 飛竜用の腰丈までのマントは、今日の為に出入りの仕立て屋に急ぎで作らせたものだ……とは、史朗は知らない。深い臙脂の色に金の刺しゅうの縁取りは、聖竜騎士隊の制服である濃紺に銀糸と対照的で、ヴィルタークの横に立つ姿は、小柄で華奢で可憐に見えた。

 そう可憐だ。艶やかな黒髪に、黒く大きな瞳にふっくらとした頬と、あとで十九歳と聞いて、みんながびっくりした愛らしい顔。マントの下の服もまた、裾の長い葡萄色のジレに、衿元にも袖口、裾にもレースたっぷりのシャツ。さらに首元はふんわり、リボン結びのレースのクラバットに、中央には碧の大きな宝石のブローチと貴婦人のドレスのように華やかだ。
 これレース多すぎない?とさすがにクラーラに任せきりの史朗も、ちょっとたじろいだのだが。「今日は、聖竜騎士団の方々への御披露目なのですから、これが正装でございます」との言葉に「そうなんだ」と信じてしまった。いや、間違いではない。

 この御披露目で、史朗は密かに団長の黒い小鳥とか、そのまんま姫とか呼ばれることになるのだった。高潔で礼儀正しい騎士団員は、シロ殿と史朗のことを呼び、けして、本人の前でその名で呼ぶという失態など犯す者は、一人もいなかったが。
 史朗のことを侮るとか、まして見下げているわけではない。むしろ、彼らは団長よろしく、いや、それ以上に淑女に対するような、うやうやしく敬意を込めた態度で、史朗に接した。

 なぜなら、彼らが三日三晩霊峰オンハネスで祈りを捧げ、降りてくる竜が、自ら主を求めてこの王都まで自らやってきたのだ。それも団長ヴィルタークと対をなす、女王の竜が。
 己の主を決めるのは竜であり、竜に選ばれてこその聖竜騎士なのだ。史朗は騎士ではないが、女王の竜に選ばれた。これだけで、彼らが敬意を払うのに十分値するものだった。

 もちろん、我らが尊敬する聖竜騎士の中の聖竜騎士といわれる、その剣技も聖魔法も最強であり、さらには寛大にして聡明ですべての団員に慕われる、我らが団長ヴィルタークが、とてもとても大切にしている方だというのもあるが。

「ほう、それが女王の竜か?なるほど、美しい」

 赤い制服の近衛兵達を引き連れて、やってきたのは“暫定”皇太子であるトビアスだ。軍の施設など普段近寄ることもない彼が、なぜここに?と騎士達がいぶかしげな表情を浮かべながらも、胸に手をあてて頭をたれ、ひざまづくことはしない略礼をとる。
 そして、衛兵の赤い壁に囲まれるようにして、クーンの近くへとやってきた。その横に立つ、騎士達に倣って、略礼をとる史朗の姿に目を止める。

「なんだ?聖竜騎士でも無い者がどうしてここにいる?」
「女王の主であるシロウでございます、殿下」

 ヴィルタークの言葉に、今度こそ驚愕にトビアスは目を見開き、史朗の頭の先まで足まで往復すること三回。

「ふ、ふん!見られる姿になったじゃないか」

 いまいましげにそう言った。そして「お前」と尊大な態度で。

「此度の女王の竜の“捕獲”大義であった。褒めてとらす」

 “捕獲”という言葉にひっかかったが、それでも「ありがとうございます」と返す。いや、この殿下に別に謝礼など言う必要もないが。

「王国始まって以来発見された貴重な雌竜にして、女王の竜だというではないか。当然、王家に献上するのであろうな?」

 「は?」と思わず史朗は軽く下げていた頭をあげてしまい「不敬だぞ!」と近衛兵が叱責するだけでなく、史朗を押さえつけようとでもいうのか、一人こちらに寄ってこようとするが、それはヴィルタークが一歩前に出ることで、足がピタリと止まった。彼の静かな威圧感にだ。

「殿下、おそれながら、それはどういった、お考えでおっしゃっているのでしょうか?」

 ヴィルタークが訊ねる。

「だから、その竜をよこせといっているのだ!
 そいつは聖女の召喚とともにこちらに来たのだ。いわば聖女の眷族であると神官達は言っている。
 ならば、その珍しき女王竜も、聖女のもの。当然、聖女に献上し、王家預かりとなるのが正当であろう!」

 うわぁ~とんでもない屁理屈だと、史朗は思ったが、トビアスの狙いは明らかだ。
 珍しい女王竜の出現さえ、これも瑞兆として聖女の威光に加えたいのだ。自分がその威光を借りて、暫定“皇太子”から王となる布石として。

「お言葉ですが、殿下。竜とは主に従うもの。主以外の命は受けません。たとえ神官達が言う通り、シロウが聖女の眷族だとしても、この女王竜はシロウのみに従う者です」
「だから、そこの異世界人が竜に命じればいいのではないか。聖女と王家、しいては未来の王たる、私に従順たれと!」

 聖女だけじゃなくて、自分までくわえたよこの馬鹿殿下と、史朗は思う。そうして無理矢理言うことをきかせた、竜の背にまたがって得意になりたいのか?いや、きっとそうだ。またがるだけでビビって空は飛びそうにないけど。
 自分は王の竜に選ばれた初代ジグムント王の再来だと、そういう演出も狙っていそうだ。それこそ、金ぴかの趣味の悪い飛竜マントにブーツを作らせそうだ。

「お断りします」
「なんだと!」

 ヴィルタークが口を開く前に、史朗は答えていた。その黒い大きな瞳でひたりと、トビアスを見ると、反射的に威嚇の声をあげた彼は、一瞬たじろいだようだった。






「竜と主は対等なものです。大空を翔る自由な生き物です。竜を従わせることは、主にも出来ません」

 短い付き合いではあるが、クーンと心で会話して、彼女がどれほど自分を切望していたか、そして、共に空を駆けることを喜びとし、主と竜の関係もまた知る事が出来た。

「人は主と呼ばれてはいますが、選ぶのは竜なのです。そして、たった一人の主と心を通わせる。だから、馬のように手綱も鞍もいらない。竜と人間、二つの重なる心のままに、自在に空を駆ける」

 「ええい!わけがわからないことをわめくな!」と怒鳴るトビアスとは、反対にヴィルタークが『そうでしょ?』と見上げる史朗に深くうなずき、そして、周りの団員達の若い騎士達は尊敬の眼差しで史朗を見、歴戦の者達は温かくも感嘆の眼差しを少年に向けた。「彼はすでに聖竜騎士の心をもっている」とつぶやく者も。

「異世界人の平民の分際で、アウレリア王国の皇太子たる私に逆らうか!不敬罪の上に反逆罪だぞ!衛兵、この者を捕らえて牢にぶちこめ!」

 衛兵達の半分はすぐさま従って史朗の周りを取り囲もうとし、あとは戸惑いながらも、それでも皇太子の命令にしぶしぶ従った。
 これはあとで聞いたのだが、皇太子付きの近衛の半分は、金で雇われた宰相の私兵で、あとの半分が正式な王軍なのだと。

 そして、その兵士達の前にヴィルタークだけでなく、すべての聖竜騎士が史朗を守るように立ちはだかった。槍を構える近衛に対して、彼らはその帯剣の柄にも手をかけていないが、国軍最強どころか、大陸最強をうたわれる騎士団員だ。近衛兵とはいえ、完全に腰が退けている。
 さらにクーンのそばにもそっとギングが近寄り、他の竜達もこの女王竜の周りによって守ろうとした。その動きにもトビアスは癇癪を起こして叫ぶ。

「聖竜騎士団まで、私に逆らうというのか!王がいない今、皇太子たる私がこの国の最高位にあるのだぞ!命に従い、竜とその異世界人を引き渡せ!」

 「ええい!全員捕らえろ!」と近衛兵達をトビアスがけしかけ、トビアスの私兵達がその槍をこちらに向けようとしたが。

「双方、ひかえられよ!」

 それは雷のような轟音だった。トビアスのようにキーキーわめいているわけではない。腹の底から出す、堂々たる声。

 それだけで、トビアスの私兵ではない、半分の近衛兵の足が止まり振り返る。深い緑の制服に表は同じ緑、裏地は赤のマントをなびかせた、赤銅色の髪に顔半分も同じ色の髭に覆われた、壮年の男性がこちらにやってくると、トビアスの前に立ち、胸に手をあてて頭を垂れる略礼をしてから、顔をあげる。
 「パウルス将軍だ」とヴィルタークが小声で教えてくれた。なるほどこの人が、王直属の聖竜騎士団以外の、すべての軍をすべる将軍か。

「殿下。この王都で近衛と聖竜騎士団が戦うなど、内乱を起こされるおつもりか?」
「な、内乱など、私は命に従わぬ者を処罰しようと……」

 とたんトビアスが、おろおろと視線をさまよわせ、史朗はおや?と思った。あの馬鹿殿下ならば、将軍も自分の家臣なのだから、従うのが当然と怒鳴り散らすと思ったからだ。
 しかし、馬鹿殿下は、やはり馬鹿というか、引っ込みが付かないとばかり「その異世界の平民が私に逆らうからだ!」と指射す。

「この者と女王竜を引き渡せば、聖竜騎士団の罪は問わん!さあ、よこせ!」

 この馬鹿、どこまで馬鹿なんだ?とお空をみあげて史朗は内心で嘆息した。ヴィルターク以下の騎士団員が自分とクーンをどうあっても引き渡すわけがないし、それが原因の対立だというのに、そこにまだ、しがみつくか?

 そこに「お怒りはごもっともなれど殿下」とかけられた声。同じく赤い制服の近衛兵をしたがえた、宮廷服姿の鷹のような鋭い風貌の男が現れる。
 「さ、宰相」とトビアスは味方が来たというより、どこか畏れたように彼を呼んだ。
 この国の宰相である、ヴィルナー伯爵だ。トビアスの大叔父であり、“暫定”皇太子たる彼の後ろ盾。王のいないこの国を現在、掌握している人物。

「アウレリア女神の神官達が、異世界のその者を女神の眷族と言っており、さらに女王竜がその者を主と認めているならば、これはもうすでに聖女様に女王の竜が従っているも同然。
 その者に女王竜をあずけておいて、支障はないでしょう」

 宰相の言葉にトビアスが「う、うむ、そうだな」とうなずく。史朗はおや?と思う。
 将軍に諫められても、引かなかった馬鹿殿下がいくら大叔父でも、宰相のひと言であっさり、その矛先をおさめるなど。いや、なんか宰相がやってきた初めから、彼はこの大叔父をひどく畏れている風だ。

「そこの異世界人」

 宰相は次に史朗に呼びかける。

「お前がこの世界に招かれたのは、聖女様の眷族として。女王竜も女神アウレリア様の加護よって、お前に従っているのだ。
 その眷族としての役目はしっかり果たしてもらうぞ。聖女様のピンネンメーアへの御幸(みゆき)にお前も同行してもらう」

 ピンネンメーアとはこの国では内海と呼ばれる湖だ。その湖が涸れかけているのが、今回の聖女召喚の目的の一つだ。それに自分も一緒にいけと?
 史朗が答える前にヴィルタークが「宰相閣下」と前に出て口を開く。

「女王竜とこの少年の身柄は、我ら聖竜騎士団で責任をもってお預かりいたします」
「もちろん、竜のことは聖竜騎士団に任せるのが適任だ。聖女様の御幸におかれても、君達は護衛につくことになっている。
 その聖女様の眷族ともども、女王竜もしっかりと世話をするがよろしい」

 これで宰相の口から、史朗の身柄に関してはヴィルターク預かりと言質を得た。
 不満げなトビアス皇太子だったが、宰相がその眼差し一つでうながし、一緒になった近衛兵に囲まれ立ち去った。
 ヴィルタークは同じく立ち去ろうとしていたパウルスに「将軍」と呼びかけ「近衛との間に入ってくださったこと、感謝します」と胸に手をあてて頭を垂れる。

 たしかにあそこで将軍が止めなければ、宰相が来る前に近衛と聖竜騎士団がぶつかっていただろう。ヴィルタークのことだから、ことを大げさにするつもりはないだろうが、それでも向かってくる近衛兵の槍をうち払うぐらいはしたはずだ。
 それでも聖竜騎士団長が“暫定”皇太子の近衛と諍いを起こしたということになるわけで。

 これはかなり、まずかったんじゃないか?と、史朗は思う。ヴィルタークの出生の秘密と絡んで、下手をすれば火の粉が火の粉を呼んで、さっき、あの馬鹿殿下に将軍が言った“内乱”にさえ、発展する可能性もあった。

 ヴィルタークにその気がなくてもだ。

 しかし、あの場合。あの馬鹿殿下の要求に大人しく従うつもりは史朗にもなかった。最悪クーンに飛び乗って、そのまま飛んで逃げようかと思ったが。
 そのときヴィルタークの手が重ねられて、きゅっと指をからませるように握りしめられた。まるで逃がさないと言っているばかりに。
 それはマントの影に隠れて二人以外わからない感じだったけれど。

「貴殿が礼を述べる必要はない。私は国のためにしたことだ」

 そう髭の将軍は答えて立ち去った。




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