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29.孫と祖母と

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「……本当にもう帰られてしまうのですか?」
「もう少しゆっくりしていってもいいのに……」

 私とお姉様は、お祖母様にそう言った。
 彼女がこちらに来てから、私達は様々なことを話し合った。今まであったことやこれからのことを、しっかりと話し合ったのだ。
 その孫と祖母の時間は、とにかく温かかった。それが終わってしまうのは、なんとも悲しいことである。

「……別にこれが今生の別れという訳ではありませんよ。いつか、また訪ねるつもりです」
「お祖母様さえよかったら、こちらで一緒に暮らしても……」
「それはとても嬉しい提案ではありますが、しかし夫を一人にする訳にもいきませんからね」

 私の提案に、お祖母様はゆっくりと首を振った。
 その顔は、少し物悲しい。もしかしたらお祖母様も、この提案を受け入れたいと心のどこかで思っているのかもしれない。
 だがそれでも彼女は、祖父様の傍にいることを選んだようだ。それはつまり、夫に対する愛を貫くということなのだろう。

「……本当に、私達の方から訪ねてはならないのですか?」
「あなた達が私の元に来たら、あなた達の両親に悟られてしまう可能性が高いでしょう」
「でも、お祖母様はもうご高齢です。こちらを訪ねて来るのは大変でしょう?」
「あまり舐めてもらっては困ります。これでもまだまだ若いつもりですからね」

 改めて話しみてわかったことではあるが、お祖母様は意外にも茶目っ気がある人だった。
 その笑顔は、なんだかとても可愛らしい。それを見て私とお姉様は、思わず笑ってしまう。

「……あなた達とこうして話すことができて、私は今とても幸福な気分です。アルネシアも見つかったことだし、これで色々と安心することができました」
「安心、ですか?」
「ええ、残りの人生で果たしたかったことを解決することができたのです。これでもう思い残すことは何もありませんね」

 そこでお祖母様は、少し物騒なことを言い出した。
 先程はまだまだ若いつもりだと言っていたのに、そんなことを言い出されると、少し肝が冷えてしまう。本当にこれが今生の別れにならないのだろうか。なんだか少し心配になってきた。

「お祖母様、縁起でもないことは言わないでください。そんなことを言われると、私はまた失踪したくなってしまいますよ?」
「あら、それは困りますね」
「これからも元気でいてください。私もお姉様も、もっとお祖母様と交流したいのですから」
「ふふ、それならそれを楽しみにしてこれからは生きていくとしましょうか」

 そう言った後お祖母様は、私とお姉様を同時に抱きしめた。
 それが別れの合図だったのだろう。彼女は、荷物を使用人に預けてから笑顔を浮かべる。

「それでは二人とも、これからも元気で仲良くしてくださいね」
「それはもちろんです。失った時間の分、イルフェリアと交流するつもりですよ。どうか、お祖母様もお元気で」
「また必ず会いましょうね、お祖母様」
「ええ、必ず……」

 それだけ言って、お祖母様は私達の前から歩き始めた。
 こうして私達は、お祖母様と別れたのだった。
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