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19.災い再び(モブ視点)

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「……一体何が起こっているというのだ?」
「え、えっと……」
「ふざけるな!」

 アナキシスは、窓の外に広がっている光景に怒っていた。
 報告に来た兵士に、その責任があるという訳ではない。だが、アナキシスの怒りは、他に怒りを向けられる場所がないため、その兵士に向いていた。

「瘴気がまた発生するなど、あり得ないことだ。あれは、ラーナが払ったはずだ」
「し、しかし先日また発生し出しまして……」
「ラーナが失敗したということか……あの役立たずめ!」

 アナキシスは、瘴気が恐ろしいものであることをよく理解していた。ラーナがそれを払うまで、彼はずっとそれに苦しめられてきたのだ。
 そこから国が復興しようとしている中、瘴気が再び発生した。それは国にとって、絶望的な状況であることを表している。

「妖術使いはいないのか?」
「我々が把握している限りでは、ラーナがその最後の一人でしたが……」
「捜し出せ! まだ一人や二人くらいいるだろう」
「お言葉ですが、我々は長年調査を行ってきました。その過程で見つからなかったということは、この国に妖術使いはもういないということです」

 憤るアナキシスに対して、兵士は堂々と反論していた。
 それはアナキシスが、彼の誇りを傷つけたからだろう。彼は、自らの調査には絶対の自信があったのだ。
 その勢いに、アナキシスは少し気圧されていた。故に彼も、現実を理解する。

「残っている妖術使いは、ラーナ以外存在しないということか?」
「そういうことになります。彼女以外は、既に葬り去りましたから……」
「ラーナに、監視はつけているのだったな? 所在がわかっているのなら、連れ戻せばいい」
「しかし……他国に大勢を派遣することはできません。この状況で、国同士の関係を悪化させれば、この国は終わりです」
「……ならば、穏便に交渉するのだ。相手の用件は、この際なんでも飲め。そんなものは、後でどうにでもなる。とにかく、ラーナをここに連れてこい。話はそれからだ」

 アナキシスの選択肢は、多くなかった。
 現状、瘴気を払うことができるのはラーナだけである。他国にいる彼女に、大胆に手出しすることはできない。故にアナキシスは、交渉することを選んだ。それしか彼に、道はなかったのだ。

「くそっ、この俺がここまで追いつめられるとは……許さんぞ、ラーナ。全ては、お前の責任だ。瘴気を払った後、お前には報いを受けてもらうぞ……」

 しかしアナキシスは、戻ってきたラーナを始末しようと考えていた。
 彼は現状を全て彼女のせいにしようとしていたのだ。
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