使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

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 私はエルード様とともに、とある場所に来ていた。
 ここは、とある町の宿屋である。夕方になったので、町で宿をとることになったのだ。
 その宿屋に対して、私は驚きが隠せない。私にとって、この宿屋は衝撃的な場所だったのである。

「……あの、エルード様、本当にここに泊るのですか?」
「ああ、何か不満でもあるのか?」
「いえ、不満なんて……むしろ、豪華すぎるくらいと思っています」

 エルード様が選んだ宿屋は、とても豪華な宿屋だった。
 恐らく、貴族が使う宿屋なのだろう。その内装も設備も、全てが普通ではない。

「別に、私はもっと安い宿でも大丈夫ですよ?」
「貴族が安い宿などに泊れば侮られかねない。ましてや、俺達は公爵家の人間だ。俺達は、町で一番高い宿をとらなければならない存在なのだ」
「そ、そういうものなのですね……」

 エルード様の言葉は、とてもよく理解できた。
 確かに、公爵家の人間が安い宿に泊まっていると、変な噂をされかねない。
 高貴で華やかな貴族。公爵家の人間は、それを示すために、このような宿を選ばなければならないのだ。

「でも、すごいですね……この宿屋の部屋、一番安い部屋でも、私が今まで暮らしていた部屋の倍は広いですよね?」
「……」
「エルード様?」

 部屋の間取りを見て放った私の言葉に、エルード様は表情を変えた。
 それは、私が物置で暮らしていた事実を知った時と同じような顔だ。ということは、彼は今ゲルビド子爵家の行いに対して怒っているということだろう。
 恐らく、私の言葉が彼にその事実を思い出させたのだ。思い出して、改めて怒っているということなのだろう。

「すみません。嫌なことを思い出させてしまいましたね……」
「いや、お前が謝る必要はない。悪いのは、ゲルビド家の連中だ。物置で暮らさせていたなど、今思い出しても腹が立つ」
「エルード様……」

 エルード様は、私のために怒ってくれていた。
 それは、とても嬉しいことである。私の為に怒ってくれる人など、今まで誰もいなかった。母が亡くなってから、私は孤独だったのだ。
 そんな私を思ってくれている人がいる。それが、どうしようもなく嬉しい。こんなに幸福な気持ちで溢れているのは、随分と久し振りである。

「……さて、早く部屋まで行くとするか……これが、鍵だ。ゆっくり休むといい」
「あ、ありがとうございます」

 そこで、エルード様は話を切り上げた。
 確かに、いつまでも話している場合ではない。早く部屋に行って、旅の疲れを癒すべきだろう。
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