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 私とエルード様は、馬車によって移動していた。
 長い旅もいよいよ終わり、目的地に着こうとしている。ラーファン家の屋敷が、見えてきたのだ。

「あそこが……ラーファン家の屋敷なのですね……」
「ああ」
「……ふう」

 窓から屋敷を見て、私は少しため息をついた。
 エルード様から安心していいと言われているとはいえ、やはり緊張してしまうのだ。
 いつも通りの私でいい。そういくら思っても、この心臓の鼓動は収まってくれそうになかった。 

「さて……」
「あっ……」

 そんなことを思っている内に、馬車はゆっくりと動きを止めた。
 本当に、屋敷の前まで来てしまったのである。緊張が加速する私を待ってくれることはなく、馬車の戸は開かれていく。

「行くぞ」
「……はい」

 エルード様の言葉に頷き、私はゆっくりと馬車から下りた。
 緊張しているが、今更引き返すこともできない。私はとにかく前に進むことを選んだのである。

 そんな私の目に入ってきたのは、とても大きな屋敷だった。公爵家の屋敷は、ゲルビド家の屋敷よりもさらに大きかった。それは、まるでその地位を示しているかのようだ。
 馬車から見た時は、あまり実感がなかったが、実際に近づくとその大きさがわかる。一体、こんなに大きくて何の意味があるのだろうか。元平民の私には、あまり理解できないことである。

「お帰りなさいませ、エルード様」
「わかっているとは思うが、こちらがアルシア叔母上だ」
「アルシア様、いらっしゃいませ」
「あ、はい……」

 家に入る前に、既に使用人の人達が出てきていた。
 その中で、老齢の男性が挨拶をしてくれた。恐らく、それなりに立場のある人なのだろう。
 なんというか、とても奇妙な感覚である。少し前までは、私はあちら側だった。こんな風に挨拶されるようになるなど、思っていなかったことだ。
 最も、私はこのように客人の対応などしたことはない。基本的に、掃除などの雑務を任されていたので、これは初めて見る光景である。

「というか……私は、叔母でしたね。なんだか、言われて少し変な感じがしました」
「俺も言っていて、違和感を覚えた所だ。だが、事実だから仕方ないだろう」
「そうですね……」

 私は、使用人の人達に驚いたのと同時に、エルード様に叔母上と言われたことにも驚いていた。
 確かに、血縁関係上、私は彼の叔母になる。だが、なんだかとても変な感じがするのだ。
 年下の叔母というのは、エルード様も結構複雑だろう。私も、年上の甥は頭が混乱するので、同じ気持ちなのではないだろうか。
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