上 下
48 / 48

48.平和な日常

しおりを挟む
「アグナヴァン様、本当に色々とありがとうございます」
「どうしたのだ、急に?」

 私は、ふとアグナヴァン様にお礼を述べていた。
 スウェンド王国の王城に帰って来てから、私はエルムルナ様の補助を続けていた。
 次期聖女として期待されながらも、平和な日々を送っていた私は、今日もいつも通りアグナヴァン様と夕食を取っていたのだ。

「あなたのおかげで、私の命は助かりました。それに、ドルマニア王国を救い、妹と和解することができました」
「別に、それは俺のおかげという訳ではない」
「いえ、あなたのおかげです」

 アグナヴァン様のおかげで、私には色々といいことがあった。
 それについて正式にお礼を言いたくなったのだ。
 ちなみに、妹のホーネリアは現在こちらの国で暮らしている。彼女にとって、私を見捨てた両親の元に帰るというのはあまり気が進まないことであったらしく、私についてくることにしたようだ。

「それで、ですね……その改めてアグナヴァン様に言いたいことあるのです」
「それはお礼ではないことなのか?」
「ええ、そうですね……」

 私は自然と食事の手を止めていた。
 それを見たからのなのか、アグナヴァン様もその手を止めてくれる。
 なんというか、いささかタイミングを見誤ったような気がする。もう少し、いい場があったのではないだろうか。そう思わなくはない。
 とはいえ、私とアグナヴァン様が一日の間で接することができるのは、この場くらいだ。お互い忙しい身であるため、仕方ないと思うことにしよう。

「……私は、あなたの婚約者となれたことを心から嬉しく思っています。あなたのような方に愛していただけているという現状は、私にとってとても幸福なことです」
「む……そうか、そう言ってもらえるのはこちらとしても嬉しい限りだ」
「……はっきりと言って、私はあなたに心惹かれています。順番としては、あべこべになってしまっているかもしれませんが、そう思っているのです」
「……ありがとう」

 私の言葉に、アグナヴァン様はゆっくりとお礼の言葉を呟いた。
 彼の頬は少し赤くなっている。私の言葉に照れているようだ。
 その口から出たのが単調なお礼であるというのもそれの証明だろう。今の彼は恐らく、動揺しているのだ。

「その……どうか、これからもよろしくお願いします。アグナヴァン様が望むなら、私は大丈夫ですよ。いつでも覚悟はできていますから」
「それは……」
「……さあ、食べるのを再開しましょう。いつまでも手を止めていると料理が冷めてしまいますから」
「いや、だが……」

 私は、照れ隠しに料理を口に運んだ。
 そんな私に対して、アグナヴァン様はぽかんとしている。
 こうやって見ていると、彼の凛々しい王子としての一面が嘘のようだ。そんな一面もあるからこそ、私は彼のことが好きになったのだろうとは思っているのだが。
 そんなことを考えながら、私はアグナヴァン様とともに生きるこれからの幸福な日々に思いを馳せるのだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

as
2022.07.14 as

あれ、バカ王子はどうなったんですか?

木山楽斗
2022.07.14 木山楽斗

感想ありがとうございます。
彼も、自分の愚行を反省していると思います。

解除
オラトリオ
2022.07.10 オラトリオ

44話、闇の魔力が一ヶ所病みになっている。

木山楽斗
2022.07.11 木山楽斗

ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきます。

解除
as
2022.06.21 as

あの王のことだし、罪人だから我が国で引き取るとか無理やり連れていきそう。

木山楽斗
2022.06.22 木山楽斗

感想ありがとうございます。
今後の展開に、ご期待いただけると幸いです。

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

令嬢はまったりをご所望。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,829pt お気に入り:21,439

婚約破棄を宣告された公爵令嬢は猶予をもらった。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:116

俺の妹になってください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:773pt お気に入り:9

どうやら我が家は異世界と繋がったらしい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1,233

憂鬱喫茶

ホラー / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:0

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:504pt お気に入り:348

二番煎じな俺を殴りたいんだが、手を貸してくれ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:404pt お気に入り:0

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。