まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗

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28.変わらないこと

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「……セディルスさんも、悩んだのですか?」
「……悩みましたね。自分という存在が、どんどんとわからなくなっていきました」

 セディルスさんの境遇は、私と同等かそれ以上に厳しいものであるだろう。
 自分が異国の王家の血を引いている。その事実を受け止めるのは、難しかったはずだ。

 しかし今彼は、笑顔を浮かべている。それはその件について、ある程度の決着をつけられていなければ、出ないものであるだろう。

「よく乗り越えられましたね」
「乗り越えたかどうかは、自分でもよくわかっていません」
「え?」
「ただ私は、私でしかないということに気付いたのです。自分のルーツがどこにあろうとも、変わらないものが――変えられないものがあると思うようになったのです。それは諦めのようなものかもしれませんが」
「……」

 セディルスさんの言葉に、私はこの王城に招かれた時のことを思い出していた。
 あの時の私は、自分が王家の一員であるという事実に戸惑いながらも、なるようにしかならないと考えていたような気がする。
 あの時の私は、今よりもずっと強かだったといえるだろう。私はその強さを取り戻さなければならない。

 そもそもの話、王家という強大な渦の中で私がもがいた所で、何かできる訳ではないのだ。それに関しては、ここに来てからずっと変わっていないことである。
 悩んだ所で仕方ない。私は事実を受け止めて、前に進むしかないのだ。ここで後ろ向きになった所で、事態が好転するなんてあり得ないのだから。

「セディルスさん、ありがとうございます。お陰で大切なことを思い出すことができました」
「……お役に立てたというなら、何よりです」
「あなたという友人がいてくれて、幸いでした。これは中々、誰かに相談できることという訳でもなかったので」
「私で良ければ、いつでも相談に乗りますよ」
「助かります。これからも頼らせていただきますね」

 セディルスさんと話せたことは、私にとってとても幸運なことだったといえるだろう。お陰で私は持ち直すことができた。
 心機一転して、これからも頑張っていけそうだ。もっとも、私が頑張らなければならないようなことがある訳でもないのだが。

「さてと、私はそろそろ仕事に戻ります」
「仕事……そうですよね。私も戻らなければなりません。これでも一応、アゼルト殿下のお世話係ですからね」

 セディルスさんは、色々なことがあった訳だが、今は騎士見習いとして務めている。そんな彼のことを、私は少し見習うべきかもしれない。
 今の私は、アゼルトお兄様のお世話係だ。表向きの役職に過ぎないといっても、それが今の私が務めるべきことだろう。少しやる気も出てきたし、頑張ってみるのも良いかもしれない。
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