私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗

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5.婚約破棄を告げられて

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「婚約が決まって早々で悪いが、君との婚約は破棄させてもらいたい」
「……」
「僕はイルミナ嬢と婚約させてもらう。ああ、オルファン侯爵には既に了承を得ている。喜んでくださったよ。見る目があるとも言われた。オルファン侯爵家は、僕と彼女で守っていく。君は不要ということだ」

 お父様との話を終えたミルガス様に呼び出された私は、彼から婚約破棄を告げられることになった。
 イルミナと話している所を目撃したため、その言葉に特に驚きはない。二人は分かり合っていたようだし、こうなるのではないかと思っていた。
 それはもちろん、私にとって望ましいものではない。オルファン侯爵家が、二人の手に落ちるということは、終わりを意味しているとさえいえる。

「イルミナのことが気に入りましたか?」
「ああ、君よりも彼女の方が好感が持てるからな」
「私からすれば、彼女はわがままな妹でしかありませんが……」
「多少わがままな妹の方が可愛げがあるというものだ」

 念のために聞いてみたが、ミルガス様はあの妹のことを大そう気に入っているようだった。あの短い会話の中で、どこまで彼女のことを感じ取ったのかはわからないが、その笑顔からはそれがよく伝わって来る。

「……きっと後悔することになりますよ」
「なんだと?」
「いえ、なんでもありません」

 私は、ゆっくりと立ち上がって首を横に振った。
 こういった状況になった以上、私はオルファン侯爵家に留まっていられない。それがわかっているからだ。

 イルミナもその母親であるホラリーナも、それからお父様も、私のことは利用する道具としか思っていない。その利用するための婿を迎える立場というものが崩れ去ったのだから、彼女達は私とお母様を追い出そうとするだろう。
 それなら、こちらから出て行くまでの話だ。一々戯言を聞くのも癪であることだし。

「私はこれで失礼させてもらいます」
「……別に僕は構わないが、いきなりだな? 潔く負けを認めたという訳か」
「まあ、好きなように思っていてください」

 イルミナとミルガス様が繋がり、二人の関係をお父様が認めた。その事実がある以上、私がいくら足掻いても無駄だ。
 オルファン侯爵家を守りたいという気持ちはある。だが、私はどこか冷めてもいた。オルファン侯爵家は滅びゆく定めなのではないか。そんな考えも、私の中にはあったからだ。

 お祖父様が受け継いだ誇りが、お父様に継承されなかった。その時点で、オルファン侯爵家は失敗していたといえる。
 それによって淘汰されるというなら、仕方ないことなのかもしれない。そう思いながら、私はその場を後にするのだった。
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