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第7話 穏やかなる弟

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 私は、ウルーグとの談笑を終えて、中庭まで来ていた。
 中庭にも、見知った人がいた。弟のエルディンである。
 エルディンは、三つ子の一番下の弟だ。少し気弱だが、とても温かい性格をしている私の自慢の弟である。

「姉さん……」
「エルディン、少し隣いいかしら?」
「うん、もちろんいいよ」

 私は、ベンチに座るエルディンの隣に腰掛ける。
 中庭は緑に囲まれており、とても癒される場所だ。きっと、エルディンも癒さられるために来たのだろう。

「……事情はよくわからないけど、姉さんは大変みたいだね」
「え? ええ、そうね。実は、色々とあってね」
「まあ、後で父さんから聞くと思うから、今はいいよ。そんなことより、姉さんと他愛のない話がしたいな」
「……ええ、それなら、そういう話をしましょうか」

 事情を話そうとした私を、エルディンは止めた。
 彼は、私と過ごせるこの時間に暗い話はしたくないと思ってくれているようである。
 それは、私も嬉しかった。せっかく話すなら、暗い話より明るい話の方がいいからだ。

「最近、エルディンは元気?」
「元気……うーん、あんまり元気はないかな。姉さんもゆっくりと話せなかったし、兄さん達も色々と忙しいし、心を落ち着かせる時間があんまりなかったというか……」
「そうなのね……」

 エルディンは、結構寂しがり屋さんである。
 私やイルルドやウルーグと一緒にいたい。そういう気持ちが強い子なのである。
 そんな彼にとって、私達と話せる時間が少なかったというのは、とても苦しかっただろう。もっと話せる時間を取ってあげればよかった。今更そう遅いが、私は少し後悔していた。

「エルディン、ここに寝転がって」
「え?」
「いいから」

 私の言葉に従って、エルディンはベンチの上で寝転がった。
 その頭は、私の膝を枕にしている。所謂、膝枕の形だ。

「ごめんなさいね、あなたに寂しい思いをさせて……」
「……別に、姉さんのせいではないよ。わかっているんだ。皆がずっと一緒にいられる訳ではないことなんて。本当は、もっと僕が大人にならないといけないんだ……」
「ええ、でも今は、お姉ちゃんに甘えていいのよ」
「うん……」

 私は、エルディンの頭をゆっくりと撫でた。
 この寂しがり屋な弟は、強くなろうとしている。その意思を否定するつもりは、まったくない。
 だが、無理をして倒れたりしてしまったりしてはいけない。適度に支えて、適度に突き放す。そういう風にして、強くなってもらった方がいいだろう。
 ただ、心配なのは私が突き放せるのかということだ。こんなにも可愛い弟に、姉離れしろなどといえるのだろうか。
 結局、私も弟離れしなければならないのかもしれない。エルディンだけではなく、私も強くなる必要があるようだ。
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