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 私は、第二王子のイルファー様に呼び出されていた。
 彼は、私と婚約したいと言ってきたのである。
 どうやら、イルファー様は厳しい教育を受けたフォルフィス家の人間を欲しているらしい。
 それは、利己的な考え方だ。感情ではなく、利益で考える婚約である。

「フォルフィス家の優秀な人材は、王家に必要なものだ。少なくとも、私はそう考えている」
「そうですか……」

 しかし、それは当たり前のことだ。貴族の婚約など、利益で考えるのが基本である。
 だから、私もその当たり前の考えに乗っ取ることにした。彼との婚約が、どれだけの利益になるか、それを考えるのだ。

「そちらとしても、利益はあるだろう?」
「ええ、利益しかないと思っています」

 だが、それは考えるまでもないことである。
 第二王子の妻。それは、とても大きな地位だ。彼が王子という事実だけで、その利益は計り知れないものになる。
 だから、迷う必要はなかった。私はただ、彼の言葉に頷けばいいだけである。

「それなら、迷う必要はない。私と婚約を結べ」
「……」

 そういう風に考えるのが、普通だろう。
 だが、私はその考えを一度切り捨てることにした。
 何か、違和感があるのだ。彼が、このような交渉をすることに、どのような意味があるのだろうか。

「どうした?」
「私は……」

 彼の言葉は、納得できないものではない。
 強い一族の血が欲しい。それは特に驚くべきことではないだろう。
 しかし、前提条件が少しおかしい。彼が私にこの交渉を持ち掛けたのは、私が婚約破棄したからだ。
 そんなあるかどうかわからないような事象を、彼が待っていたというのだろうか。
 何かがおかしい。決定的に、何かが欠けているのだ。

「……一つお聞きします」
「ほう?」
「イルファー様のその考えは、いつ思いついたものなのでしょう? 私が婚約破棄したのは、つい最近のことです。ずっと前から、そのような考え方をしていた訳ではないでしょう? どうして、そのようなことを思うことになったか、それを聞かせていただけませんか?」
「ふっ……」

 私の質問に、イルファー様は口の端を歪めて笑った。
 それは、私のこの質問に喜んでいるように見える。

「賭けは……私の勝ちだったようだな」
「賭け?」

 イルファー様の言葉に、私は訳がわからなくなっていた。
 何故急に、賭けなど言い出したのか、まったく理解できない。

「え?」
「ふっ……」

 そう思っていた私の目は、部屋の奥から歩いてくる人物に気づいた。まるで、イルファー様の言葉に応えるかのように、その人物は歩いて来たのだ。

「なっ……」

 その人物が歩いてくるという事実だけでも、驚くべきことである。
 この会話の中で、誰かが入ってくるなど、普通はあってはならないことだからだ。
 だが、私はそこで二重に驚くことになった。なぜなら、歩いてくる人物が、私の知っている人物だったからである。

「久し振りだね……姉さん」
「ルヴィド……」

 部屋の奥から歩いて来た弟に、私は驚くことしかできなかった。
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