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7.王家の姉弟
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アドラーク王国の王城の客室にて、私はウォルファン殿下とイルファナ姫と対峙していた。
本来であれば、この二人と関わるなんてことはなかったはずだ。何の因果でこうなったのか、改めて考えてみると不思議なものだ。
「さて、ウォルファンが言った通り、あなたのことはアドラーク王国が責任を持って面倒を見させえてもらうわ」
「……姉上? なんだか少し機嫌が良いように見えますが」
「そうかしら?」
イルファナ姫は、ウォルファン殿下の判断を支持していた。彼女の深い頷きからは、私に対する気遣いのようなものがあったような気がする。
ただ今の彼女は、なんだか廊下の時とは雰囲気が違う。少し喜んでいるように見えるのは、私の気のせいなどではないはずだ。
「そうかもしれないわね。まあもちろん、フェルリアさんの現状は嘆かわしいものだけれど、正直な所私にとっては嬉しい面もあるもの」
「嬉しい面、ですか?」
「ええ、あなたは優秀な魔法使いでしょう? 今回の件は、私からしてみれば人材を確保できたと考えることもできるのよ」
イルファナ姫は、本当に喜んでいるようだった。
しかしその言葉は、私にとっては微妙な所だ。彼女から評価されていること自体は、嬉しく思えるものなのだが。
「姉上、それはあんまりな物言いではありませんか。フェルリアさんは……」
「でも、アドラーク王国としては死活問題だったもの。聖女が務まる人材ということに関してはね。色々と誤魔化していたけれど、そろそろ限界だったでしょう?」
「誤魔化していた?」
イルファナ姫の言葉に、私は少し目を細めることになった。
満面の笑みを浮かべる彼女の横では、ウォルファン殿下がまた微妙な顔をしている。その表情からは、なんというか事情が見えてきた。
「……まさか、会談で言っていたことは嘘だったのですか?」
「ええ、そうよ。病弱な聖女候補なんていないわ。あれはあの場をやり切るための方便よ」
「なっ……」
涼しい顔でとんでもないことを言うイルファナ姫に、私は思わずウォルファン殿下の方を見た。
すると彼は、ゆっくりと首を縦に振る。つまり会談で言ったことは、真っ赤な嘘だったということだ。
それは驚くべきことである。なんだかあの場で納得していた自分が、少し恥ずかしい。
「聖女を務められる者が、この国には私しかいなかったのよ。フェルリアさんは知っているかしら? 近年は魔法使いの質が上がっているということを」
「え? そうなのですか? それは知りませんでした……でも、質が上がっているなら聖女候補はいるのではないのですか?」
「それがそうでもないのよ。全体の質は上がっているけれど、特筆した才覚を持つ者は減っているの。不思議なものだけれどね」
魔法使いの全体的な事情などについて、私は無知であった。
しかしイルファナ姫がそう言っているのだから、本当に聖女が務まるような者というのは数少ないということなのだろう。王女である彼女の知識に、誤りなどはないはずだ。
だが、ザルード殿下は私の代わりなどいくらでもいると言っていた。イルファナ姫の言葉が本当であるならば、あれは彼の強がりだったとでもいうのだろうか。
「現状の聖女というものは、特筆した力を求められるわ。そういった力があるからこそ国の象徴となり、外敵を遠ざけることもできるもの。まあ、何れは個ではなく全という形で国を強力にしていきたいものだけれど……」
「ともあれ、今は聖女が必要なことは事実です……しかし待ってください、姉上はまさか、フェルリアさんを我が国の聖女として登用しようというのですか?」
「ええ、そのつもりだけれど」
ウォルファン殿下の言葉に、私も自分が失念していたことに気付くことになった。
イルファナ姫は、私をアドラーク王国の聖女にしようとしている。その事実に気付いた私は、ウォルファン殿下とともに思わず目を丸くしてしまった。
本来であれば、この二人と関わるなんてことはなかったはずだ。何の因果でこうなったのか、改めて考えてみると不思議なものだ。
「さて、ウォルファンが言った通り、あなたのことはアドラーク王国が責任を持って面倒を見させえてもらうわ」
「……姉上? なんだか少し機嫌が良いように見えますが」
「そうかしら?」
イルファナ姫は、ウォルファン殿下の判断を支持していた。彼女の深い頷きからは、私に対する気遣いのようなものがあったような気がする。
ただ今の彼女は、なんだか廊下の時とは雰囲気が違う。少し喜んでいるように見えるのは、私の気のせいなどではないはずだ。
「そうかもしれないわね。まあもちろん、フェルリアさんの現状は嘆かわしいものだけれど、正直な所私にとっては嬉しい面もあるもの」
「嬉しい面、ですか?」
「ええ、あなたは優秀な魔法使いでしょう? 今回の件は、私からしてみれば人材を確保できたと考えることもできるのよ」
イルファナ姫は、本当に喜んでいるようだった。
しかしその言葉は、私にとっては微妙な所だ。彼女から評価されていること自体は、嬉しく思えるものなのだが。
「姉上、それはあんまりな物言いではありませんか。フェルリアさんは……」
「でも、アドラーク王国としては死活問題だったもの。聖女が務まる人材ということに関してはね。色々と誤魔化していたけれど、そろそろ限界だったでしょう?」
「誤魔化していた?」
イルファナ姫の言葉に、私は少し目を細めることになった。
満面の笑みを浮かべる彼女の横では、ウォルファン殿下がまた微妙な顔をしている。その表情からは、なんというか事情が見えてきた。
「……まさか、会談で言っていたことは嘘だったのですか?」
「ええ、そうよ。病弱な聖女候補なんていないわ。あれはあの場をやり切るための方便よ」
「なっ……」
涼しい顔でとんでもないことを言うイルファナ姫に、私は思わずウォルファン殿下の方を見た。
すると彼は、ゆっくりと首を縦に振る。つまり会談で言ったことは、真っ赤な嘘だったということだ。
それは驚くべきことである。なんだかあの場で納得していた自分が、少し恥ずかしい。
「聖女を務められる者が、この国には私しかいなかったのよ。フェルリアさんは知っているかしら? 近年は魔法使いの質が上がっているということを」
「え? そうなのですか? それは知りませんでした……でも、質が上がっているなら聖女候補はいるのではないのですか?」
「それがそうでもないのよ。全体の質は上がっているけれど、特筆した才覚を持つ者は減っているの。不思議なものだけれどね」
魔法使いの全体的な事情などについて、私は無知であった。
しかしイルファナ姫がそう言っているのだから、本当に聖女が務まるような者というのは数少ないということなのだろう。王女である彼女の知識に、誤りなどはないはずだ。
だが、ザルード殿下は私の代わりなどいくらでもいると言っていた。イルファナ姫の言葉が本当であるならば、あれは彼の強がりだったとでもいうのだろうか。
「現状の聖女というものは、特筆した力を求められるわ。そういった力があるからこそ国の象徴となり、外敵を遠ざけることもできるもの。まあ、何れは個ではなく全という形で国を強力にしていきたいものだけれど……」
「ともあれ、今は聖女が必要なことは事実です……しかし待ってください、姉上はまさか、フェルリアさんを我が国の聖女として登用しようというのですか?」
「ええ、そのつもりだけれど」
ウォルファン殿下の言葉に、私も自分が失念していたことに気付くことになった。
イルファナ姫は、私をアドラーク王国の聖女にしようとしている。その事実に気付いた私は、ウォルファン殿下とともに思わず目を丸くしてしまった。
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